学園機甲部の合唱隊

学園機甲部の合唱隊 第23話「第21章」

朝の光が学園の煉瓦塀を白く撫でるころ、正門の外から轟音と群衆のざわめきが届いた。普段なら通学の足音や自転車のベルが混ざる時間帯だが、今日は違う。笛のような合図と低いコーラスが、門柱の影を震わせていた。

朝の光が学園の煉瓦塀を白く撫でるころ、正門の外から轟音と群衆のざわめきが届いた。普段なら通学の足音や自転車のベルが混ざる時間帯だが、今日は違う。笛のような合図と低いコーラスが、門柱の影を震わせていた。

「来た」理央の声が低く、だが確かな震えも含んでいた。彼は校庭に設置した臨時の広報局に向かって走り、手にしたメガホンのボタンを握りしめる。茜は指揮台に立ち、譜面を貼り付けたボードをしっかり押さえた。矢野は時計塔の屋根に這い上がって、昨夜組み上げた共鳴アンテナの最終調整をしている。咲良は音楽室の窓際で封筒を握りしめ、胸の鼓動をゆっくりと数えた。真理は、校舎の背側にある小さな鉄製の円形舞台の真ん中に立っている。彼女の顔には決意と静かな痛みが混ざっていた。

門から飛び込んできたのは翳声会の別働隊だ。黒いフードの一団が組織立って進み、彼らの前に幾つかの小型機が静かに置かれていた。白桐残党の遠隔操作で眠らされていたという小さな機体群——学園が以前に確認したものと同型の、デザインが古風な試作機が、今や蜂のように目覚めつつあった。遠目に見るその姿は、機械のラインに音のバイブレーションを掻き立てるように、低い発光を吐いている。

「市役所へ通報は済んでる。警察も向かわせているが、時間がかかる」理央が報告する。「今ここで押さえないと、彼らは門を突破して校舎に侵入するつもりだ」

茜がうなずく。「私たちの仕事は防御だ。歌で機甲を起動するんじゃない。安定させる。示威行動や挑発に乗らないように、皆を導く」

だが矢野の端末が突然、甲高い警告音を立てて皆の視線を奪った。彼は手早く解析画面を確認し、顔色を変えた。「遠隔制御信号が来てる。パケットに──いや、音律符号の断片が混ざっている。意図的な不協和だ。翳声会のやり方だよ、不協和符号で空白を作って、機体に暴走のトリガーを与える」

「禁じられているはずのやり方だ」茜の声が硬い。「合唱外での歌詞使用、意図的な不協和。どちらも音律協定で重罰に値する。だが彼らは規制の網を熟知している。遠隔機に符号を混ぜて、学園の和音を崩そうとしているんだ」

咲良の喉がひくりと震えた。空白──それは、彼女たちがこれまでに幾度も恐れてきた言葉だ。声が欠けることで機体が「穴」を埋めるために搭乗者の潜在感情を増幅し、制御を失う。第六章の悪夢が、今まさに再来しようとしている。

「共鳴アンテナを全開にして、一時的に射程を伸ばす」矢野は指示を出した。「だが遅延が出る。遠隔同調はタイムラグが致命的だ。心拍の同期が一拍ずれるだけで音程も位相も崩れる。あれが起きれば、機体は『補填』の対象を内部に探し始める——つまり、人の感情だ」

「私たちはやるべきことをやる」真理が静かに言った。彼女は封筒を胸に押し当て、視線を咲良へ向けた。「封じは私がする。あとは皆で私を支えてほしい。コアの四声は私を含めて組む。咲良、あなたは補完の一人であることを忘れないで。導音はだめ。あなたの代償は大きすぎる」

咲良は息を整える。昨夜、幼い頃の母の顔が泡のように弾けて消えた。母の名前はあと少しで指先から落ちていきそうになった。彼女はその喪失を仲間に見せたくなかったが、今は隠せない。声として歌うことが、また何かを奪うかもしれない。

