異世界転生紙芝居屋の救世主

異世界転生紙芝居屋の救世主 第7話「第6章」

薄曇りの午後、ナギは紙芝居箱の蓋を開けて、小さな額縁を三つ取った。布の匂いと古いのりの匂いが混ざり、指先に伝わる温度は少し冷たかった。彼女が今したいことは、今日の見せ物を「公の場」でやめることだった。客の群れの寸前で声を合わせられてしまえば、幻の案内は誰のものにもなりかねない。守る対象はいつもの顔ぶれだった。薄汚れた首筋を出してハンカチで涙を拭くミリ、手のひらに穴のあいた帽子を被ったトオマ、そして小さな群れをまとめる十四歳のリョウ。彼らはナギの仲間であり、紙芝居の観客であり、——何よりも自分自身で選べる子どもたちであった。

薄曇りの午後、ナギは紙芝居箱の蓋を開けて、小さな額縁を三つ取った。布の匂いと古いのりの匂いが混ざり、指先に伝わる温度は少し冷たかった。彼女が今したいことは、今日の見せ物を「公の場」でやめることだった。客の群れの寸前で声を合わせられてしまえば、幻の案内は誰のものにもなりかねない。守る対象はいつもの顔ぶれだった。薄汚れた首筋を出してハンカチで涙を拭くミリ、手のひらに穴のあいた帽子を被ったトオマ、そして小さな群れをまとめる十四歳のリョウ。彼らはナギの仲間であり、紙芝居の観客であり、——何よりも自分自身で選べる子どもたちであった。

「今日は裏の井戸のあたりで、ひっそりと短いのを二つだけやろう」とナギは言った。声は低く、しかし決意を帯びていた。ミリは頷き、リョウは眉を寄せた。トオマはその場で足をばたつかせ、好奇心を隠せない様子だった。

「誰かに見つかったの?」リョウが訊いた。彼は人目を気にする年頃の顔をしている。軍の宣伝隊が街に来てから、どこで誰が何を見ているかは命取りになりかけた。

「昨日、広場で変な男を見た」とミリが言った。「制服じゃないけど、逆さに持った小さな拍子木みたいなのを鳴らしてたの。鳴らし方が——なんか、普通と違ってた」

ナギはその言葉で身がすくんだ。逆さの拍子木。あの音は聞いただけで、心の中の節がぎゅっと締まるような気持ちにさせる。彼女は自分の箱の底に差してある白い最終頁を見やった。白紙はいつも軽く震えているように見えた。あれは何かを書き込める余地でもあり、同時に消えていく過去の余白でもあった。

「家の周りを見張るようなことはできない。けれど、表で大きく見せるのはもう無理」ナギは断言した。「今日から秘密の短編をやる。集まりは井戸の後ろの廃屋だけ。誰かが怖がって声を出すような状況にはしない。声は——本人の欲求だけで出させる」

「欲求って?」トオマが首を傾げる。

「『続きが知りたい』って自分で言えるかどうかよ。泣き声や叫びでねじ込むのは禁じ手。怖い気持ちで出た言葉は敵の物語に変わる。私の過去の頁がまた消えるかもしれない」ナギは低く言った。過去の頁が消えていったことを、彼女はこの仲間以外には話していない。だがここにいる全員が、彼女の言葉の重さを知っている。

彼らは廃屋の闇に紛れて、小さな輪を作った。窓の割れ目から冷たい風が入り、埃が踊った。ナギは新しく描いた三枚の絵を壁に立てかける。短い場面、三段構成。どれも石畳の小路、曲がり角、そして水の匂いがする場所を示している。幻は案内になるが、完全な地図ではない。小さな導きだ。子どもたちが自分の声で続きを求めるとき、絵の一瞬が揺らめいて、ほんの一筋の路地の像が彼らの目の前に短く浮かぶ。怖れで誘導すれば、その像は敵の望む風景を描き、ナギの記憶の頁が一枚薄くなる——それがルールだ。

最初の試みは、子どもたちの不器用な希望だった。ミリが小さな声で「続きが…」と言うと、額縁の向こう側に薄い灯が差した。浮かんだ像は古い井戸のそばを走る石畳で、左手に壊れた門が見えた。子どもたちの顔が瞬時に明るくなり、息を呑んだ。リョウが手を伸ばすようにして絵を触ろうとする。幻はすぐに消え、しかし誰もがそこに向かうことで次の行動を決めた。

