磁気嵐の宇宙海賊

磁気嵐の宇宙海賊 第9話「第8章」

瓦礫の海がざわめく。暗い粒子が船体に当たり、古い鋼板の継ぎ目が鳴った。スプロケット号の外壁には新旧のパッチが貼り重なり、ところどころから蒸気が噴き出している。遠方に見えるのは、グラス・トラックの増援艦影──銀い菱形の胴体が無機質に列をなしている。彼らの低周波ビーコンが帯域のノイズに混じって、じくじくと不快な振動を作る。

瓦礫の海がざわめく。暗い粒子が船体に当たり、古い鋼板の継ぎ目が鳴った。スプロケット号の外壁には新旧のパッチが貼り重なり、ところどころから蒸気が噴き出している。遠方に見えるのは、グラス・トラックの増援艦影──銀い菱形の胴体が無機質に列をなしている。彼らの低周波ビーコンが帯域のノイズに混じって、じくじくと不快な振動を作る。

「偵察隊、一隻じゃない。増援を呼んだ」マーヴが唇を噛み、工具箱の蓋を叩く。彼女の手は冷たかったが、動きは確かだった。いつでも直す。いつでも動かす。整備士の仕事は戦闘の前に船を生かすことだと、彼女は体で知っている。

カイは小さな艇のコクピットでシャードを握りしめた。胸に埋めた断片が、まだ微かに赤い脈を刻んでいる。ビーコンで得た欠片と自分のシャードが重なったときに生じた共鳴が、帯域の中でほんの少しだけ見えた道を指している──ただしそれは道ではなく、条件だった。彼らを待つのは、ここを開くための次の手順を求める試練だ。

「行くぞ、カイ」マーヴの声が無線を通して届いた。彼女の目は、いつもより鋭かった。だがその横顔の奥に、心配が忍び込んでいるのをカイは見逃さなかった。

敵影が近づくにつれ、瓦礫の間を縫って白い火花が走る。グラス・トラックの小型艇が、瓦礫の陰に隠れていた木っ端の一つを吹き飛ばすと、破片がスプロケット号の外皮を叩いた。音が近くて遠い。脳内の計器は微妙に歪む。帯域が狂わせるのだ。

そこへ、セリオの影も現れた。彼が率いる分派の小艇が瓦礫の縁から姿を現す。セリオの顔は硬く、眉に深い線が刻まれている。訓練された航海士の眼は、いつでも利益とリスクを秤にかける。だが今はそれに加えて、何かもっと個人的な痛みが混じっていた。カイはその痛みが彼の動機の端であることを薄く予感していたが、まだ完全には掴めていなかった。

「スプロケット号、ここで何をしている。立ち去れば血を流さずに済む」グラス・トラックの通信は、冷たく機械じみていた。威嚇だ。だが、背後にあるのはただの威嚇ではない。航法炉の断片と、それを導くための鍵を巡る争奪だという匂いが濃かった。

戦闘が始まったのは、誰かの短い決断だった。グラス・トラックの一隻が砲門を開き、瓦礫の海に向けて粒子の束を放った。粒子は瓦礫を裂き、破片が散り、そこから古いデータバンクの一角が露出した。角ばった箱のような外殻が外れて、中から黄色く変色したパネルと、古い光学素子が顔を出す。

「データバンクだ」マーヴが呟いた。見たことのない古い規格の端子が、瓦礫に埋もれている。回収する時間はない。だがその露出した瞬間、カイのシャードが異常に震えた。帯域の残響と古い機器の磁気がほんの一瞬だけ干渉したのだ。

「よし、急いで回収する。覆いをして持ってくる」セリオが言った。彼の声には指揮の響きがあったが、どこかぎこちない。彼は日誌を取り出し、表紙を指で撫でた。そこにはあらかじめ黒く塗り潰されたページがあるのが見えた。カイはその黒い痕を凝視する。赤茶けたインクの輪郭に、誰かが故意に亀裂を入れた跡があった。

「なぜそこを消した?」カイは間を置かず訊いた。戦場であるにもかかわらず、言葉は自然に出た。彼は日誌の空白が何かを隠していることを確信していた。ビーコンの註記、『合図を与える者は名を呼べ』がまだ耳にこだましている。

