異世界転生紙芝居屋の救世主

異世界転生紙芝居屋の救世主 第19話「第17章」

ナギは、小さな丸い広場の縁に座って、白く擦れた紙芝居箱を膝に抱えた。箱の蓋はいつもの匂い──古い紙と蜜蝋と、遠い劇場の埃を混ぜた匂いがした。彼女の前には十数人の子どもたちが輪になって座り、目を輝かせていた。風は冷たく、空には薄い雲が流れている。遠くの兵舎からは、定期的に木の棒を打ち合わせるような鈍い音が響いた。逆さに打たれた拍子木の音だとナギは気づいた。胸がきりりと締まる。

ナギは、小さな丸い広場の縁に座って、白く擦れた紙芝居箱を膝に抱えた。箱の蓋はいつもの匂い──古い紙と蜜蝋と、遠い劇場の埃を混ぜた匂いがした。彼女の前には十数人の子どもたちが輪になって座り、目を輝かせていた。風は冷たく、空には薄い雲が流れている。遠くの兵舎からは、定期的に木の棒を打ち合わせるような鈍い音が響いた。逆さに打たれた拍子木の音だとナギは気づいた。胸がきりりと締まる。

「今日は……どうしようか、みんな」ナギは低く声を出した。腕の中で紙芝居箱が重く震える。外套の下で、かすかな痛みが彼女の胸を引っ掻いた。記憶というページのどれかが、いつのまにか砂を噛むように薄れていくのを感じるとき、彼女は必ずこの痛みに襲われる。

「続きが見たい!」小さな手が真っ先に挙がったのは、眼鏡をきらきら光らせたトオルだった。彼はいつも一歩前に出て、声が先に出る子だ。隣では、赤い帽子のミアがじっと箱を見つめている。薄い顔に影が落ちていて、昼間の検問で母親を連れ去られた話を思い出しているのがわかる。彼らを守らねばならない。守るべき顔が目の前で息をしている。

「うん、じゃあ今日はみんなで終わりを選ぶ練習をしよう」ナギは笑って見せた。「私が全部を決めるんじゃなくて、みんなが声に出して『続きをくれ』って言えるようにする。そうしたら、紙芝居はみんなの声に応えるから」

その言葉に、数人が首をかしげた。だがトオルが先に声を上げた。「どうやればいいんだ?」

マルが隣で手を引き、低く囁いた。マルはここの小さな隊をまとめる年長の一人で、粗い手にいつも包帯の跡がある。無言のときほど頼れる顔をしている。彼はナギを見て一言だけ言った。「誘導はするな。敵はそれを待っている」

「わかってる」ナギは答えた。言葉以上のものを彼らに示すため、箱の一枚を取り出してそっとめくった。端が擦り切れた一枚の挿絵。そこには、小道を指し示す薄い幻の矢印が淡く描かれている。普段は観客の声がないと動かないものだが、ナギは子どもたちの目を一人一人見つめながら、小さな問いを投げた。「もし、その道の先に安全な場所があるとしたら、どんな終わりがいい?」

質問は重い。リスクを孕んでいる。軍は、こちらが一声でも恐怖で誘導すれば、幻をねじ曲げてプロパガンダに変え、ナギの過去の頁を一枚消してしまう。彼女はその代償を忘れたことはない。だが、沈黙のままでは、子どもたちの足は止まり、誰かが掴みに来る。

「平和な結末!」ミアが震える声で言った。「みんなが笑って、ご飯があって――お家に帰れるって」

「それ、いいね」ナギは笑みを固くして頷いた。「じゃあ、続きがほしいって、声に出して言ってみて。静かな声でもいい。みんなの声が合わさったとき、紙芝居は答えるんだよ」

子どもたちは顔を見合わせ、小さな声で「続きが…ほしい」と呟き始めた。最初はちらほらと、やがて数が増え、輪の中に弱い合唱が生まれた。声は恐れではなく、願いだった。ナギは胸の奥が温かくなるのを感じた――ほんの一瞬、幼い劇団員だった頃の手触りが戻った。

すると、紙芝居の表面に、淡い光が走った。くっきりとはしない、短い幻の案内。小さな紙に描かれた町の一角が、薄い灯となって立ち上がり、方向を示す。矢印はくるりと、子どもたちが指差した先の路地へと延びた。トオルが歓声を上げる。だがその歓声の裏で、遠くの拍子木の音がいつもより低く、響いた。