「いい感じだ」ナギは小さく笑った。「これなら、外の監視に気づかれにくい。見せるのじゃなく、教える。自分たちで線をつないでいくんだよ」

だが一方で、廃屋の外では別の影が動いていた。短い足取りで広場を歩く一人の男は、軍の徽章ではないがその動作に冷たさがある。服の下からちらりと見えたのは、真鍮の金具で作られた小さな拍子木の骨。その裏側を逆さにし、音を控えめに出すようにカバーが付いていた。彼は人々の声を測る器を抱えているかのように、耳をすませていた。数日前ミリが見たものと同じ形だった。男の目が廃屋の窓を見やる。中の小さな声に反応する様子が、ナギの背筋を凍らせた。

「見張りがいる」リョウが息を飲んだ。「あの男、こっちに来てる」

「知らん顔して続けよう」トオマが提案した。だがナギは首を振った。彼女の能力は群衆の声を媒体にする。男がここで耳を澄ませば、幻がいつどのように起きるかを解析され、逆に利用される危険がある。敵は声を計測して、どのタイミングで人々の欲求を焚き付ければよいかを学ぶだろう。逆さの拍子木が、声のトリガーを解析する装置である可能性が頭をよぎった。

そのとき、窓の割れ目から小さな、しかし確かな合図音が聞こえた。外の男が金具を弾いたのだ。音はわずかに逆さの拍子木の節に似ていた。ナギは息を止め、紙芝居を一枚だけ取り出した。白い最終頁が箱の底でかすかに光る。彼女は子どもたちを見る。彼らは目を見開き、口元を引き結んでいる。恐怖が顔につくかもしれない。だが恐怖は絶対に利用されてはならない。ルールだ。

「今からやるのは演習だよ」とナギは言った。言葉を選んで、声を柔らかくした。「続きって言うのは、何かが知りたいって思うこと。怖いからって口に出すんじゃない。好きだから、という気持ちでもいい。心からの『続きが知りたい』が、幻を守ってくれる」

ミリの肩が小さく震えた。彼女の瞳には、夜に泣いた記憶の影が浮かんでいる。ナギはその手を取って、ぎゅっと握った。彼女の掌はひんやりして、安心を伝えるには十分だった。

トオマが先に練習した。彼は何度も言葉を繰り返した。「続きが…欲しい。続きが欲しいんだ」声は子どもらしく震え、だが恐怖ではなかった。額縁が一瞬だけ揺れ、石畳の像が右へ続く小さな階段を示した。彼の目がきらりと光る。自分で口に出すことで、彼は案内を得た。皆の顔に少しずつ自信が灯る。

だが敵は賢かった。窓の割れ目から男が再び音を鳴らした。外の広場で、遠くから別の人々の声が上がる。そうしてわざとらしい騒ぎが始まった。兵士の行進の真似をする男達が通りを走り、刃の擦れる音を立て、子どもたちの耳を撹乱させる。何人かの小さな隣人が屋敷の前で叫び声を上げた。恐怖を誘うための見せ物だ。

一人の幼い女の子が、よろめいてナギの膝に飛びついた。目は真っ赤で、全身を震わせている。彼女は嗚咽混じりに「続きを…続きが…」と呟いた。言葉の中には純粋な欲望もあったが、それはほとんど恐怖に押し潰されかけた声だった。ナギの胸が締め付けられる。もしその声で幻が起きれば、それは敵の望む物語になる。過去の頁がまた一枚消える。体感で、箱の中の白い頁が一瞬ひらりと薄くなったのをナギは感じた。

「待って!」ナギは反射的に叫んだ。だが彼女はすぐに自分を制した。禁じられているのは「無理に誘導すること」だ。彼女が力で声を変えれば、代償は避けられない。ルールは厳格だった。それでも、やれることはあった。

ナギは膝をついて幼い子の目線に入った。「怖くないよ」と柔らかく囁き、子の小さな手をそっと包んだ。そして、紙芝居の一枚を取り、裏返した。そこには小さな白い空白が描かれている。白紙の最終頁ではなく、訓練用の余白だ。ナギは子を見つめ、手を引いて言った。「今は声に出すんじゃなくて、指で書いてみようか。続きが知りたいって思ったら、その気持ちを紙に絵で描いて」

紙に絵を描くことは言葉と違って外