異世界転生硝子工の発明王

異世界転生硝子工の発明王 第12話「第11章」

朝の陽が、まっすぐに通りを差した。色硝子越しの光は糸のように細く裂け、石畳に淡い縞を落とす。子どもたちはそれを追いかけてはしゃぎ、年寄りたちは久しぶりの陽だまりに笑った。ユイは工房の前に置いた木の机に肘をつき、手許の布でまだ乾ききっていない硝子の断片をさすりながら、その光景を見つめていた。

朝の陽が、まっすぐに通りを差した。色硝子越しの光は糸のように細く裂け、石畳に淡い縞を落とす。子どもたちはそれを追いかけてはしゃぎ、年寄りたちは久しぶりの陽だまりに笑った。ユイは工房の前に置いた木の机に肘をつき、手許の布でまだ乾ききっていない硝子の断片をさすりながら、その光景を見つめていた。

「今日は管理会の件で話し合いをしますよ」隣の家のハナ婆が、皺くちゃの手でこしらえた帽子を直して言った。「外の者を入れない、誰に渡すかは町で決める。そうでなければまた奪われるわ」

「奪うって、売り飛ばすってこと?」若者のローゼが腕組みをして言う。彼女は耐火性の布を肩に掛け、硝子の磨き方を覚えたばかりだ。「材料代も賄わないと。俺たちだって食わなきゃならない」

ユイの手のひらが、布の下で小さく疼いた。残った傷の名残りだ。あとからじんじんと来る、割れた窓の痛み。無言のうちに彼は手を握りしめ、息を吐き出した。あの日の硝子が砕けた瞬間の、衝撃と匂いがまだ鮮明に蘇る。掌の骨が鳴るような感触。痛みは消えない。忘れようとしても、石のように根付いている。

「ユイさんはどう思う?」ハナ婆が訊ねた。

ユイは窓越しの光を一度見やり、ゆっくりと立ち上がった。「まずは、この光が誰のものでもないってはっきりさせよう。浄化は人の命を守るためだ。政治や金儲けの具にしてはいけない。……でも、材料や炉の燃料は必要だ。だからルールを作る。誰が窓を受け取るか、誰が修理をするか、資金はどうするか。全部、ここで決めよう」

会議場に詰めかけた人々の目が、一斉にユイに向いた。期待。疑い。疲労。希望。ユイはそれらをひとつずつ受け止めながら、机の上に広げた羊皮紙に指で線を引いた。共同管理のための簡単なメモ。住民が選ぶ代表、定期的な点検、無償での最低限供与と分割販売の禁止、外部への技術提供は住民全体の合意が必要――言葉にすれば簡単だが、守るのは難しい。彼はそれを知っていたから、声を強めず、しかし揺るがない決意を込めて言葉を続けた。

「それと、記録を残す。誰にどの窓を渡したか、いつ修理したか、壊れたらどう対処したか。記録は声の代わりになる。誰かが後で『知らなかった』と言えないようにするんだ」

ローゼが「記録なんて面倒くさい」とぶつぶつ言いながらも、一枚の薄紙に名前を書く手を引き受けた。他の者たちも、主導権を奪われまいと自然に動いた。ユイはその連帯に胸を熱くした。彼が望んでいたのは、ただの恩寵ではない。人々自身が選び、守る仕組みだった。

話し合いが進む中、通りの向こうから足音が近づいた。役所の巡査らしい黒い外套を着た男二人が、通行証らしき紙を掲げている。彼らの背後には、巡回札を掲げたもう一人。住民たちの表情が一瞬固まった。外套の袖口には小さな金の紋章が光る。それは役人、もしくは城の直轄を意味するものだった。

「ここが問題の下町か」巡査が声を張った。「工房の者は誰だ。お前か、少年?」

ユイは肩をすくめた。少年と言われると、確かに見た目はまだ若い。だが、彼の暮らしと技術は年長者にも負けない。彼はゆっくりと手を挙げた。「僕が管理のためにここにいます。何かご用ですか?」

「王都の事業の関係で、浄化窓の調査が入っている。結界事業を妨げるような不正は許されない。商取引や改造、外への持ち出しがあるなら、役所に登録されるべきだ」巡査の声は、規則と秩序を振りかざすように冷たかった。

