異世界転生税関吏の迷宮攻略者

異世界転生税関吏の迷宮攻略者 第17話「第15章」

朝の潮が低くなった音とともに、迷宮口の通関棟はいつものざわめきに満ちていた。薄い石膏で覆われた窓から差し込む光が、並んだ人々の手に握られた「空の通行札」を照らす。彼らはみな、何かを失ったような顔をしていた。通関台の上には、かつて持ち込まれた荷物の一部が、鈍い灰色の塊として積まれている。石にされた鞄――あの一つが、倉庫の隅でまだ冷たく光っていた。

朝の潮が低くなった音とともに、迷宮口の通関棟はいつものざわめきに満ちていた。薄い石膏で覆われた窓から差し込む光が、並んだ人々の手に握られた「空の通行札」を照らす。彼らはみな、何かを失ったような顔をしていた。通関台の上には、かつて持ち込まれた荷物の一部が、鈍い灰色の塊として積まれている。石にされた鞄――あの一つが、倉庫の隅でまだ冷たく光っていた。

「今日は記録係のリーサと一緒だ」ダンは鞄のそばで小さく呟いた。リーサはノートを抱え、目を細めて周囲を観察している。隣には治療者のカーレルが、消毒液の匂いを漂わせて控えていた。仲間たちは彼ら自身の判断でここに来ている。互いに頼り合い、しかし誰もが自分の道を持っている。ダンはそのことをいつも意識している。

最初に来たのは、肩をすくめた背の低い女だった。名はイロ。彼女は両手にぼろ布を包み、くすんだ空の通行札を握っている。顔には薄い引きつりがあり、耳元にある金の小さな飾りを頻りに撫でていた。

「出口の印が消えました。あの印がなければ、帰れないと……」イロの声はか細い。彼女の目はどこか遠くを見ている。記憶の縫い目が裂けたような目だ。

ダンは冷たい木の台を軽くたたき、申告の書式を差し出した。「ここで申告していただく。申告された荷物にだけ、迷宮内に通すことのできる一つの道具が通る。嘘があればその荷物は石になる。嘘をついた人の大切な物も同じ重さになる。わかりますか?」

「はい……」イロはうなだれてしまった。だが、言葉のあとに鋭い不安が残る。嘘の代償は大きい。彼女の眼差しが金の飾りに戻る。そこには小さな字で何かが刻まれていた。イロはその飾りをなで、どうしても離せないと言わんばかりに握りしめる。ダンはその様子を見て、彼女が本当に必要としているものが何かを探る必要があると直感した。

「あなたが本当に必要としているものは何ですか。出口の印ですか、記憶ですか、それとも……」ダンは穏やかに訊ねる。尋問ではなく選択を促すように。

イロは固まった。するとカーレルが近づいて、彼女の手首を優しく取った。「痛む箇所を教えてくれ。もし身体に刺さったものがあれば、記憶の断片と結び着けられていることがある」

イロは手首のあたりに小さな瘢痕があるのを示した。「ここに、尖ったものがあった気がします。でもそれを取り出したら……何かを思い出してしまう。帰れなくなるのが怖い」

ダンの頭の中で、能力のルールが静かに針を打つ。申告は正直でなければならない。だが「必要な道具」は、その人間が「本当に必要としている」ものに限られる。言葉と欲望は必ず一致しない。イロの欲求は「出口印が欲しい」という主張の裏に「刺さった異物の除去」があるように見えた。もし彼女が「出口印」と申告してしまえば、その申告は彼女の恐れに基づいた虚偽になり得る。嘘であれば、彼女の布包みは石になる。彼女が握る金の飾りも――彼女の「大切な物」ならば――同じ重さに変わる。

ダンはゆっくりと息を吐いた。「布包みの中身を見せてくれるか?」

イロは躊躇したが、やがて布を解いた。中には小さな布切れと、折れた縫い針らしきもの、そして一枚の破れた紙片があった。紙には、かすれた線で何かの印が描かれている。完璧な出口印の形ではない。だが線の端に、古い黒いインクと同じ匂いが残っている。

