異世界転生星図師の皇帝 第10話「第9章」
砂に沈む夜の色がひどく冷たかった。レンは隊の前で立ち止まり、素手で胸の前で星図帳を抱いたように見せる仕草をした。だが実際に抱えているのは薄い羊皮紙でも木製の盤でもなく、彼の胸の奥で反芻される夜の道の記憶だ。足元を吹き抜ける風が、砂粒と一緒に小さな音を立てていた。
砂に沈む夜の色がひどく冷たかった。レンは隊の前で立ち止まり、素手で胸の前で星図帳を抱いたように見せる仕草をした。だが実際に抱えているのは薄い羊皮紙でも木製の盤でもなく、彼の胸の奥で反芻される夜の道の記憶だ。足元を吹き抜ける風が、砂粒と一緒に小さな音を立てていた。
「タイミングは十五の辰刻だ。星門の軸が最も遅れるのは、その瞬間だけだ」ミランが低く言った。彼は元傭兵で、今はレンの右腕のように振る舞っている。石ころを蹴飛ばすように、言葉が砂に落ちていく。
「十五の辰刻に合わせて外周を歩く。陣形は四つの小隊に分かれ、時計回りに回る。僕は中心から出入りの安全路を刻む」レンはすばやく地図を広げるふりをして、しかし本当に必要なのは彼が夜に誰とどこを歩くか、それだけだった。「ただし一つ、決めておかなくてはならない。土地を勝手に囲ってはいけない。線で囲うことは──」
言葉を斜めに切った。彼自身の声が、いくぶん震えているのを感じた。夜はいつも、彼の言葉の端を鋭くする。そこにいる誰もが、レンの能力の厳しさを知っている。知っていても、今夜は別の選択肢がなかった。
「レン、囲いを作らずにどうやって星門を固定するんだ?」アシャが前に出た。遊牧隊の女長で、救いを求めてここへ来た一族の代表だ。彼女の手のひらには小さな白布が握られている。恐れよりも決意が濃い顔だった。
「外周の歩行で軌道の位相を読み、瞬間を合わせる。門の位置を『囲う』つもりはない。だが──」レンは言葉を飲み込んだ。「だが最悪の場合、封じるように線を引かなければならないことがある。星図上での囲いは、僕の過去を削る。」
空気が止まった。消えた北極星の穴のように、そこだけぽっかりと不安が空く。五日前、彼らが最初に集まったとき、レンは空に欠けた一点を見て胸騒ぎを覚えた。今夜もその星はない。見上げると、星の列はいつもよりかすれていた。星の不在が、星門の不規則さと何らかの紐帯を持っているのかもしれないという憶測は、みなを静かに追い詰めていた。
「君が消えるというのか?」アシャの声に、微かな震えが混じった。
レンは小さく首を振った。「消えるのは僕の昔の名前や道端の匂い、港の角の風景だ。写真のように一枚一枚消える。だが今ここで僕が立ち止まれば、あの一族は星門の中で朽ちていく。動けなくなる。選べない ── そんな選択を迫られるのが、僕の能力だ。」
ミランが鋭い目でレンを見た。「なら、選ぶのは君だ。俺たちは君の判断を支える。」
「それでもいいのか。代価は僕だけじゃないかもしれない」レンは薄笑いを浮かべた。「忘れるのは僕のだけだと信じたいけれど、制度と星の結びつきは一筋縄ではない。今日の動きがどんな余波を生むか、わからない。」
アシャは白布を広げ、指先で端をなぞった。「私たちは、あの子らを取り戻したい。それだけだ。君が代価を払うなら、私たちが記憶を守る。約束する。私たちは君の故郷の代わりになれないかもしれないけれど、語り継ぐことはできる。」
その言葉はレンの胸の奥に、柔らかな何かを落とした。彼はわずかにうなずいた。「終わったら、皆で語ろう。足跡の一つひとつを星砂に書き写して。僕が失ったものを、君たちの言葉で繋いでくれ。」
