橋上の反乱記 第16話「第14章」
黒衣の一群は、まるで夜の闇を背負って歩いてきたかのようだった。広場の入口に立ち、銀色の徽(しるし)が鈍く光るとき、村人たちのざわめきは一層大きくなった。光は昼の残滓を受けて、ひときわ冷たく見えた。
黒衣の一群は、まるで夜の闇を背負って歩いてきたかのようだった。広場の入口に立ち、銀色の徽(しるし)が鈍く光るとき、村人たちのざわめきは一層大きくなった。光は昼の残滓を受けて、ひときわ冷たく見えた。
「調査団だと言っている」使者の顔は青白く、息を整えながら告げた。だがその言葉はたちまち不安を広げただけだった。銀の徽章は王都のものに似ていたが、誰もが完全に納得したわけではない。ロウは地図の隅を指で擦り、眉を寄せた。彼の目は、来訪者をひとつずつ数えるときの習慣的な緊張を帯びていた。
ヒナセは木槌を抱えたまま立ち上がり、板で仕切りを作るように指示を出す。「投票箱はここ。うちの目の届くところに置け。誰が来ても勝手には触らせない」その声には職人の実務が宿っていた。タルクは老人たちを落ち着かせ、子どもを集めて安全な場所へ移す。アユミは静かに、だが素早く一枚の帳簿を広げた。数日前から彼女が書きためてきた署名の名簿だ。共誓のために自発的に署名をした者たちの名前。そこには、手の震えを抑えながら書かれた文字や、鉛筆のかすれた跡まで残っている。
「投票は公開で」カゼトの声は紙のように薄かったが、広場にいた誰もが耳を傾けた。彼は語り部として残る決意をしたばかりだった。だが声の裏には、記憶が白く抜け落ちる恐怖が滲んでいる。刻誓の力は――皆が知っている通り――橋板に血を落とし、真摯な意思で誓いを刻むことで発動する。だがいまのカゼトは、その行為を頻繁に行えば橋の北側がさらに崩れ、彼自身の記憶が一節ずつ失われることを恐れていた。だからこそ、彼が今出したのは、言葉による守りと公開性の要求だった。
黒衣の一人が前に進み出て、低い声で言った。「王都高官の令だ。暫定投票を実施する。都の名において、共誓の受容度を正式に調査する。手続きを円滑にするため、我々が票を回収し、都に送る」その説明は一見合理的に聞こえた。だがアユミはその言葉を一語一語咀嚼(そしゃく)して、じっと相手の手元を見た。彼らの持つ票箱の細工、封印の性質、押された刻印――どれも、アユミの知識をくすぐる小さな違和感があった。
「正式な手続きなら、署名の確認と公開集計の場が必要です」アユミが静かに言った。「都に送るというのなら、その前にここで紙片の原本を確認し、我々の監査人と合わせて開封すべきだ。なにより、住民の自発的意思が最優先であるはずです」彼女の言葉には、法理を扱う者の揺るぎない論拠があった。だが黒衣の代表は口角をあげ、紙の挟みを差し出した。「都は急いでいる。混乱を避けるために、こちらの方式で進めたい。時間がかかれば、混乱を避けるための対処を取らねばならないかもしれない」
その「対処」の含意に、広場の空気が凍る。白紋会の手先だと誰かが呟く者もいた。ロウは目を細め、周囲の物言わぬ顔ぶれに一瞥を投げると、ゆっくりと前へ出た。「君らの徽章は似ている。だが都の正式な調査団の名簿にはない。どの高官の指令か、書面を見せてくれ」その言葉は挑戦であり、誘いでもあった。
黒衣は一瞬、戸惑ったふうに見えた。だがふいに二人の小男が箱を掲げて近づき、封を割らずに中身の一部を見せることなく、投函用の簡易票を差し出した。票は粗雑な紙で、印刷のにじみが目立つ。ロウはその紙を受け取らず、代わりに近くの若者に紙を差し出してもらって見せてもらった。そこには妙な余白、手書きの修正跡、そして小さな染みのような跡があった。ヒナセは匂いを嗅いで顔をしかめた。「インクが古い。ほかの紙とは明らかに違う手触りだ。誰かがこしらえてきたな」