セリオの手が僅かに震えた。彼は口元にかすかな笑みを作って、すぐに消した。「あのページは……人を守るために消したんだ。誰かに利用されるのを恐れた。家族を守るためにね」笑いは冷たく、揺れていた。カイの胸に小さな何かが弾けた。セリオが自分の言葉にどれだけの血の色を滲ませているか、やっと分かった。

戦闘は近接戦に移り、煙と火花が狭い空間で渦を巻く。スプロケット号の小艇は瓦礫を縫うように飛び、セリオ側の小艇とグラス・トラックの切っ先が交差する。金属が擦れる音、蒸気のハーモニクス、古い機械の歯車が悲鳴のように回る。嵐が生み出す残響が、そこかしこで反射を始めた。

カイの選択は自分がここで何をするかだった。彼には羅針感応があった。ただし条件がある。帯域内で、かつシャードを持っていること。さらに禁止もある。他人の意思を直接操作することはできない。船を自律的に動かし続けることに依存してはならない。今、彼にできるのは情報の提示だ。視界の歪んだ断片を羅針として読み取り、仲間に示すこと――それだけである。

だがそれは既に代償を伴う。過去の断片的使用で、カイは幼い頃の祝宴の名を一つ失い、先日の採掘プラットフォーム救出では幼馴染の顔の輪郭を失っていた。能力を深く使えば使うほど、個人の記憶が削れていく。覚悟はある。しかし、ここで誰かの選択を奪うことはできない。仲間たちに情報を与え、行動は彼ら自身の意志に委ねる以外に方法はない。

「カイ、頼む。航角を!」マーヴが叫ぶ。彼女はパネルのランプを押さえ、外の砲火を避けるために短い軌道変更が必要だ。だが計器は狂っている。帯域の磁気が針を跳ね上げる。

カイはシャードを強く握り、耳の奥で子守歌の断片を探した。旋律は昨夜のビーコンの光と結びついている。彼は思い切って羅針感応を起動した。シャードはひとつだけで、かつ嵐域の中である。条件は満たされている。しかしハンドルを握っているのは自分ではなく、彼が導くのは情報だ。

視界が一瞬白んだ。図式のような線が空中に現れ、環状に回る記号が脳裏に落ちる。古い航図師としての視覚が、断片的に降りてきた。輪郭は正確で残酷だった。彼は前世の習性で舵角と推進力の最適な瞬間を読み、口に出して告げた。

「右二十五度、三拍で逆噴射。次に左七度でブレイク!」カイの声は冷静だった。仲間はそれを受け取り、行動した。セリオは眉を寄せたが、指示に従い小艇を回した。爆風の隙間を突いて、スプロケット号は生き延びた。情報は生だった。だが代償はすぐに訪れた。

羅針感応を強く使った瞬間、カイの胸にある景色が引き抜かれるように消えた。具体的には──母の歌の一節が、音の断片となって崩れ落ちた。子守歌の中にあった、母が寝かしつけるときに囁いてくれた最後の短い句。彼はそれがいつか誰かに紡いだ温かい声だったことは覚えている。だが言葉の形は消え、音程だけが残った。胸の中に穴がぽっかりと開く。

「カイ、顔が青いぞ!」ヌーラが叫び、手で彼の肩を叩いた。医療の訓練はここでも生きて、緊張とショックの表情を読み取る。カイは短く笑って首を振った。記憶は消えたが、行動は続けられる。代償は記憶の一部であって、思考や判断の機能そのものではない。だが失ったものは確かに、彼の一部を削った。

交戦の最中、露出したデータバンクの内部がさらに破損し、古い光学素子が割れた。汚れた表示面の奥に、記号が浮かぶ。シャードの波紋と符号が一致する。カイの視界にはそれがはっきりと映った。円環の中を回る三つの刻印。彼は手が震えるのを抑え、声にならない声で呟く。

「これだ……回転符号だ」その瞬間、セリオがひとつの動作をした。彼は自分の日誌の消されたページの縁を破り、隠れていた薄い紙片を取り出して光にかざした。その紙片には小さな点と線が描かれていて、データバンクの刻印と一致する部分が