灼天冷却師の星環紀行 第8話「第七章」
王宮広場の空は、いつもより低く、砂を薄く含んでいた。日差しは鋭く、そして不安定で、建物の石面がところどころ波打って見える。朝の声はまだ村を満たしきれず、群衆は口笛にも似た不安の音を立てていた――抗議と好奇と、好機を窺う冷ややかさが混じる。
王宮広場の空は、いつもより低く、砂を薄く含んでいた。日差しは鋭く、そして不安定で、建物の石面がところどころ波打って見える。朝の声はまだ村を満たしきれず、群衆は口笛にも似た不安の音を立てていた――抗議と好奇と、好機を窺う冷ややかさが混じる。
ユルハはその群集の前に立たされていた。胸には騎士団長の徽章。重厚な革の上着は午前の熱で渇き、細かい砂が袖口に入り込んでいる。彼女の視線は遠くの王座へ、そして壇上に並ぶ人物たちへと行き来した。天文長官ヴァルドはいつもより赤みを帯びた顔で、王座から優雅に両手を組んでいた。王は薄紫の衣を纏い、眉間に皺を寄せている。外面は落ち着いて見えるが、王の手元には一枚の小さな巻紙があり、それが彼の気持ちを占めているのがわかった。
「異端の実験が、この都市に砂嵐を呼んだ」ヴァルドの声は低く、確信に満ちていた。彼の側に並んだ天文官たちは、布地を慎重に撫でながら、視線を群集へ投げつける。「彼らは神への挑戦だ。鏡塔を弄り、天頂炉の道を脅かした。王の裁きが必要だ」
広場の片隅、澪は裸足で立っていた。肌に凍えが走るような白さがあり、呼吸は浅い。カイは片手で黒い太陽片を抱え、もう片方の手で彼女の肩に添えている。セレネは目を閉じ、指先で帳の縁をそっと触れていた。市民の中には彼らを嘲る者も、同情する者もいた。だが大声はヴァルドの掌の上で踊っていた。
ユルハは胸の内で秤を動かしていた。騎士としての務めは明白だ。王の命を守り、秩序を維持すること。しかし、彼女が見てきた現実もまた揺るがない――配給は減り、兵士たちはある区域へ水を送らないよう指示を受けていた。民が病み、夜が短くなっていく中で「秩序」が誰のためにあるのか。誓いはその二つを同時に求めている。だから彼女は決めていた。今日は命と記録を裁きに差し出す。
「ユルハ・アムル、騎士団長」広場の長老が名を呼ぶ。ユルハは一歩前に出た。砂が甲先に擦れ、足元が滑るような感覚がしたが、踏み止まった。「私は証言を差し出します」
群衆のざわめきが一瞬止まった。ヴァルドは唇を緩め、冷笑を含んだ質問を投げる。「何の証拠があると言うのだ、騎士長。水と秩序は王の管轄だ。手元にあるという文書が偽造でないと証明できるか?」
ユルハは声を落ち着け、手に持った巻物を差し出した。羊皮紙の端は焦げ色に、文字は濃く黒い。彼女が開いたのは避難記録だ。兵の名前、時間、命令。並んだ文字が並ぶ列の隣に、配給帳の写し。数字が一つ一つ示され、ある塔への補給が「意図的に」停止されていることが読み取れた。
「この日、この時刻に、私の名で兵の一部を王都北門へ派遣するよう命じましたが、その後、指揮系統を通じて '上からの命令で水の門を閉じよ' という通達が届きました」ユルハは顔を上げ、王の姿を見据えた。「私の命令は民を避難させるためのものでした。だが門は閉ざされ、配給は削られ、避難は妨げられました。これが私の証言です」
群衆の中で囁きが増えた。王面の色が一瞬変わるのを、ユルハは見逃さなかった。ヴァルドは眉を顰め、すぐさま答弁を促した。「偽造だ。騎士長、もしこれが真実なら、なぜあなたはそれまで私に、天文局に、相談してこなかった。あなたの行為は王命無視だ」
ユルハは一瞬沈黙した。内部で彼女の律が揺れたが、声は強かった。「私は命令を受け、民を守るために動きました。もしそれが王命と相反したなら、私はその責を負います。しかし、王の民が死ぬことを黙って見過ごすわけにはいかない。騎士の誓いは王を守るだけではない。民を守ることも同じように含まれている」
