星商いの夜

星商いの夜 第5話「第4章|星商いの夜」

波が桟橋へ寄せる音が、荷綱の擦れる金属音とぶつかり合って港を満たしていた。白昼商会の船団は低く停泊し、帆に描かれた白い紋章が月に白く浮かんでいる。甲板の人影は多く、荷が静かに、だが規則正しく動いている。透は帳面を胸に抱え、桟橋の先からその動きを見つめた。胸の内の群青の天秤は静かに揺れている。今朝決めた「由来」欄──発見者の署名を加えることは、帳簿という鈍い武器を市場に与えるための最初の一手だった。

波が桟橋へ寄せる音が、荷綱の擦れる金属音とぶつかり合って港を満たしていた。白昼商会の船団は低く停泊し、帆に描かれた白い紋章が月に白く浮かんでいる。甲板の人影は多く、荷が静かに、だが規則正しく動いている。透は帳面を胸に抱え、桟橋の先からその動きを見つめた。胸の内の群青の天秤は静かに揺れている。今朝決めた「由来」欄──発見者の署名を加えることは、帳簿という鈍い武器を市場に与えるための最初の一手だった。

「向こうの箱、見て」ミナが指先で差し示す。暗がりに紛れる箱の側面に、王都の星印に酷似した金の箔押しがある。だが透の目には、ほんの僅かな欠けが見えた。金箔の線が、本物の印よりも少し低い位置で止まり、王家の紋の曲線が微かに狂っている。商会の偽造品だ。だがそれだけでなく、箱の横に添えられた紙片の余白には、見慣れた算記号のような印が鉛筆で押されていた。透は一瞬、過去の帳簿をめくる癖で目を細める。そこに、前世の会社で見た判子と似た線があるような、気のせいのような既視感が過る。

「ノクス、やるか」ミナが小竜の頭を撫でる。ノクスは舌をぺろりと出して箱の周囲を嗅ぎ、紙片の匂いに鼻を寄せた。小さな歯が紙を噛む音がして、ノクスは紙の小片を吐き出す。透はそれを受け取ると、紙の裏に幼い手の走り書きがあるのを見つけた。丸い顔、飛行する鳥、小さな手。落書きだ。だが落書きの線は、王家の印よりずっと古いリズムを持っているように見えた。

「発見者の記録だ」ミナが囁く。彼女の瞳は赤い値札布の色に似て、何かを決意したように燃えている。「ここにも、あの子たちがいる」

「偽造のために、発見の痕跡を消しているんだ」セドが荷役を回ってきた。元税務官の声には冷静さが戻っていたが、その輪郭に僅かな痛みがある。彼は箱を手に取り、金箔の印を指先でなぞる。「本物の印とは微妙に刻みが違う。だが、巧妙だ。鋳型を作る者がいる。王都の管理部門をすり抜けるための偽造だ」

ガロは箱の横に置かれた星瓶の端を指で叩いた。金属の軽い音がする。だがガロが共鳴させると、音に違和感が生じた。本来なら澄んだ高い和音に乗るべき星の響きが、どこかこもっている。瓶の内部に閉じられた星の螺旋は細く回り、でもその回転の周期が微かに乱れている。

「音が歪んでる」ガロが短い声で言う。「元の持ち主のリズムが抜け落ちている。模造は外観だけを真似、音を再生する技術が伴っていない。あるいは、音そのものを加工している」

透は手元の帳面を開き、新しい頁に線を引いた。使用権取引所の設立、由来記録の項目、救難札配備と延長の投票方法。桟橋の潮の匂いが帳面の角を湿らせる。だが彼の視線は箱の余白に押された薄い鉛筆印に戻った。そこには確かに、懐かしい算記のような記号が隠れている。紙の隅に、まるで計算のために置いた印のように小さく、二つの円と連なる短い線があった。それは前世で、空と権利を金銭に置き換えるために何度も見たような決算記号に似ていた。透の胃が冷たく沈む。

「それ、見覚えがあるのか?」セドが言った。彼は透の表情を見て、かすかに眉を上げる。

透は首を振りながらも、その気配を押し込みきれなかった。「……どこかで、似た印を見たんだ。だが今はそれを証拠にする必要はない。まずは偽物を市場から隔離し、被害を受けた者に補償する方法を作る」

