潮騎馬の王朝

潮騎馬の王朝 第12話「第11章」

護送列は潮の脈に沿って細長く伸びていた。馬の蹄はぬかるみに深く沈み、潮導馬の古い蹄鉄が砕けるような金属音を海底に残す。潮澄は鞍の上で呼吸を整え、手のひらで馬の首筋を撫でる。馬の右前脚の古傷が皮膚の下で微かに脈打っていた。あの傷はいつも、彼が潮に触れるときに熱を帯びる。鞍と自分の手の接地、そして干潮の裸の砂──能力の条件はすべて満たされている。だが彼は、できるだけ潮を呼ばないようにしていた。代償が、すでに幾つかを奪い取っていることを知っているからだ。

護送列は潮の脈に沿って細長く伸びていた。馬の蹄はぬかるみに深く沈み、潮導馬の古い蹄鉄が砕けるような金属音を海底に残す。潮澄は鞍の上で呼吸を整え、手のひらで馬の首筋を撫でる。馬の右前脚の古傷が皮膚の下で微かに脈打っていた。あの傷はいつも、彼が潮に触れるときに熱を帯びる。鞍と自分の手の接地、そして干潮の裸の砂──能力の条件はすべて満たされている。だが彼は、できるだけ潮を呼ばないようにしていた。代償が、すでに幾つかを奪い取っていることを知っているからだ。

列の後方で紗蓮が箱(核を納める鉄箱)に添い、羊皮紙で封を確かめる。葉乃は列の端で、港から来た代表たちと静かにやり取りをしつつ、時折潮澄の方に視線を投げる。朔礼は先頭で風を読み、隊列の幅を調整していた。波刻は、いつもよりも遠くへ視線を投げていた。彼の顔には見えない疲労が刻まれている。誰もが緊張を抱え、だがその中で誰よりも張り詰めているのが朔礼だった。彼の手は剣柄を軽く握り、指先には白い膜があった──決断の跡だ。

「潮位はまだ安定している。境界石の周期も俺たちに有利だ」朔礼が短く告げる。彼の声はいつもの冷たさを帯びていたが、そこに揺らぎがひとつ混ざっていた。潮澄は頷いた。使わずに済むなら、使わない方がいい。だが護送は軍事行動でもある。敵が来れば――その瞬間の選択が、誰かの命を決める。

向こう岸の葦の茂みで、風が一瞬にして止まった。波刻が指を唇に当て、視線を固める。「来ます」声は小さかったが、皆に届く。朔礼が瞬時に陣形を変え、護送側の歩幅を速める。遠く、薄墨のような小舟が潮路の縁を滑った。その上に立つ者たちは礁商連の傭兵とも、摂政側の手先ともつかない。三本の波形──王家の紋章が旗に染められているのを、潮澄は見た。二度見てから気づく。あの紋章は「順序」を意味していたことが、紗蓮の解読が示した通り、実戦でも暗号になり得る。敵は三段構えで来る。まず偵察、次に封鎖、そして最後に箱を奪取する。

「列を狭める。箱は中央に」朔礼が命じる。葉乃が馬の速歩を合わせ、紗蓮の傍へ滑り込む。波刻は先に出て、浅瀬の縁を斥候する。本来ならここで潮澄は馬の胸に手を当てずにいられた。だが視界の端に見える小舟の数が増え、胸の奥の緊張が疼いた。もし列が切り崩されたら、周囲の村に被害が及ぶ。彼は静かに手を伸ばし、鞍の革を深く握った。馬の筋が答え、古傷がちらりと赤く滲む。

「澄、やめろ」紗蓮の声が耳を裂く。だが彼の手は離れない。接地を取り、潮位の感覚を鞍越しに受け止める。脳裏に、砂の下の記憶が震え始める。封印された名簿、並べられた人影、子供たちの歌声。彼は潮の中に針を落とすようにして航路を「読む」。使えば世界の道筋は見える。使えば誰かは救える。だがその代償はすぐさま徴収される。潮澄は額に汗を滲ませ、歯を食いしばった。

だが敵も、ただの傭兵ではなかった。潮の読みを阻むように、彼らは煙を焚き、砂の上に小石を散らし、浅瀬をかき回して人工的に潮流を乱す工作を始めた。箱に向かう三人の傭兵が、糸鋸のような器具で箱の縁をこじ開ける。羊皮紙の封印符がひらりと波間に舞い、紗蓮は必死にそれを押さえようとする。朔礼が剣を振り、二人を阻むが数は多い。さらに向こう側から別働の小舟が回り込み、列の後方を襲う手配だ。

