異世界転生風車守の王国騎士

異世界転生風車守の王国騎士 第19話「第17章」

朝靄が谷間を薄く撫でる頃、ユズは守りたいものを頭の中で一つずつ確かめていた。井戸の蓋。風笛。風車の軸を支える古い梁。頼みを最初に口にした老婆の畑。まとわりつく疲労と、胸の奥に残るときどき襲ってくる息苦しさも、忘れてはいけない護りの一部だった。

朝靄が谷間を薄く撫でる頃、ユズは守りたいものを頭の中で一つずつ確かめていた。井戸の蓋。風笛。風車の軸を支える古い梁。頼みを最初に口にした老婆の畑。まとわりつく疲労と、胸の奥に残るときどき襲ってくる息苦しさも、忘れてはいけない護りの一部だった。

「今日、向こうから来るって聞いたんだ。逆風の旗を掲げた隊だって」

ミラが吐き出すように言った。隣で腕まくりをしているのは鍛冶のハンダ。彼の手はすでに釘と木端に染まっている。ユズは返事の代わりに、井戸の周りを歩きながら風笛を確かめた。風が吹けば、細い竹筒にあけた小さな穴が鳴る。高く、透明な音だ。村の交渉を始めたとき、ユズがしていたのは単なる技術顧問のつもりだった。だがその音を、村人たちはいつの間にか合言葉にしていた。

「封鎖しようとするんだろうね。井戸を封じれば、水車の調整もちょっとの間はできない。上の隊が風の測定器を据え付ける口実が作れる」トブは手にしていた測定紙を指で押さえ、眉を寄せた。トブは近隣の村から来た交換隊の一人で、情報の受け渡し役を担っている。彼の顔からは怒りというよりも疲労の色が強く見えた。

「暴力で奪うつもりなら、俺たちがぶつかって止めるべきだろう」とハンダが言う。背後で何人かの若者が鼓舞されるように肩を寄せ合う。ユズはその目を見回し、静かに首を振った。

「壊されたら、風を取り戻すのはもっと難しくなる。壊すのは騎士団の得意技だ。私たちは壊させない方法で、ここを守る」ユズの声は風に溶けそうなほど低かったが、村人たちは聞き入った。彼らはユズを頼りにしている。だが頼りにしているからこそ、ユズは自分の限界をはっきり示さなければならなかった。

「一人の願いで風を回すことはできる。でも、もし一人の願いだけでやったら羽根は折れて、呼吸が乱れる。これはもう、みんな知っている。だから今回は、共同で願う方法でしか動けない」ユズは平たい手のひらを上に向けた。手の平には細かい油と煤が残っている。彼女は自分で整備した風車のいくつかの軸を思い浮かべ、どれが一番共同の意図を受け止めやすいかを瞬時に選んでいた。

その時、谷の入り口で馬の蹄の音が鈍く響いた。胸が引き締まる。遠くに、旗が見える。黒地に白い逆向きの旋風を描いた旗が、朝の光を受けて翻った。騎士団の小隊だ。旗の絵は単なる飾りではない。そこに組み込まれた記号は、徴税と統制の意思を示している。トブが小声で呟く。

「逆風の旗隊か……直接の妨害をする理由があるなら、井戸を封鎖するのが手っ取り早い。井戸を封じればこの谷は経済的に軟化する」

騎士団が近づくにつれて、常駐の役人らしき一人が馬上で声を張り上げた。騎士団の代表らしい中背の男だ。彼は爪先で地面を軽く蹴るようにして馬を止め、鎧の隙間から証文を振りながら言った。

「王都の名において、この谷の水源と風源の点検を行う。非協力は違法だ」

彼の言葉は冷たく、秩序を前提にしていた。だがユズはその言葉に動揺しなかった。動揺する者たちを前に、彼女は一歩前に出た。

「ここは私たちの共同体だ。点検が必要なら公開で、村人全員の前でやってほしい。裏で器具を据え付けるつもりなら、それは拒否する」ユズの言葉はいつもよりも硬かった。だが騎士は鼻で笑った。