夜襲の準備は短かった。全員が灯りを消し、顔の輪郭だけが月にも似た反射で浮かぶ。歩き出すと、砂が柔らかく足に絡みつき、遅くなったり早くなったりする。彼らは四隊に分かれ、レンは中央の小道を歩く役目を取った。レンが作る星図は、誰かが本当に夜に踏みしめた道だけを安全路として定められる。つまりレン自身が誰かを連れて歩くことが、そのまま退路を保証する鍵だった。
風は容赦なく、星砂を顔に当てる。ところどころに古い道の跡が見え隠れして、レンの胸に港町の露天の匂いが一瞬浮かんだ。それは言葉を与えられないほどささやかで、触れたら崩れてしまいそうだった。
星門は予期せぬ場所に現れた。普段なら砂の皿の上に静かに佇むはずの閃光が、今夜は渦を巻いており、取り残されたテントが点々と光の中に浮かんでいた。中に閉じ込められているのは、アシャの頼みを受けてここへ来た遊牧民の一隊だ。子どもたちのすすり泣きが、夜に溶けていく。
「時間だ」ミランが低く言った。彼らは隊列を整え、時計回りに周回を始める。レンは中心から外れ、先回りして小道を確かめる役をする。足元に刻む一歩一歩が、星図に確実な線となって刻まれていく。レンは目を閉じれば、過去に歩いた街の路地や展示室の暗がり、プラネタリウムで無数の人に語った星の話が、かすかな残像として現れる。しかしそれは今や脆く、触れると砂になって指の間をすり抜ける。
彼らが最後の周回をする時、アシャの小隊が内側からアプローチを開始した。星門の縁で、光が波打ち、時間の抑揚が目に見えるように歪む。子どもたちを引き上げるためには、門が瞬間的に止まる軌道を捕らえ、そこに合わせて人員を出し入れする必要がある──それが今夜の作戦だ。
レンは息を吸い、星図に線を引く仕草をした。しかし実際に紙に線を引くわけではない。彼は自分が歩いた夜道を、記憶として確かに留め、内なる盤面に刻む。ミランやアシャ、他の者たちの足跡が、レンの能力を現実の安全路に変えていく。彼らの足音が、夜の前奏であるかのように心地よく響いた。
だが、その瞬間、アシャの小さな手が震えて動いた。彼女は持っていた白布を強く握りしめ、無意識のうちに布縁で砂に線を描いてしまったのだ。砂の上に描かれた線はほんの一瞬のものだった。レンはそれを見た。小さな円が、無自覚に砂面に描かれる。アシャは自分の行為に気づき、驚愕の声を上げた。
「や、もう——!」アシャの声は吐息のように消えた。だが事態はもう動いた。レンの感覚が鋭く反応し、胸の中が冷たくなった。誰かの土地を勝手に囲う行為──星図的な象徴が砂に刻まれた瞬間、星の一つが闇に落ちる。見上げた空に、ぽっかりともう一つの淡い星の影が消えた。
レンはその場で膝をつきそうになった。胸の内側で、ふるえるような痛みが走る。過去の風景が、波に打たれる草のように消えていく。港の角にあった古い木製の看板、母の手が触れた皿の縁、幼い頃に投げた石の数──そうしたささやかな記憶が、砂の風にさらわれるかのように薄れていった。
「レン!」ミランの手が彼の肩を掴む。冷たい汗が背中を伝う。レンは震える声で答えた。「大丈夫だ。続けろ、外へ引き出すんだ!」
内心では、怒りがひどく渦巻いていた。アシャは無意識だったのだ。囲いを描いたのは彼女の意図ではない。それでも、囲いがなされたのは事実であり、その結果として消える星があり、レンの一片が奪われる。だが今は、奪われたとしても人々を救わねばならない。一瞬の犠牲を自分に押し付けることを、レンは学んでいた。
救出の瞬間は、慌ただしく、祈りと怒鳴り声と砂の匂いが混じり合った。子どもたちは泣きながら腕に抱かれ、老人は弱々しく笑った。アシャが最後の子を引き上げるその時、星門の光が一度鋭くちらつき、肌に過去の匂いが触れたような気がした。レンはその閃光を見つめ、心の中で一筋の線を引いた。歩いた夜道としての線だ。これが帰路になる。
彼らは撤収を始めた。