会議の空気が一変した。すでに噂は上の方まで届いているのか。誰かが空気を吸い込む音が聞こえた。ハナ婆が急に立ち上がった。「登録って、私らの自由を奪うってことじゃないのか? 結界の仕組みを握る奴らに売り渡すのか?」

「そんなことはしない」ユイは言った。口調に甘さはない。彼は自分の言葉を大事にする人間だ。今回ばかりは妥協したくなかった。「うちの窓を外に持ち出すこと、設計図を渡すこと、売ること――すべて、この町の総会の承認がない限り禁止します。登録は問題ない。だが登録の内容は住民が確認できるようにする。隠匿はさせない」

巡査は眉をひそめたが、役所の命令以上の強引はできないらしく、紙を一瞥してから肩をすくめた。「上に報告はしておく。住民の合意があるなら当面はこれ以上の手は出さない。ただし、何かあればすぐに……」

彼の言葉は途切れ、背後の街路に伸びる影に、ひときわ高い塔がぽつりと見えた。塔は石でできていて、先端は雲を突き抜けるほどではないが、周囲の建物より明らかに高く、黒ずんでいる。窓の色はその塔を映さなかった。虹色の光が幾重にも交差する路地のど真ん中で、塔だけが硝子に映らないことが、妙に不気味だった。

ユイはそれに気づいて、視線をそらすように背を伸ばした。「映らない塔……」心の中で呟く。彼はその言葉に、守るべき対象の輪郭を再確認した。あの塔の影が、いつか自分たちの選択を覆すかもしれない。だからこそ今、目の前の小さな共同を固めなければならない。

会議は結局、住民代表六人を選出すること、修理と製作のための交代制を作ること、そして窓は原則無償で提供するが材料費は透明な募金で賄うことにまとまった。技術文書は誰でも閲覧可能な形で工房の掲示板に掲げる。外部との技術交流は全会一致を原則とする。決定権は住民にあること、外部の監査は住民の招きに基づくこと――条文は単純だが、有効に機能させるには日々の意思表示が要る。ユイはメモに署名を書き、ペンを差し出す。ザラリとした羊皮紙の感触が手に残る。

その日の午後、常連の一人が子どもを連れて工房に入ってきた。小柄な男の子は硝子窯の前で目を輝かせ、透明な金色の丸い窓を見上げた。「僕の家にもあれが欲しい」と言って、小さな手で窓の縁に触れた。温かかった。光は柔らかく、空気は確かに軽かった。男の子の母は涙ぐんでいる。ユイは胸が熱くなった。こういうことのために彼はここにいる。

だが、その瞬間、外から高い音が響いた。金属が当たるような短い衝撃。工房の外壁の一枚の窓が、軋むような音を立ててひび割れた。人々の声が上がる。男の子がぎゅっと母にしがみついた。ユイは反射的に窯の方へ走ると、まだ熱を帯びた硝子板に触れた。掌に走る痛み。あの日の裂け目と同じ、冷たい針のような疼きが走った。

「大丈夫か?」ハナ婆が駆け寄る。ユイは大きく息を吐いた。痛みはそこにある。言葉の代わりに、彼は息を整えた。「……割れた。原因を調べる。誰も怪我はしてないか?」

幸い、破片は細かなひびだけで、落ちた破片もなかった。だが硝子の表面は薄く黒ずみ始めている。汚れとも違う、深い曇りだ。ユイはその曇りに目を凝らして、胸が締め付けられるのを感じた。曇った心で吹いた硝子は、光を毒に変える――その言葉が、頭の中で響いた。だが今、自分の心は曇ってはいない。怒りと恐れが混ざっているだけだ。怒れば、曇る。恐れが先に来れば手が震え、吹く技術に影響が出る。彼は治療ではなく予防を選んだ。

「僕が吹くのは最後の手段だ」彼は小声で言う。「壊れたら僕の手が痛む。だから、修理も含めて皆で分担しよう。今日から『破損対応チーム』を作る。訓練を受けた者だけが作業に当たる。だれでも手伝えるけど、肝は冷静さだ」

ローゼがすぐに手を