ちいさな牙で竜を噛む 第6話「第五章 名声の騎士と獣商会」
朝の空気がまだ冷たく残るうちに、ヴァルドは誇らしげに馬上で町門を出た。彼の背にあるのは、重厚な甲冑と黒い毛に覆われた大獣。獣の背には鋼の籠と同じ幅で組み合わされた装具が装着され、踏むたびに石畳が震えた。兵の列が続き、討伐隊の旗が風にひるがう。町の人々は門の脇に集まり、いくつかは拍手を送り、いくつかは顔を曇らせていた。
朝の空気がまだ冷たく残るうちに、ヴァルドは誇らしげに馬上で町門を出た。彼の背にあるのは、重厚な甲冑と黒い毛に覆われた大獣。獣の背には鋼の籠と同じ幅で組み合わされた装具が装着され、踏むたびに石畳が震えた。兵の列が続き、討伐隊の旗が風にひるがう。町の人々は門の脇に集まり、いくつかは拍手を送り、いくつかは顔を曇らせていた。
ルカはその群れを遠巻きに見ていた。彼の隣にはセラが小さな手帳をぴったりと閉じ、ミミは薄く耳を伏せていた。ポロは、いつものように小さな火を一度だけ擦ってから、ルカの膝の上で黙って座っている。ガンガは後ろで砂を払いながら、地面の振動を時々確かめていた。
「ヴァルドが臨時の権限を得たらしい」セラは低く言った。「町長が討伐の名目で、彼に地下探索の許可を与えたみたい。『秩序のために』って書いてあるけど……」
ルカは何も答えなかった。前夜に見た排水路の影、黒い水滴の筋、そして消えていった魔獣たちの目がまだ胸に焼きついている。彼らがただの『暴走』ではなく、誰かの意図の元に誘導された可能性は高い。セラの言葉は、その疑念に輪郭を与えた。
「獣商会との取引ね」セラは続けた。「あの組織は強い獣を重宝する。彼らにとって幼竜の素材は金になる。ヴァルドが『討伐』してくれば、素材は早々に商会の利になる。利権と名声のいい取引よ」
港へ向かう道すがら、ルカは森羅のように群衆の顔を観察した。前世の夜々、保護動物の毛並みや目の色を見て、どこが傷んでいるか、どんな世話が必要かを判断してきた習慣が体に残っている。今は人々の指の動き、言葉の隙間、財布を握る音──そういう些細なものが事の流れを語っていた。
港は活気に満ちていた。帆布の匂い、海水の鉄っぽい湿り気、鯖の干し切りが干される匂いが混ざる。その奥の倉庫群の一角で、獣商会の男たちが鉄の檻を並べ、紐でしっかりと縛っている。檻の中には大きさもまちまちの魔獣が身を縮めていた。目が合うと、そこには飼いならされることを前提にした諦めがある。彼らの瞳に、かつてルカが夜中に撫でてやった野良犬たちのそれと同じ、疲れた光が宿っているのをルカは見逃さなかった。
獣商会の顔役は、額に薄い瘢痕を持つ男だった。油染みのついた手で硬貨を床に落とし、硬貨が跳ねる音を楽しげに聞く。そこへヴァルドが歩み寄る。騎士の金の紋章が、朝日を受けてひときわ強く光った。その光は、港の湿った空気の中で小さな金属音──硬貨や鍵の擦れる音と混ざり合い、薄く不快な和音を作った。ルカの背中に、鳥肌が立つ。
「良い獣を貸してもらおう」ヴァルドは低く言った。声には自信が満ちていたが、どこかに損得を計算する冷たさがあった。「危険な巣に入る。正しく討てば町の名は上がる。材料は相応の対価で受け取る」
額の瘢痕を持つ商会の男はにやりと笑い、籠の一つを開けて見せた。中には獣の牙と小さな角の欠片、鱗のぼろ切れが入った箱がある。その手つきは、獣を物として触る者のものだった。商会は獣の命を貨幣に換えることに躊躇はなかった。
ルカは一歩前に出た。胸の中に、守りたいという衝動が突き上げる。彼の手は無意識にポロを撫で、ポロは小さく喉を鳴らした。セラがすぐに手を掴み、静かに制した。
「ここで終わらせようとは思わない」ルカは声を震わせないようにして言った。「地下に何があるか、ただの素材で片づけるべきじゃない。魔獣にも理由がある」