アユミはすぐさま自分の帳簿と照らし合わせた。署名の字跡を見比べ、押された印の種類を吟味する。彼女の指先は冷静そのものだ。「これ、偽造です。都に送るための公式な投票用紙ではない。しかもこの紙には、特定の配達経路で用いられる紙紋の跡がついている」彼女は小さな布片を取り出す。先日の夜、ヒナセが見つけてきた湿った布片だ。そこに縫い付けられていたのは、律守の紋に似た細い刺繍だった。だがそれは模造だろうと誰もが思っていた。アユミは布の端を指で撫で、瞳の色を暗くした。
「この布は、偽造票を梱包するためのものだ。白紋会の一部が、律守の紋をかさに着て寄越した可能性が高い。つまり彼らは都の名を騙りつつ、私兵を使って票を大量に操作するつもりだ」アユミの声には怒りが含まれたが、そこには確かな理路があった。ロウはあっさりと頷き、表情を硬くする。「運び屋のルートは既に分かっている。郊外の倉庫から夜間に二度、同じ車列が入っている。白紋会の連絡網がその倉庫を使っている痕跡を、我々の者が拾った。投票箱の内張りに似た布はそこで見つかるはずだ」
タルクは重いため息をついて、広場を見渡した。「ならば我々がやるべきは何だ。喧嘩か? それとも都役人を罵るか?」彼の問いは、実務的な恐れを表していた。暴力は避けなくてはならない。今の勝利は制度と民心の支持に基づくべきで、強制や脅しで得られてはならない。だが相手は公然と欺瞞を働いている。どう立ち向かうかが問われた。
「まず、公開監査を要求する。票の受領前に我々の監査団と地域代表が立ち会って開封を行うこと。二つ、投票の受付開始前に、本物の都印と照合できる原本の提示を求めること。三つ、監視と記録を民衆の前で行うことだ」アユミは整理された順序で提案した。「それを拒否するなら、この票は不正であると我々は宣言する。都の正式な判定を待つと称して持ち去ることは許さん」
黒衣の代表は冷笑を浮かべたが、周囲の視線はもう彼らに優位を与えなかった。広場の人々は、透明性を求める声を上げ始める。誰かが拍手を打ち、別の者が歓声を上げる。白紋会が仕掛けた不正が、人々の前に露わになるほど、彼らの立場は脆弱(もろ)かった。
しかし、そのとき――広場の奥から、小さな騒ぎが起きる。黒衣の一角に、低い唸り声が混ざり、二人の男たちが投票箱へ手を伸ばした。券を無理矢理集めようとする手つきだ。ヒナセは木槌を握りしめて飛び出した。ロウは素早く二人のうちの一人を押さえ、乱闘寸前の喧嘩を冷静に鎮める。人々は一瞬のうちに秩序を取り戻したが、誰もがわかっていた――白紋会は物理的な圧力に訴える用意があるということを。
ロウが押さえた男の腕から、古い封書が滑り落ちた。封には、都の官印に酷似したが微妙に異なる彫り込みがあった。ロウはそれを拾い、顔を見上げた。「これがある場所から出てきたら──倉庫の連絡網、偽造の印、そして律守の紋。全部繋がる」彼の声は低かった。だがそこには確かな勝算があった。ロウは同胞の中の情報筋と連携し、倉庫の所在地を特定する力を持っていた。
だが力だけでは不十分だ。今こそ法的な正当性を示すことが必要だった。アユミはすばやく紙を取り出し、四人の代表者を指して言った。「監査団には必ず住民代表を入れる。カゼト、あなたは語り部として、ここで起こった経緯を録音し、公開で証言してくれ。たとえ言葉が欠けても、あなたが語ることで民衆は一つの基準を持てる。私は法的な文書を整備して、都への抗議状を作成する。ロウは倉庫の証拠を示して、都に正式な調査を要請する」
カゼトは小さく頷いた。語り部としての立場は、彼の残存