異世界転生氷菓子師の辺境伯

異世界転生氷菓子師の辺境伯 第19話「第17章」

朝市はいつもより早く熱気を孕んでいた。冬の名残を引きずる雪国の谷でも、日中の陽射しは鋭く、石畳の上に並んだ露台に人々の声と香りが立ち込めている。レナは自分の小さな屋台に腰掛け、手のひらに置いた小さな木箱を撫でた。中には幾つかの薄紙に包んだ果実の切れ端がある。誰かが差し出してくれた分け前だ——いつもは自分が山で採ることもあるが、今日は村の者たちが自分たちの口分を持ち寄ってくれていた。

朝市はいつもより早く熱気を孕んでいた。冬の名残を引きずる雪国の谷でも、日中の陽射しは鋭く、石畳の上に並んだ露台に人々の声と香りが立ち込めている。レナは自分の小さな屋台に腰掛け、手のひらに置いた小さな木箱を撫でた。中には幾つかの薄紙に包んだ果実の切れ端がある。誰かが差し出してくれた分け前だ——いつもは自分が山で採ることもあるが、今日は村の者たちが自分たちの口分を持ち寄ってくれていた。

「今日はどれくらい渡そうかな」子どもたちの代表を務めるキコが、照れくさそうに箱を差し出す。目は真剣だ。市場の中心で、氷菓の製法を教えるという約束を、レナはした。自分一人で作るやり方を続ければ楽だ。だが先週、遠方の市場で感情を失った老人の話が広まってから、彼女の胸の中で何かが変わっていた。能力は救いでもあり、誤れば毒にもなる——それを見えるかたちで止めたかった。

「ありがとう、キコ。全部一緒にしてしまわないで。小分けにして渡して」レナは簡潔に指示した。彼らが果実を小さな布に包んで渡す。条件はいつも同じだ。『本人が分けてくれた果実』であること。誰かが自分の分を差し出すことで、その甘みを凍らせる権利が生まれる。人の意志が介在しないと、力はうまく働かないし、危険だと感じられる。

キコの母親が近づいてきて、小さな声で言った。「ねえ、レナ。隣村では、あの人が作る氷菓を食べた人が、顔も無表情になったって噂があるのよ。あの人、全部自分でやってたわ。材料も、保存も、配り方も。どうしてそんなことに?」

レナは唇を引き結んだ。隣村の話は断片的だったが、どうしても看過できない。独り占め──能力を独占的に運用した場合に人の感情まで凍らせるというルールは、いつも頭の片隅にあった恐れだった。だがそれが現実の事例となって伝わってくると、胸が締め付けられる。

「私たちでやり方を変えよう」レナは言った。「今日は市場で、いくつかの試みをする。製法の工程を分けて、それぞれを別の人に任せる。そのうえで、氷菓を作るのは一度に少しずつ、皆の同意のもとにする。独占にならないように。」

その言葉に、向かいの露台にいるトーマが大きく頷いた。彼は市場の取りまとめをしている男で、合理的に考えを進めるタイプだ。「分担の名簿を作ろう。凍らせる作業、成形、保存、情報の記録——それぞれの責任を別々の者に分けて定期で回す。行政の目があるなら、我々の方がルールを先に作って示した方がいい。」

だが実行に移すとき、レナの体はすぐにその代償を思い出させた。最初の果実の甘みを凍らせる瞬間、空気が喰らうように冷え、彼女の血の中を吸い尽くしていく。掌が白くなり、息が浅くなる。手先が震え、指先の感覚が鈍る。短い吸熱のあと、果実は透明な薄氷を纏ったように見え、手渡された子どもの瞳が一瞬で柔らかくなった。

「だ、大丈夫?」トーマが支える。寒さはすぐに体温を奪う。能力は熱と腐敗を短時間吸い取ってくれるが、そのたびに彼女の身体温度が下がる。屋台の端に置いた湯壺に手を当て、レナは自分を繋ぎとめた。能力の効力と代償を目の前で示すことも、見せる教育の一部だ。しかし何度も続けられない。回数には限界がある。