ヴァルドはルカを蔑んだ目で覗き込み、陽気の光がその瞳に刺さる。騎士の腕は筋肉の内張りがきれいで、剣の鞘に見える刃の付け根には小さな銀色の欠片が埋められていた。それは鱗──竜の鱗のように見えた。ルカの心臓が一瞬早鐘を打つ。見間違いかもしれない。だがその鱗の欠片は冷たく、光を吸い込む。
「情に流される子ども」ヴァルドは投げ捨てるように言った。「闘いに名声は必要だ。誰かが盾となり、名を取らねば町は守れない。お前にその役割はない」
ルカは、言葉で争うよりも、真実を見せる方が速いと感じた。だが獣商会の眉は緩まず、港に集まる目は交易の機会を期待して光っていた。何人かは既に袋を開け始め、硬貨の小さな音が波の音と混じる。ルカが何を考えても、それは彼個人の感情にしか聞こえないだろう。町の官職と力量の論理は、情を排す。
「させない」ルカはそこで踏みとどまった。だが、押し返す力はなかった。ヴァルドには権限がある。商会には金があり、金は意思を速やかに形成する。
その夜、ルカたちは獣商会の倉庫の裏手に回った。汚れた係留具、藁の散らばる床、そして木箱が積み上げられている。セラが鍵穴に手を当て、呼吸を止める。前世での夜の静寂に犬を待たせたあの晩の緊張が、彼女の指先に戻っているのをルカは感じた。彼女が開けたのは、商会の隠し帳簿が詰まった箱だった。
「ここに……」セラの声は震えていた。帳面の紙は油と塩の匂いを吸い込んで少しぼろぼろになり、そこに記された鉛筆の線は冷静な事務的手つきで引かれている。日付、数量、行き先。幾つかの欄には赤い印が押され、そこには「港下流—◯◯排水路」と細く具体的に書かれていた。日付は討伐が起こる前日と一致する。欄の横には小さな矢印が描かれ、その先には「回収・保管」と読み取れる文字。
セラは顔を背け、ルカの肩を軽く叩いた。彼女の眼差しには、取り返しのつかないものを見つけてしまったという痛みが混じっている。ルカは紙を指先で撫で、鉛筆の線を追った。獣たちが夜のうちに港の奥へ移され、翌日には討伐という名目でその場所に人の出入りがある。計画はきれいに組み立てられていた。商会はリスクを最小化し、最大限の利を取ろうとしている。
「これは……」ルカは言葉を失いかけた。前世で、虐待された犬猫の飼い主の約束を裏切られた例を何度も見てきた。そのとき彼は、痕跡を読み取る術を身につけた。革の擦れ方、鎖の跡、餌の中に混じる異物の種類。今、ここにある帳簿は似たような匂いを放っている──計算され、冷徹な売買の匂いだ。
「私たちだけで動くのは無理だ」セラが囁いた。「でもこれがあれば、誰か証拠を聞いてくれるかもしれない」
ルカは頷いた。そのとき、倉庫の影で何かが動いた。ルカは身を低くし、ポロにそっと触れてその心音を求めた。小さな火の鼓動が手のひらに伝わる。ポロの心音はいつもより僅かに早く、警戒を示していた。ミミは耳をぴんと立て、暗闇の向こうを見据える。ガンガは甲羅を低くし、地面のわずかな振動を教えてくれた。
「誰かが戻ってくる」ミミが絞り出すように言った。
音は確かにした。鉄靴の音、鎖の擦れる音、そして硬貨の乾いた連続音。ヴァルドの一行が夜の業務を確認に来たのだ。ルカたちは身を伏せ、影に溶ける。だが向こうは数が多い。商会の手先が二、三人、倉庫の入口へゆっくりと入っていく。彼らは帳簿の動きを確認している様子ではなく、物資の状態を点検している。誰かが小声で笑った。笑い声の中に、残酷さが混じっている。
ルカは、感情に動かされるだけでは何も変わらないと改めて思った。前世での彼は、傷ついた動物を見つければただ突進して抱え上げていた。良かれと思ってしたことが、時にその命をさらに危うくしたこともあった。だから今回は、証拠を持って動く。