「私、言っておく」咲良は小さく、だが確かに声を出した。「もし私が歌ったら、もっと……消えるかもしれない。母の笑いとか、子どもの頃の風景とか。封じの波に巻き込まれると、感情の断片が飛ぶ。だけど、私は行く。真理さんの封じを、皆で補うために」

茜がすっと息を吸ってから、咲良の手を取る。「その代わり、私たちが全部はあなたに預けない。分ける。心拍も分かち合う。歌は一人の荷物にしないと約束する」

理央が拡声器を取り、安心感のある声を地域へ向けて広げる。「住民の皆さん、校庭の東側と西側に避難ラインを敷きます。年配の方々は我々の合唱班と一緒にいてください。あなた方の声が必要です。百合子さん、お願いできますか?」

老婦人の百合子さんは、背が少し曲がりながらも毅然と立ち上がった。「ええ、私たちの歌は力になれる。瑞音さんの歌を忘れることはできない。あの旋律の最後の一行を今日、皆と一緒に歌うわ」

住民が動く。子どもたちは保護者の腕の中で震え、教師や職員は救急と避難誘導に回る。学園は一瞬で合唱と防衛のための人海戦術に切り替わった。茜が配置図を示し、誰がどの節を担うかを指示する。四声以上を維持するために、地域の合唱グループ、教師、部員、さらに参加を表明した保護者までもが、心拍センサーを装着する。矢野は分散ノードを屋上に、街路灯にと取り付け、アンテナからの信号を一時的に延伸していった。

だがそのとき、校庭の端で小型機の一体が先に起動してしまった。発光が急速に激しくなり、機体は振動を伴って脚部をばたつかせた。集まった人々からどよめきと恐怖が漏れる。慌てて逃げる学生もいた。茜が叫ぶ。「声を上げるな! 落ち着いて、呼吸を整えて!」

矢野の端末が叫ぶように震えた。「制御信号が変化した。不協和符号が強化されている。向こうから明確に『空白を作る』目的の波形が来ている。もしこちらの合唱が揺らげば、機体は近傍の人間の感情を拾って暴走する!」

そこから数秒の間に、咲良の世界は確実に縮まった。彼女の鼓動は高鳴り、手が震える。空気が厚く、音が粘るように感じられた。四声——それは単なる技術の要件ではない。それは安全の鎖であり、破れると怪物を招く紐だった。彼女は自分が何を失うかを知っているから、歌うことを躊躇うのだ。だが今、誰かが恐れて沈黙すれば、代わりに空白が生まれる。

「理央、皆の心拍表示を見て。ばらつきはどこだ」茜が低声で命じる。

理央はモニターを操作する。小さな光の点が校庭に点在する。ほとんどは安定しているが、東側の年配者の集団に一つ、不規則な揺らぎが見られた。恐怖の波が一つだけ異様に高い。それが引き金になれば、近くの機体が反応してしまう。

「百合子さん、あなたのところを少し中和してくれるか。一緒に、最初は小さな和音で呼吸を合わせよう。私が数を取る」咲良は声を出さずに百合子さんの手を取る。老婦人は小さな笑みを浮かべてうなずいた。彼女の目には古い光が戻っている——瑞音の名が彼女の胸に刻まれている。

矢野のアンテナが高く唸る。遠隔機群からの応答が、ほんの一瞬だが時差の端に揺れを生じさせる。小さな機体の一体が、まるで爪のような手を伸ばすそぶりを見せた。誰もが息を飲む。茜の腕が天を切る合図をし、四声群のパートがゆっくりと鳴り始める。ピアノの低い一打、そしてメゾの安定したハーモニー、理央のテナーが続き、矢野のバスがその基底を固める。咲良はその中に小さく声を乗せた。彼女は導音にはならない。補完だ。四つ目の声となって、穴を埋める。

始めの和音は小さく、だが正確だった。心拍同期は振幅が安定し、共鳴舷の表示が緑色に光る。遠隔ノードがそれを拾い、時差の中で小さな整列を見せる。だが矢野の端末が再び赤く点滅した。「信号が……改変されてる。向こうが位相をずらしてくる。歌い方に細工をして不協和を増幅している。タイムラグを利用して『ずれ』を起こさせようと