雨を集める宇宙港 第13話「第12章:エピローグ――虹の架け橋」
一年後。 カナタは一人前の整備士として、宇宙港の最上部、高度五千メートルのメインバルブの点検を任されるようになっていた。 かつて死闘を繰り広げたその場所は、今では定期的なメンテナンスが行き届き、穏やかな風が吹き抜ける静かな場所だ。エドワードたち公社の旧幹部たちは、長期の社会奉仕刑に服しており、宇宙港の管理は完全に民営化された国際組織に移譲されている。 カナタは作業の手を止め、ヘルメットのバイザーを上げた。 高度五千メートルの空気は依然として薄いが、そこにはかつての「拒絶」の冷たさはなかった。 「……父さん、見てる?」 通信機をオフにして、カナタは呟いた。 父レンは現在、世界各地の干ばつ地帯を回
一年後。
カナタは一人前の整備士として、宇宙港の最上部、高度五千メートルのメインバルブの点検を任されるようになっていた。
かつて死闘を繰り広げたその場所は、今では定期的なメンテナンスが行き届き、穏やかな風が吹き抜ける静かな場所だ。エドワードたち公社の旧幹部たちは、長期の社会奉仕刑に服しており、宇宙港の管理は完全に民営化された国際組織に移譲されている。
カナタは作業の手を止め、ヘルメットのバイザーを上げた。
高度五千メートルの空気は依然として薄いが、そこにはかつての「拒絶」の冷たさはなかった。
「……父さん、見てる?」
通信機をオフにして、カナタは呟いた。
父レンは現在、世界各地の干ばつ地帯を回り、小型の捕雨装置を設置する技術指導を行っている。親子は離れて暮らしているが、同じ空を見上げているという確信があった。
ふと見ると、ラダーの隅に、小さな青い花が咲いているのが見えた。
それは、ナノ繊維の隙間に溜まったわずかな土と、散布される霧によって育った、この高度ではありえないはずの命だった。
「こんなところでも、生きようとしてるんだな」
カナタは微笑み、その花に指先で触れた。
技術は、独占のためにあるのではない。こうした小さな命を、一つでも多く守るためにあるのだ。
カナタは再びレンチを握り、次の点検箇所へと向かった。
背後で、捕雨膜が風に揺れて、シャラシャラと鈴のような音を立てた。
それはまるで、地球という巨大な生命体が、満足げに漏らした溜息のように聞こえた。
空には今日も、軌道エレベーターと重なるように、巨大な虹の橋が架かっている。
その橋は、宇宙と地上を繋ぐだけでなく、過去の過ちと未来の希望を、分かち合う心でしっかりと結びつけていた。
カナタはもう一度だけ空を見上げ、それから迷いのない足取りで、自分の持ち場へと戻っていった。
雨を集める宇宙港を巡る、親子と大地の物語は、ここで一度静かに幕を閉じる。だが、降り注ぐ雨が乾いた大地を潤し、川となり、海へと至るその循環が続く限り、新しい希望の物語は、世界の至る所で力強く芽吹き続けるだろう。
空は、誰のものでもない。それはかつて父が命を懸けて守ろうとし、カナタがその手で証明した真実だ。
だからこそ、私たちはこのどこまでも続く美しい青を、そして降り注ぐ恵みを、明日へと繋ぐために永遠に分かち合うことができるのだ。その虹の向こう側には、まだ見ぬ誰かの笑顔が、確かに待っているのだから。