「補償か」ミナが腕組みし、風に赤い値札布をはためかせた。「ここにいる人たちの多くは、星を買うために貯めた金をつぎ込む。偽印で売られた星は、効能も由来も保証されない。誰かが騙されたままじゃ済まないよ」

セドは箱の横に置かれた売買契約書の束をめくった。そこには局職員の印、交易業者の署名、そして王都の証人の朱印が押してある。朱が透の目に刺さった。だが透は朱印の下の余白に、まるで誰かが鉛筆で書き足したような小さな算記を見つける。それは彼が嫌でも記憶に呼び覚まされる記号だった。前世の帳簿に刻まれていた、取引の控えにつける小さな漏れの印。

「……セド、君のときの徴税印の設計は、当時どれほど広く使われていた?」透はためらいながら尋ねた。問いは重かった。透は嘘を混ぜることができない。署名の真実は彼の記憶を消す代償につながる。だが知る必要があった。

セドは紙を見つめ、瞳の奥に昔の帳簿のページをめくる光景が浮かんだように見えた。「私が徴税官だった頃、処理を早めるために統一様式を作った。役所間でのやり取りを簡便にするためだ。悪用されるとは思わなかった。鋳型が複製機で量産され、非正規の流通経路に渡ることを想像できなかった。もしそれが私の設計に基づくものなら──」

彼は言葉を詰まらせた。昔の自分の合理主義が、目の前で綻びとなって現れている。セドの手がわずかに震え、掌の内側に小さな傷跡のように過去の抑圧が見える。

「私が補償する」とセドは言った。声は低く、揺らぎがあった。「逃げも隠れもしない。私が署名して、責任を取る。偽造の被害を受けた者たちに、私の署名で補償する。帳簿に私の名を載せる」

その言葉に周囲が静かになる。ミナは目を見開き、ガロが腕組みを解く。イリヤはいつものように左手を三度だけ開閉し、その指の隙間から金色の粉がほろりと落ちた。それはまるで祈りの儀式のようでもあり、また帳簿へ記す新しい証人の誕生の合図のようでもあった。

「君はそれを認めるか?」透はセドの顔をまっすぐに見た。ここでの決定は単なる責任の所在を越える。市場の信用を取り戻すための誠実な署名が必要なのだ。偽りの署名は、透の能力規則にある通り、誰かの記憶を代償にする。セドが嘘をつけば、透の大切な記憶が削られる。だからこそ、ここでは真実だけが価値を持つ。

「はい」セドは肩を落とすようにして頷いた。「私が設計した様式が、そのまま使われた。過去の私の仕事が、こんな形で人を傷付けることになるとは思わなかった。だから私は、自分の署名で補償の約定を立てる。誰かの未来を勝手に売り払わせたなら、私はそれを清算する」

彼は静かに懐から小さな墨箱を取り出し、証文に自分の名前を刻んだ。親指が震える。だがその震えには確固たる意志が乗っていた。透はその筆跡を見て、過去の彼に似た慎重で堅実な線を思い出した。そこにあるのは逃げる男の手ではなく、受け止める男の手だ。

ガロは星瓶をもう一度叩いた。共鳴器の設計図が頭に浮かぶ。彼は偽造星を物理的に鑑別する試験を行うと宣言した。音の波形、瓶の厚み、封印の熱処理痕、それらを記録して公的な鑑定表を作る。誰もがその表を参照できれば、偽造は見破りやすくなる。ミナは赤い値札布を高く掲げ、港の通りを走り回って偽造品の搬入口を探し、被害者たちを纏め上げると約束した。

透は帳面に指を走らせながら、一行を付け加えた。「由来記録は必須とする。発見者の走り書き、由来札の原本、そして鑑定結果を添付。公文書には余白を残し、後から第三者が改竄できないようにする。秘密裏の交換は一切認めない」彼の筆は淡々と進む。署名欄はまだ空けたままだ。透は自分の本名を封じたまま置く。契約は真実でなければならない。だが彼自身の署名は、ここでまだ使うべきではないと感じた。

桟橋の向こうで、白昼商会の代理人が船の側で腕を組んでいるのが見える。