「それが刺さっているものの一部かもしれない」とカーレルが言った。「これを抜けば、恐らく記憶の一片が戻る。しかし戻る断片は荒い。彼女にとっては、痛みも伴う。出口印を作り直す鍵にはならないかもしれないが、彼女自身のためにはなる」

イロの顔がゆがんだ。恐れを承知で彼女は一つの決断をした。「私は……その針を抜く道具が必要です。針抜きがあれば、抜けるかもしれない。出口印は、そのあとでいい。私は自分を取り戻したい」

ダンは黙って頷いた。申告は正しい。イロが本当に必要としているのは記憶の断片を取り戻すための小道具だ。布を包んでいた荷物には小さな薬箱が一つあった。ダンは申告書に印を押す。彼の指先が申告台の冷たい木に触れると、微かな音が鳴った。能力は静かに働き、迷宮の重力のように物が場所を変えた。しかし発動の瞬間、ダンは能力のもう一つの性質を思い出す。自分が申告をする者である場合、自分の言葉の正確さがすべてだ。誤った申告は他人の大切な物を石にする。彼は慎重に目を見張った。

針抜きは布箱から、次の瞬間にはイロの手にあった。彼女の肩が震え、息を呑む。カーレルは消毒液を取り出し、手際よく傷口に当てる。イロは目を閉じ、叫び声を抑えながらもじっと耐えた。針が抜けた瞬間、空気が変わった。イロの眼に、割れたガラスを通したような光が差し込み、幾つかの欠けた記憶が戻る。彼女は自分の名を言い、兄の顔の断片を言い当てた。涙が頬を伝う。

「出口の印は?」イロが訊く。声はまだ震えている。

「それは別の話だ」とダンは答えた。「だが、あなたが自分の言葉で必要だと言ったものを渡す。それがこの場所のルールだ」

次に来たのは、風変わりな男だった。片腕に古い絆創膏を巻き、胸には通行札を二枚ぶら下げている。名はロタン。彼は誰よりも訴える力がある。瞳が光り、言葉が滑らかだ。だがダンはすぐに彼の目に何かを見た。欲と恐れが重なっている。彼の荷物は小さな箱に入っており、その蓋の内側には見慣れぬ銘が掘られていた。

「これを通してくれ。迷宮で見つけた。出口印の代わりになるはずだ」とロタンは言った。「これがあれば、誰でも出口へ出られる」

ダンは箱を開かせるように促した。中には金属製の印章が収まっていた。妙に新しく、彫りは精巧だ。だがその端には、見慣れぬ合金の光沢がある。ダンはそれを指先で触らないようにしながら、リーサに記録させた。リーサは筆記を止めることなく、細かく書き留める。

「申告は何ですか?」ダン。

「これは出口印だ。迷宮の管理者が作ったものの偽物だ」ロタンは誇らしげに言う。「俺はそれを持っている。これで人々を助けられる」

ダンは厳しく言った。「あなたが『助けるため』だと言っても、それが本当にあなたの必要かどうかを聞く。偽物であるなら、嘘を帯びた申告は荷物を石にする。そして嘘をついた者の大切な物も――」

ロタンは笑った。笑顔が硬い。カーレルの眉がピクリと動く。ロタンは小さな袋を取り出し、固い指で何かを揉みしだいた。中から小さな木製の人形が出た。汚れた布に包まれたそれは、ロタンの子供の写真を模したものらしかった。ロタンの目が一瞬曇る。ダンはその瞬間を見逃さなかった。

「お前はこの人形を大切に思っているだろう」とダンは静かに言った。「それがあなたの『大切な物』だ。もし嘘の申告であれば、人形は同じ重さになるだろう。石になってもいいのか?」

ロタンの笑いが止まる。彼は一拍の間に何かを秤にかけるように黙る。そして力なく答えた。「俺は……これは出口印だ。人形は、ただの飾りだ」

ダンは目を細めた。声のトーン、指の震え、言葉の選び方。全てが食い違う。嘘は、たいていそのどこかに隙を作る。ダンは申告の書に傾けるようにペンを取る。その場の空気がぎゅっと固まる。

能力は申告そのものに反応する。ロタンが「出口印だ」と