午前の間に、近隣からの噂は鮮明になっていった。三日前、東の集落にある行商人ミリが大きな量の氷菓を作り、独りで配っていた。それを受け取った老人の一人が、次の日、笑わなくなった。家人は「以前は陽気だった」と言う。目の端が乾いて無表情で、問いかけに対しても返事が薄い。試食した者の中には気分の落ち込みを訴える者もいた。噂は不安を膨らませ、市場は評判を求めて来る客と、疑心暗鬼の混じる視線で揺れる。

「彼女は何をしたんだろう」キコが小声で言う。子どもの言葉は単純だが、好奇心と恐れが混ざっていた。

「何をしたかじゃない。どうやって作ったかだ」アシャが言った。彼女は村の医師で、湿布や薬だけでなく、人々の世話を引き受けている。腕組みをし、眉を寄せていた。「熱を吸い取るものは、人の感情にも触れる。大量に、同一の手順で配られれば、影響は累積する。医学的に見ても、外的ショックに対する反応の鈍化はあり得る。」

「それならば、さっき言ったように分けるしかない」トーマが続けた。「誰か一人が全部を占有しないように、各段階を複数人で行って、消費のルールを作る。量的上限、摂取の間隔、確認書類——そういうものだ。」

「でも、規模が大きくなればなるほど難しいわ」アシャが首を振る。「管理は手間を生む。人は便利な方へ流れる。誰かが良かれと思って簡略化したら、また同じことになる。しかも我々の手に余るほどの需要があるなら、外から手が入るかもしれない。辺境伯の摂政ならば喉から手が出るだろう。」

言葉の端に、いつも存在する敵の影が差した。摂政は秩序や安全を掲げて水や食の管理を強めている。今の市場の流れは、好意と必要から生まれていたが、制度的な吸引力に晒されやすい。レナはそれが怖かった。自分の技術が、誰かの支配手段になってしまうことを赦せない。

昼を過ぎ、レナは小さな「入門講座」を始めた。集まったのはおよそ二十人、年齢も性別もまちまちだ。彼らのほとんどが自分の家族の口分を持ち寄り、製法の一部を学ぼうとする者たちだった。レナはまずルールを読み上げる。

「一、材料は本人の同意で提供すること。二、氷菓の一単位は、三人以上の手で工程を分担して作ること。三、同じ人が一日に凍らせる回数には上限を設けること。四、誰がどの工程を担当したかを記録すること。五、感情の変調が見られた場合はただちに販売停止、調査を行うこと」

彼らはメモをとり、質問をする。ある年配の女性が手を挙げた。「お嬢ちゃん、それで本当に安全になるのかね。もし私たちがみんなでやっても、誰かがもう一度やりたがる人間ならどうする?」

「チェックと教育よ」レナは答えた。「独占を防ぐためには、技術そのものを分割する。凍らせる『瞬間』を誰かに全部委ねないで、例えば三人分の果実を三人分の手で小さく切って渡す。私が凍らせるのは、その中の一片ずつ、順に。成形は別の人、包装は別の人。保存は共同で管理する。そうすれば、もし誰かが乱用したら、他の人がすぐに止められる。記録は責任を明確にするため。教育は皆が同じ基準を持つために必要よ。」

キコが顔を輝かせた。「それなら私たちで市場を回せるね! おばあちゃんも参加したいって!」

だが思うよりはるかに手間がかかる。各工程を複数名に配分するとなると、かかる時間は増え、屋台の回転率は落ちる。需要の高さゆえに、不満が出るのは目に見えていた。レナはそれを前提にしていたが、それでもやると決めた。自分の力を減らすことで、力の濫用を防ぐ。だが、身体の冷えは容赦なく、実演で何度か凍結を行ううちに、レナは顔色を失い、唇が青くなった。

「休んで。今日はこれで終わりにして、明日続きをしよう」アシャが氷を入れた布袋をレナの首に当ててくれた——妙な逆説だが、外部から温めるのではなく、血流を調えるための処置だ。彼女の体が冷えるたびに、摂政が用意しそうな「安定化技術」の姿が脳裏をよぎる。あれは便利そうに見えるが、結局は力を国家の管理下に置くだろう。

午後の終わりが近づいたこ