靴屋

靴屋 第20話「第18章」

朝の光が、店の前に落ちた布の向こうへ迷い込む。カナタはその光をじっと見つめながら、重くなった足に手を当てた。革張りの義足はいつもより冷たく、動かすたびに関節の奥でひりつくような疼きが返ってくる。昨夜の脱出で何度目か分からない力行使をした結果だ。歩幅を取るたび、足の裏に鉛が張りついたように鈍く、胸の中に小さな焦りが湧く。

朝の光が、店の前に落ちた布の向こうへ迷い込む。カナタはその光をじっと見つめながら、重くなった足に手を当てた。革張りの義足はいつもより冷たく、動かすたびに関節の奥でひりつくような疼きが返ってくる。昨夜の脱出で何度目か分からない力行使をした結果だ。歩幅を取るたび、足の裏に鉛が張りついたように鈍く、胸の中に小さな焦りが湧く。

「また動いたのか、迷宮は」

店の脇に置かれた簡易の寝床で、ミラが子どもたちに朝食を配っていた。彼女は痩せているが、声は確かで、手つきに無駄がない。傍らにはガレンが立ち、見張りをしながら一杯の黒茶をすすっている。彼らの顔は眠気と緊張で凛としていた。カナタは店先の木の椅子に腰かけ、ゆっくりと靴箱の上に手を置いた。赤い靴が、いつもの場所にそっと置かれている。片方だけ。あの靴は今も、何かを待っているように見えた。

「ユナの件だけど……今日は彼女と時間を取れるか?」ミラが顔を上げ、尋ねる。声に遠慮はない。集めた子どもたちの中で、ユナだけが誰も目的地を言えない。言葉がこぼれない。口は動くが、目的地を指す具体的な言葉に至らない。カナタは自分の義足を見下ろし、返事を探した。

「行ける。だが、靴は使えないかもしれない」カナタはゆっくり言った。言葉を選ぶように、息をそっと吐く。「こいつを使うには、履く者が自分の言葉で『帰りたい場所』を言わないといけない。嘘なら底が裂ける。何度も使えば、俺の足が動かなくなる。今の状態で無理して使えば、二度と店を出られないかもしれない」

ミラの目が細くなった。ガレンの顔も少し引き締まったが、子どもたちの列の端で、ユナは小さな膝を抱えて目をつむっている。ユナの小さな足には、破れかけの布靴がぎゅっと絡んでいた。布の端には、かすかに赤い色が残っている。赤い靴の片方が彼女の胸元でしおれたぬいぐるみと一緒に抱かれているのを、カナタは見逃さなかった。

「嘘で通そうって話じゃないのは分かってる」ミラは低く言った。「けど、あの子をここに置いておけない。ザイフの検問が増してる。夜ごとに迷宮が動くたび、子どもたちの居場所が狭まっていく。一人でここに残せば、またあの徴税所に捕まる」

「分かってる」カナタは手の平で義足を押した。「だからこそ、力を使った救出は最後の手段にする。まずは言葉を引き出す方法を試す。無理強いはしない。ユナが自分で言うまで待つ。だが、それまでに時間はない」

ガレンが腕を組んだ。「待ってる間にも取り締まりは厳しくなる。ザイフは嘘っぱい『安全地』を流して、靴を破らせようとするかもしれない。俺らがそれに乗ったら終わりだ」

「それは知ってる」カナタは答え、店の奥から小さな木箱を取り出した。中には靴底の断片、試作した義足の金具、そして彼が最後まで手元に残した記録ノートが入っている。ページの端は擦り切れていて、何度も書き直した跡がある。カナタはノートを指でなぞりながら、言葉の代わりにそれを子どもたちに見せることができないかと考えた。

ミラは子どもたちに合図を送り、ユナをこちらへ連れてきた。ユナは目を伏せたまま、まるで自分の身体が外部の世界とつながっていないかのように、じっとしている。彼女の肩は小刻みに震え、時折唇を噛んでいた。