「公開でいい。だが公開とは検査の妨げにならぬことだ。井戸の周辺に不必要な障害を置けば、これは秩序の乱れと見なす」

騎士の部下が兵具箱から小さな装置を取り出した。それは風を計測し、方向を一定に保つための小さな機構だった。先端に布の小さなケージがあり、そこに設置されれば微かな風まで吸い上げ、人工的に流れを作ることができる。彼らはそれを井戸の縁に設置しようとした。

ミラの顔が青ざめた。「あれを埋められたら、風笛はもう鳴らせない……」

ユズは目を閉じた瞬間、昔の感覚が蘇った。前世、サージタービンの配管に詰まったゴミをどう取り除いたか。その手順と感覚は、ここでも使えるはずだ。人を押しのけて装置を奪うこともできた。だがユズは繰り返す。彼女は暴力を好まない。暴力は壊し、壊されたものは簡単には戻らない。

「私たち、非暴力でいこう。井戸を守るのは、声を合わせること。風笛を一斉に鳴らすことで、この場所が共同であると示す。それが合図になれば、騎士団も正当性を崩すはずだ」ユズが短く言うと、村人たちは互いの顔を見合わせた。躊躇する者がいる。彼らの多くは家族を抱え、夜露ほどの余裕もない。

「合図ってどういうことだ?」ハンダが現実的に尋ねる。彼は力で片付ける方法を想像している。

ユズは手近な木箱を拾い上げ、井戸の縁にそっと置いた。木箱には昔、風車の部品が入っていた。彼女は箱の上に一枚の布を広げ、集まった村人全員に目を向ける。

「皆で、井戸に触れて。手を触れるたびに自分が保ちたいものを口にして。短くていい。『水を守る』『風笛を鳴らす』『畑を守る』。それを同時に言う。心では一つの流れを願って」

トブは眉をひそめたが、ミラは布を掴み、低い声で言った。「水。風。暮らし」。

それを皮切りに、次々と声が続いた。老婆が細い声で、幼い子どもが無邪気に、漁師が粗い喉で。言葉はバラバラだが、ユズには一つの波形のように聞こえた。それは風の回転の始まりを模した合図だった。

ユズは自分の体を風車の軸に思い描いた。彼女が整備したいくつかの羽根が、村人の願いを受け取る窓口になれる。その瞬間、彼女は皆に手を差し伸べるべきか、それとも背後で調整に回るべきかを決めた。自分が中心になることは避ける。自分の胸が限界を知らせるのを知っているからだ。だが彼女が調整しなければ、皆の願いはバラバラな力で空転するだけになる。

「私が軸を押さえる。だが一人の願いには乗らせないって約束して」ユズはそう言ってから、ゆっくりと手を伸ばし、村が共同で動かすことのできる一台のミニ風車の軸に触れた。そこは彼女が試作を繰り返した場所で、複数の意思が入ったときにだけ安定するように加工してある。彼女の指先が冷たい鉄に触れると、ほんの微かな振動が伝わった。

騎士団の者たちは眉を顰め、装置を押し付けようとする。手が伸びる。だがその手が井戸に触れる前に、トブが歩み出た。彼は馬上の騎士に向かって、村の年長者の一人の名を挙げながら堂々とした口調で話し始めた。法律と文書の話だ。ユズは目の端で、彼が時間を稼いでいるのを見ていた。村人たちが口々に事実を述べる。議論は重ねられ、すれ違いと押し問答が続く。

その間、風笛は静かに息を吸っていた。ユズは目を閉じ、村人たちの願いの波に合わせて息を整えた。共同の呼吸だ。彼女の胸が小さく締め付けられる。過去の一人の願いで羽根を折ったときの感覚が、ほとばしる汗と共に戻る。だが今回は違う。これは一人ではない。皆の声が輪になって軸を包んでいる。

ユズは一度、肺の奥からゆっくりと吐き出すと同時に手を軸に強く押し付けた。風車が回る。最初は微かだった。だが周りの村人が自分の手を木箱に、井戸の縁に、互いの肩に置くと、回転は滑らかさを増し、竹の風笛にわずかな振動が伝わる。清い音が一本、井戸から上がった。音は最初、細く、やがて深みを増しながら谷の空気を震わせる。

騎士の一人が舌打ち