磁気嵐の宇宙海賊

磁気嵐の宇宙海賊 第7話「第6章」

五分。投票時間の針は冷たく回り、甲板の空気はそれだけで濃度を増した。甲板灯の光が金属の縁で鋭く反射し、子どもたちの毛布のしわに影を落とす。グラス・トラックの無機的な無線の声が、まだ耳にこびりついていた。誰もがその声を聞いた瞬間、己の取るべき立ち位置をそこに重ねた。

五分。投票時間の針は冷たく回り、甲板の空気はそれだけで濃度を増した。甲板灯の光が金属の縁で鋭く反射し、子どもたちの毛布のしわに影を落とす。グラス・トラックの無機的な無線の声が、まだ耳にこびりついていた。誰もがその声を聞いた瞬間、己の取るべき立ち位置をそこに重ねた。

「投票する」マーヴの声が、堅く甲板に刻まれる。彼女の手は冷静に鍵盤を叩き、古い機械式投票装置に一枚の金属チップを落とした。音が小さく金属同士を叩く。決定の儀式は、ここがまだ法の届かぬ海域であっても効力を持っていた。

「救助優先に一票。理由は二つ——倫理と長期的な信用だ」ヌーラが続けて立ち上がる。彼女の声はわずかに震えていたが、そこには揺るがぬ強さがあった。毛布の中の子供たちが、彼女の顔を見る。カイはその視線に引き寄せられ、胸のシャードが熱を帯びるのを感じた。波紋が、鋭く短く脈打った。

だが、甲板の端でセリオは沈黙を保った。彼の溜め息は潮風と混ざり、口元の薄い笑みを曖昧にした。ポケットの中にある小片は、彼だけが知る何かを密かに守る紙片のようだった。彼が手を伸ばして紙を握るたびに、その縁から消えたインクの匂いが震えた。誰にも見せない、見せられないものだという意思がその背中に乗っている。

投票のカウントは短い。甲板の臨時掲示板に小さなランプが並び、赤と緑が点滅する。救助優先――緑。略奪容認――赤。五分経つ前に、票は割れた。僅差で「救助優先」が勝った。歓声ではなく、緊張とため息が甲板を覆った。事情を知る者ほど、勝利は重い。

「おめでとう、カイ」ヌーラの一言は、祝福と哀訴が同居していた。カイはぎこちなく笑おうとしたが、笑いの輪郭が昨夜失ったもののようにぼやける。あだ名の空白はそのまま、彼の内側で小さな凍りを作っていた。

セリオはゆっくりと歩を進め、中央の集会スペースを斜めに横切る。彼の声は冷たいが平静を装う。「わかってる。だが俺には別の道が見えてる。資源を確保できれば、ここにいる全員の安全度が一気に上がる。君らは理想論を語るのが好きだ。だが現実は、銃を持つ者のものだ」彼は言葉を切り、胸ポケットに手を当てる。そこに押し込まれているシール片が、彼の決意を象徴するものだった。

「それなら…どうするつもりだ?」マーヴの目は冷たく、歯切れ良かった。彼女は即座に実務に戻ることを考え、船の修復・補給ラインを頭の中で走査している。

セリオは肩をすくめた。「俺は行く。独立して動く。必要ならば略奪もやる。スプロケット号の船首を曲げる気はない。君たちは君たちの道を行け」その言葉は、まるで古い航路図に引いた断絶線のように真っ直ぐだった。

言葉通りに、彼は船の半分ほどの者たちを引き連れて甲板を下りた。幾人かは装備を抱え、幾人かは悔しさの表情を忍ばせながら靴底を鳴らした。ヌーラが小さく「待って」と叫んだが、セリオの背中は止まらなかった。彼が去るとき、誰もかけない声があった。投票で決まったはずの秩序は、肉体を伴う意志の前に瞬時に引き裂かれた。

分裂は静かに、だが確実に起きた。残された者たちは互いに目を走らせ、マーヴが甲板の計器に駆け寄る。グラス・トラックの圧力はまだ飽和点に達しておらず、その冷たい無線は時折甲板を震わせる。「時間は与えない」と言った声は、今や現実のカウントダウンとなった。