「来た」マルが一語漏らし、目を細めた。広場の入口に、幾人かの軍の服を着た者が現れた。先頭に立っているのは、派手な徽章を胸に付けた中年の男。鎖のような髭を撫でながら、ゆっくりと子どもたちに近づいてくる。軍報官──その顔を見れば誰もが黙る。

男の目は熱を帯びていた。彼は紙芝居箱を見たとき、薄く笑った。「これが噂の……紙の術か。興味深い。面白い実験ができそうだ」

ナギの手が箱の端で固まる。男の傍らで、二人ほどの兵が拍子木を持っていた。だが、その持ち方は奇妙だ。拍子木を逆さに持ち、上から叩くようにしている。音は不快に、どこか記憶を引き裂くような響きを含んでいた。子どもたちの息が止まる。

「君たち、そこで楽しそうにしているね」軍報官は柔らかく言い、しかしその声は鉄を含んでいた。「でもな、悲しいことに、人は時に正しい終わりを選べない。君たちの未来も、我々が導かねばならん。紙芝居の便宜は我々の管理下に置かれるべきだ」

彼の言葉は宣言でもあり、試みでもあった。周囲に緊張が広がる。兵の一人が拍子木を高く振り上げ、逆さの拍子木が空に鋭い音を刻む。音は狙っているように子どもたちの胸に触れ、細い恐怖を生む。

ナギの心臓が乱れた。彼は今、何をしたいのか──答えは簡単だ。軍報官を黙らせ、子どもたちを守ることだ。だが方法を誤れば、紙芝居が敵の物語を見せ、彼女の過去の頁がまた一枚消える。ナギはその代償に震え、しかし首を振った。

「黙っていて」彼女は小さく、しかし確固たる声で言った。「お願い、みんな。怖くても、泣いてもいい。でも、誰かの望みで続けてはダメ。自分で続きが欲しいと、声に出して言って。私たちの声で、私たちの道を作るの」

軍報官は鼻で笑った。「そんな幼稚な儀式で一体何が変わる? 声を出せば誰でもいい。恐怖で動かしても構わん」

兵が再び拍子木を鳴らす。音は今、明確な命令のように近づいてきた。トオルの目が潤んだ。ミアが肩を震わせる。ナギは素早く箱の蓋を閉じる寸前、決心した。「マル、動くよ」

マルは立ち上がり、その巨躯で広場の空気を遮った。彼は軍報官に向かって歩み寄り、声を張った。「ここは子どもたちの場所だ。君らの実験場や演説台じゃない。手を引け!」

軍報官は眉を上げ、短く命じた。「拘束せよ」

だが拘束の手は届かなかった。近くにいた一人の若者──セルという名の学徒が、そっと兵の目を逸らし、手にしていた小さな紙の人形を地面に投げた。その紙人形は子どもたちが作ったもので、笑いを誘う顔が描かれている。兵はふと足を止め、それを踏んで不愉快そうにする。小さな間が生じ、それが十分だった。

「やめて!」ナギは叫んだ。だがその叫びは攻撃ではない。彼女はすぐに子どもたちの輪の中心に戻り、箱を膝に引き寄せ、低く穏やかに続けた。「もう一度、みんな。どんな終わりが見たい? 怖い終わりは選ばないで。自分の声で、好きな終わりを言って」

ミアは小さな口で言った。「みんなで見つける終わり。誰かに決められない終わり」

「続きがほしい」少しずつ、声が戻る。今回は誰もが自分の意志で声を出している。恐怖に駆られる声ではない。その違いは、紙に浮かぶ幻にもはっきりと表れた。光は澄み、案内は温かく伸びた。路地の先にある屋根の上で、人々が穏やかに食事をしている小さな幻が差し込む。ナギはそれを見て、胸が震えた。これなら大丈夫だ――そう思った瞬間、背後で兵の一人が逆さの拍子木を強く叩いた。

音は鋭く、瞬間、広場の空気を裂いた。子どもたちの声が一瞬揺らぎ、ミアの小さな手が口元にあたった。ナギは全身に冷たい霜が走るのを感じた。もしこの瞬間に、恐怖で子らを誘導したり、彼女自身が無理に声を出させようとしたら、幻は敵の望む物語に変わる。ナギはその可能性を