初級魔法で灯す王都の星環

初級魔法で灯す王都の星環 第5話「第四章」

侯爵家の客間は、午後の日差しが厚いベルベットの縫い目を浮かび上がらせるほどに静かだった。私はその空気に馴染めなかった。家の期待はいつもそうだ──音もなく肌を締めつけ、目の届く範囲を狭くする。監視の任は、書類と印章でだけ確かな重みを持ち、私の胸には別の重さが残った。仕事だ、と何度も自分に言い聞かせても、仕事は人を選ばない。

侯爵家の客間は、午後の日差しが厚いベルベットの縫い目を浮かび上がらせるほどに静かだった。私はその空気に馴染めなかった。家の期待はいつもそうだ──音もなく肌を締めつけ、目の届く範囲を狭くする。監視の任は、書類と印章でだけ確かな重みを持ち、私の胸には別の重さが残った。仕事だ、と何度も自分に言い聞かせても、仕事は人を選ばない。

「報告は正確に。リュネ・アステリアの術式に、上級に類する兆候がないか。学園評議会からの要請だ」

母の言葉は淡かった。彼女の目には、私が子供の頃から訓練されてきた冷静さがあった。だがその冷静さが故に、助けを請う鳴き声が遮られることを私は知りすぎている。今日の私の役割は、観察者であり、必要なら通報者である。手早く、過剰な情を排した報告を作ること。——だが訓練場へ向かう道すがら、私の掌は小さく震えた。なぜだと自問しても、答えはいつも同じ場所に落ち着く。傷ついた人を見ると、私の指先が勝手に動く。

実技場は喧噪と集中が混ざった匂いだった。熱い金属の匂い、消えかけの香油、そして魔力が弾けるときの金属音。高等科の生徒たちは光と塵を操り、白銀の呪文輪が空に幾重にも重なる。観客席の列は家名の布札で色分けされ、視線は慣習の秩序に沿って動いた。その中でリュネ・アステリアは、目立たぬ端に立っていた。彼女の術は、小さな火種が指先に宿る程度で、周囲の冷笑が紙片のように舞っていた。

私は彼女を監視する任務を告げられていた。だがそれは、彼女を裁くための位置でもある。私の胸の中で、狭い倫理と広い慈悲がぶつかる。家の命令は単純だ。潜在上級術式の兆候があれば報告する。それが評議員の望む秩序の保全なのだと、母は言った。——しかし、秩序とは時に人を切り捨てる理由にもなる。私はその線の上に立っていた。

突発はいつも、最も不意にやってくる。幼年課程の訓練生が、上級術式の余波で足元の石段を踏み外した。二段ほど落ちたところで体を捻り、胸を押さえて呻く。彼の隣で教師が手を上げ、演習は続行だと宣言する。空気が硬くなった。観客席の一部が息を呑み、貴族の親は眉をひそめる。命令系統は簡潔で残酷だ。上級科の訓練は生存の試金石であり、下々の縮減はいつの時代も受け入れられてきた。

でもそのとき、私の指が動いた。癖のように、私は膝を折って彼のそばへ駆け寄り、胸に手を当てた。治癒の初級魔法は、家の中でさえ軽んじられることがある。「癒しだけじゃ戦えない」と、父はたびたび言った。だがその光は、赤ん坊の心拍のように確かに暖かかった。掌から淡い緑の光が滲むと、少年の呼吸が浅く揺れ、痛みの輪郭が薄れていく。私が術を送ると、彼の指先が少し動いた。

教師は怒りを噛むように顔をしかめた。「続行。時間は有限だ。下級生は後ろへ下がれ」

だが私は言い訳などしなかった。私の仕事は監視だが、監視が人を見捨てる理由にはならない。治癒は緻密な仕事だ。傷の深さを測るための指先の圧、脈の位置、そして魔力を流す角度。音を拾うように私はこれらを確かめ、調律する。光が彼の鎖骨の上で波紋を作ると、周囲のざわめきが一つ小さくなる。

その時、リュネが私に近づいた。彼女の声は小さく、しかし確かな指示を含んでいた。「そのまま。気流を作ると、塵が散って呼吸が楽になります。光点で標を置けば、傷の位置が狂いません」