セレネの細い声が風に乗って広場へ届いた。彼女は澪の隣で静かに立ち、指先で帳を開いていた。盲目の王女の存在が、場を不穏にする。ヴァルドはセレネを睨み、嘲りの彩を帯びた口調で言った。「さあ、ここにある『異端の力』を見せてみよ。観衆の前で、彼女らが何をしたか証明しろ。さもなくばただの呪術師だ」
王座から小さな槌が叩かれる音がした。王は裁判の進行を促した。群衆の期待が澪へと集中する。澪は震える手を見下ろし、深く息を吸った。ユルハは澪の存在に目を向けるとき、彼女の手の冷たさを改めて感じた。指先に薄い霜が浮かび、唇は紫がかっている。
「やるのか?」ユルハは小声で言った。澪はかすかに首を振ったが、すぐに決意を取り戻したように頷いた。「……見せる。これで終わるなら、終わらせる」
裁判の補佐役が台に持ってきたのは、鏡塔の外壁から剥がした金属板の破片だった。表面には鏡面の光沢を失った跡と、数本の継ぎ目がある。ヴァルドはそれを高く掲げ、群衆に見せつける。「これが証拠だ。塔は改竄され、熱の流れが操作された。これは神への冒涜だ。証人、さあ、見せろ」
澪は板に指を触れた。熱脈観測の視界が、彼女を襲う。赤い線。過去の熱が記憶のように、材質の内部を走る。板を伝って、ある時刻にある方向へ急速に熱が集まった――それは塔ではなく、別塔への放熱路だった。澪は視界に現れる曲線を声に出して言った。「この金属は、日付…時間に沿って、熱をここからあちらへ移している。あの日の午後、塔の出力が…違う塔へ向かって増幅されている」
群衆が息を呑む。ヴァルドの顔色が一瞬変わるが、すぐに笑みを作った。「そうだろう? だがそれが何だ。非合法な操作があったとしても、それが即ち彼らの実験が砂嵐を呼んだ証拠にはならん」
澪は続けた。視界に流れた赤い線を言葉に紡ぎ、時間の点を指し示す。そこには塔の出力が別塔へ転送された直後、周囲の風向きと気温が変化している記録が重なっていた。彼女の声は震え、指先の結晶が広がるのを感じた。熱を呼び寄せるような金属の繊維――それが黒い太陽片と軌を一つにする。
だがその瞬間、澪の言葉が途切れた。視界の端で、何かが欠け落ちる。彼女は目を見開き、混乱した表情で掌を見下ろした。先ほどまで確かにあった像が、まるで薄れた漆絵のようにぼやけていく。心の奥で一つの線が切れたような感覚が走る。そこにあったはずの、過去の出来事の一点――前世のあの日、観測施設で熱風から人々を逃がそうとして死んだという事実――がするりと抜け落ちた。
「……え?」澪の声が小さくなる。言葉を続けるはずだった文章が、どうしても出てこない。彼女は口を開け、閉じ、眉を寄せた。「なんで……私は、なんでここにいるのか、って――」
ユルハは澪の変化を見て、胸を引き裂かれるような衝動を覚えた。彼女は言葉を遮り、静かに庇い立てる。「澪がここまで来た理由は、私が知っている。彼女は民を守るために動いた。地下の人々を、塔の被害を減らすために、命を賭してきた」
ヴァルドは嘲笑を浮かべ、指を鳴らした。「ほら見よ。彼女自身が理由を語れぬ。薄命の者の口からは何も出ぬ。つまりは、これは偽りの記憶の織り成す劇であり、我々はそれに踊らされているだけだ」
だがユルハは一歩前へ出た。彼女は訓練で磨かれた声を会衆へ投げる。「彼女は戦場で、坑道で、鏡塔で、誰よりも早く動きました。私がその行動に従ったのは、彼女が指示したからです。彼女は自分の体を使って熱を隔て、仲間を避難させました。あなた方はそれを '異端' と呼ぶかもしれない。だが私は今この場で誓