「ごめんね、ユナ」ミラは柔らかく言い、膝をついて子どもの目線に合わせた。「ここから出よう。どこへでも行ける。どこに行きたい?」

ユナは振り返らない。口が微かに動いたが、声は出ない。代わりに、彼女は赤い靴のつま先を指で撫でた。それは、何かを守る仕草のようにも見えた。

そのしぐさを見て、カナタの心の中で小さな針が触れた。彼がこれまで聞いてきた「言葉」には、必ずしも口から出るものばかりではない。匂い、触覚、旋律、記憶の断片――人は多くを言葉以外で示す。しかし、能力を発動させるには明確な言語が必要だ。だからこそ、カナタはユナに「自分の言葉」を引き出すための準備を始めることにした。押しつけず、導く形で。

「やることは二つだ」カナタは静かに集まった大人たちに言った。「一つは、安全な環境を作ること。子どもが自分の言葉を探すための余地を作る。二つ目は、言葉以外の記憶を言葉へ翻訳する手助けをすること。匂いとか、音とか、触覚。ユナが『あ、これ』って思えるものを用意する」

ミラは小さく頷いた。「歌とか? 彼女が寝ていた頃に誰かが歌ってた歌とか、食べ物の匂いとか」

「そうだ。強制はしない。誘い水みたいに」カナタは手を伸ばし、赤い靴をそっと開いた。「ただし、もし彼女が言葉を口にするときには、必ず本人が履いて、自分の言葉で言うこと。それ以外は試さない。俺の足のためにも、それが一番確実だ」

ガレンは少し反発を含んだ声で言った。「俺たちが代弁してやればいいんじゃないのか? 『ここが安全だから行こう』って。こいつの足がもう限界なら、口で救うべきだ」

カナタはその言葉を断った。「代弁は、力の条件を満たさない。それに、もし俺らが言葉で誘導したら、万一その場所が偽りだったとき、靴は裂ける。ユナの足元も壊れてしまう。代弁は短期的には救うかもしれないが、長期的には彼女自身の選択を奪う。俺はそれをしたくない」

ミラは眉を寄せたが、やがて小さく吐き出すように笑った。「そうね。あんたがそう言うなら、やり方を変えましょう。じゃあ、私たちは何をする?」子どもたちの代表としての役割を背負う彼女の声には、責任と不安が混ざっていた。

カナタは店の奥の棚から、古い匂い袋と金属製の小さな笛、そして一枚の擦り切れた絵葉書を取り出した。絵葉書には、遠い海辺の風景が描かれている。波打ち際、斜めに並んだ小さな家々、砂浜に落ちた一対の靴。誰かが昔に送った観光の絵葉書のようで、角が擦れて色が褪せている。

「これを見せる。匂い袋は、ユナの記憶に結びつくかもしれない。笛は、夜にミラが歌ってくれたあの旋律に似せて吹く。目に見えるもの、聴こえるもの、匂うものを揃えて、彼女が『ここだ』って言いたくなるまで待つんだ」

ミラは絵葉書を受け取り、ユナの前に差し出した。ユナは目を開け、絵葉書の海をじっと見た。顔が一瞬変わる。瞳の奥に小さな灯がともるような、その変化をカナタは見逃さなかった。

「覚えてるかもしれない」ユナは、ほんの小さな声で言った。だがそこで止まる。言葉が尽き、息が詰まったように小さな手が額に当たる。ユナは目を伏せた。

「ゆっくりでいい」カナタは優しく言った。「何かが出てきそうなら、それを引き出す。無理に引っ張らない」

子どもたちは周囲で静かにしていた。店の前に集まったのは、ここを避難所のようにしている人々と、脱出を待つ親たち。彼らの息づかいが一つの重みとなって、空気を満たす。外では迷宮の壁が、夜の移動に備えて低く唸るように響き合っていた。時間はない。しかし時間がないからこそ、人の声が急かされるとき、もっとたくさんのものが壊れてしまうことも知っていた。

ミラは小さな笛を取り、深呼吸してから柔らかな音を吹く。音は単純で、覚えやすい旋律だ。子どもたちがよく眠るときに聞こえたような、古い子守歌の断片。ユナの表情が少し和らぎ、息が整う。

匂い袋をほどき、潮の匂いを混ぜた布をユナの胸の前