彼女は治癒の構造に触れたいように見えた。観察だけではない、何かもっと本能的なものが彼女の指先を動かしている。私は一瞬、監視する側の冷たさを忘れた。私は自分の手を離し、彼女の白い光点を見た。小さな灯が耳の周りで瞬き、浅い風が訓練場の塵を撫でる。彼女の術は豪奢ではない。だが必然性があった。効率があった。

「あなたは——」私の問いは、それだけで長すぎたかもしれない。観察するはずの私が、知らぬうちに協働を求めている。
「リュネ・アステリア。初級でここまで使えるとは思わなかった」と彼女に告げると、彼女は少しだけ頬を紅らめたように見えた。

「私は、治す人が何を望むかを読みたいだけです」とリュネは答えた。「どういう順序で魔を流すか、どこを固定するか。それが分かれば、私は光を繋げられる」

その言葉に、私の胸に小さな違和感が走った。彼女は自分の能力を説明している。だが説明の断片が、どこか救助の手順を連想させる。瞬時に安全を確保し、二次被害を避けるための順序。私の掌の奥で何かが反応した。それは、私が何度も命令と良心の間で揺れた夜の記憶だ。母からの指示を破り、互いの命の優先順位を決めたことがあった。そのときの判断と、今目の前の小さな光が重なった。

だが、ここで問題があった。リュネは私の治癒術式を構造的に知らなかった。術式連結は基礎の理解を要求する。私がただ手を当てれば、彼女の光はただの装飾に過ぎない。だから私は、言葉で説明することにした。初級治癒の補助は、教えるのに向いていた。私は呼吸の仕方、刻む音節、指先の角度を、簡単な言葉で分けて示した。呪文符の一筆一筆を想い出すように説明する。彼女は神妙に耳を傾け、紙に走り書きをしていた。

「まず鎖骨の一点で血流を観る。次に肋骨の間で温度差を探し、そこへ緑を小さな円で回す。呼吸に合わせて三段で戻すと、組織がまた繋がる」——私がそう言うと、彼女は自分の光点をその順序に並べ替えた。微風が第一段、光点が第二段、私の緑が第三段を満たすように調整される。

紙に描く図を口頭で繰り返すと、驚くほどに彼女は理解した。手つきが穏やかになり、彼女の白い点が私の緑に寄り添う。風は塵を掻き出し、光点は傷の輪郭をハイライトした。私たちの術が同期すると、少年の顔にあるかすれた痛みが解けていくのが見えた。観客の中の一部が、なんの技術だろうと首をひねる。教師の表情は固まった。私の胸は不思議な充実で満たされた。監視の枠から外れて、私はただ一人の治癒者になっていた。だがそれと同時に、職務としての緊張が私の背に戻る。私はここで何を報告するのか。

連結は成功した。三者の小技が一つの安定を作り、少年の呼吸は規則正しく整った。だがその達成の代償は、目に見えない形でやってきた。リュネの瞳が一瞬、遠くを見たように揺れ、彼女の掌から小さな光の粒が零れるように散った。彼女は顔をしかめ、手のひらをひらりと振った。

「……一時間、前の会話が抜けました」

その声は驚きと、どこか諦念を含んでいた。私はその言葉に鳥肌が立つのを感じた。連結の副作用は理論上存在するが、実際に目の前で誰かがそれを口にするのを見ると、どうしても背筋が冷たくなる。記憶の欠落は、小さなものなら値段として許されるのかもしれない。しかし、彼女が困るであろう大事な記憶を失うリスクは、私にとって現実の問題だ。

少年は意識を取り戻しつつあった。周囲のざわめきが増し、教師の眉間にしわが寄る。私の役目はここで完了だろうか。報告書に何を記すべきか。私の家名の封印が頭にちらつく。母からの電報が、確かに今日の午前中に届いていた。封筒には評議会の紋章と共に、我が家の上席の署名があった。それは「中央塔防衛を優先すること」と明確に書かれていた。内容は冷たかった。民間の混成班の試験参加は認めないように、と。しかしそれは、私にどちらを選べと言