「行かせるのか、それとも追うか」マーヴが低く問いかける。彼女の目は計器の中にある航路データを貪欲に探していた。燃料、推進効率、二度と戻らぬほどの損耗確率——計算が頭の中で弾かれていく。

カイは答えを持たなかった。胸のシャードが、まるでその質問に答えるようにまた震えた。先ほど回収された図面と金属片の回転符号が、頭の中でひとつに溶けていく。あの小さな円環の図。矢印の旋回。波紋模様。すべてが重なり合い、ある一点へと収束していく予感があった。

「僕が…行く」言葉は彼自身の声に驚きを混ぜて放たれた。マーヴは一瞬だけ止まり、彼を見る。カイの表情は決意のように固く、しかしその奥に計り知れぬ恐れが光る。「一人で行く。シャードを複数繋げる。精度が上がれば、方角は正確になる。だが…」彼は言葉を噛んだ。使用条件と代償を誰よりも知っているからだ。嵐域、シャードの断片、共鳴歪、そして記憶の喪失——羅針感応(オルロジック)の法則が胸を締め付けた。

「ひとりで? 無茶だ」マーヴは即座に反論する。「共鳴歪が起きたらどうする。シャードを多く繋げるほど、記憶の代償は大きくなる。航行中に君が己を喪ったら、誰が舵を取るんだ」

「他人の意思を操ることはできない。わかってる」カイは速く首を振った。禁忌の条項を自身の言葉で確認する。彼は絶対に、仲間を操って脱出させるような手段を使うつもりはなかった。彼ができるのは、羅針として方角を示し、選択肢を提供するだけだ。だがその代償は、彼自身の血肉を削ぐ行為に等しい。

だがグラス・トラックの無線はそれを待たない。数分後、赤いランプが再び点滅し、今回は音声の後に金属がかちりと鳴るような低い反応音が割り込んだ。「スプロケット号、最終通告だ。漂流物の回収権は移譲される。軍力での割譲を要求する。居座れば排除する」送信の最後には、ある種の余裕すら含まれていた。それは脅威が遠くにあるのではなく、すでに動き出しているという宣言だった。

「時間がない」マーヴの声は、いつのまにか計算ではなく母性めいた強さを帯びていた。「カイ、何が最短ルートなの?」

カイは胸のシャードを取り出す。最初に拾った一片は、彼の胸ポケットでいつも暖かく、彼の脈に合わせるように振動している。今そこに、回収された金属片と図面の輪郭を合わせて接続する。彼はそれを専用の留具で繋いだ。手は震えている。小さな蒸気圧の吐息が工具の先端から漏れ、錆びた金具に光が走る。古い工房のにおい、溶接の焦げ、母親の歌の残り香——瞬間、脳裏に色とりどりの断片像が走った。

だが今は躊躇いの時間ではない。彼は二つ目のシャードを取り出す。これまでにない数だ。複数は精度を上げるが、共鳴歪は比例して増加する。彼は覚悟を決め、三つ目の断片を重ねると、全体が微かな環状光を帯びた。波紋が一致する。シャードの表面に刻まれた乱反射する模様が、先ほどマーヴが回収した図面の回転符号と、完璧に並んだ。波紋同士が接する音は、人の耳ではほとんど聞こえないが、胸には鈍いドクンという衝撃を伝えた。

「合致した」カイは息を漏らした。言葉の端に歓びと恐怖が混じる。これで羅針の示す方角は、ただの感覚ではなく、図面という物証と物理的に一致した。回転符号と波紋の縁取りが、彼の胸のシャードで一つになった瞬間、外套のような低い共鳴音が甲板を包み込む。残響(エコーズ)が、まるで何かに応答するかのように振動した。

強い手応えとともに、代償は訪れた。共鳴歪が体内で暴れ、疼きが頭蓋を引き裂く。光輪が胸から顔へと広がり、カイの視界は瞬間的に白熱した。彼は目を閉じ、古い風景が逆再生のように押し流されるのを感じた。子守歌の断片が耳の奥で鳴る。だがその歌が、今や彼の記憶を引き剥がすように変質し始める。

最初に消えたのは、昨日の夕食の匂いだった。次に、幼い頃の友のあだ名の輪郭がぼや