「くそっ」朔礼が詰め寄る。「俺が食い止める。澄、お前は箱を守れ」

命令は戦術的だが、どこか隙間がある。どうして朔礼がそこまで先へ出るのか、潮澄は理解した。彼は、自分の力が払わせる代償の重さを考えたのだ。朔礼は、潮澄個人にその負担を一手に押し付けることを選んだのだ。軍として、秩序を優先するためだ。だが軍事としての選択は、倫理に反することもある。朔礼の背中が、静かに震えた。

波刻が突っ込んだ。若さの荒削りな突撃だ。彼は箱へ一閃、傭兵のひとりを地に叩きつけ、その間に紗蓮が封印の一部を再結びする。だが別の傭兵が波刻の背後を取った。銃声が空気を切り、砂煙が立つ。何かが波刻の肩を裂き、彼は大きくよろめいた。葉乃が叫び、馬を駆って駆け寄る。朔礼が斬り込んで救おうとした瞬間、別の矢が朔礼の側をかすめる。混乱のうねりの中で、波刻の顔に血が広がった。彼は地面に膝をつき、箱を抱えるようにして倒れる。

「波刻!」葉乃の声が裂ける。紗蓮が箱を押しやり、朔礼がすざまじい速度で敵を押し戻す。だが一人、また一人と傭兵の包囲網が狭まってくる。敵は箱の中の金属の冷たい光を一目で見抜いていた。彼らの目的は核の断片であり、それをいかなる手段でも奪うつもりだ——そう思わせる冷酷さがその一挙手一投足にあった。

「澄、今だ。最短の安全路を読め」朔礼の手が震える。彼は言葉を選び、しかし押し潰されそうな決断を下す。潮澄の胸の中に別の声が囁いた。導け、と。初代の断片か、あるいは核の残滓か。だがその声は命令形であり、彼の手を縛るものでもあった。彼は馬の首を強く抱え、砂の下の微妙な硬さの違いを、海の唸りを拾う。潮読は始まり、列の向きが一瞬にして変わる。浅瀬を使って回避し、敵の包囲から脱する最短線が見えた。誰かの命を削ってでも開かれる道が。

潮澄はその道を選んだ。条件を満たし、海底を踏むごとに視界の奥で幾つもの記憶が崩れていくのを感じた。母の肩の匂い、幼い時に交わした約束、葉乃と一緒に喰った焼き魚の味──小さな記憶がすうっと抜け落ち、冷たい海風がその穴をなぞった。彼は自分の名前の一部の響きを失いかけているような感覚に襲われ、鞍に額をつけながらもそのまま読み進めた。列は障害をかわし、箱は一度は護られた。

だが護送の成功は永遠ではなかった。敵の三段攻撃は最後の波で本気を出した。箱の近くにいた一隻の小舟が岸を回り込み、朔礼の脇腹へ斬りこむ隙を作った。波刻が立ち上がろうとして再び膝を折った。彼は拳をこぶしにし、箱へ手を伸ばす。銃口が彼を捉え、砂煙の中に彼の身体が沈んだとき、みんなの視界はスロウモーションになった。葉乃の叫びが遠くなり、朔礼が波刻の元へ駆け寄る。紗蓮の叫び声は誰にも届かない。波刻は箱のそばで、片手で紙片をぎゅっと握っていた。紙にはかすれた筆跡があり、名簿の一部が見えている。

「波刻!」朔礼は膝をつき、無念の声を上げる。だがその無念は時すでに遅く、彼の胸には軍としての決断が刺さる。朔礼は自分の選択がこの若者を死に追いやったことを、胸の奥で抱え込む。軍は時として命を切り捨てる。彼は剣を地に突き立て、手の震えを抑えきれなかった。

敵の小舟は箱を奪えなかった。紗蓮が封印符を裂け目に押し込み、朔礼が斬り返して時間を稼いだ。だが一人の傭兵が箱の近くで爆薬を投げ入れ、金属の箱は半ば破られた。中から黒く光る断片が滑り出し、波間に浮かんだ。誰かがそれを捕まえ、抱えて小舟へ跳んだ。砂浜に残されたのは、破れた羊皮紙と、血に染まった若者の体と、一瞬で変わった風景だった。敵は一部の断片を持ち去った。護送の目的は、部分的に達成されたにすぎない。核の「一片」が、今は敵の手にある。

潮澄は馬の鞍に額を押し付け、歯を噛みしめた。自分が使った潮読がこの犠牲を防げなかったのか、あるいはむしろその代償を払わせたのか。彼の内側で、もう一つの何かが引き裂かれるように