遺跡案内人

遺跡案内人 第7話「第6章」

砂煙が空を裂いた。遺跡の外れに作られた見学路の石垣が、何度目かの地鳴りに耐えかねて崩れ落ちる。小さな悲鳴、子どもたちのざわめき、そして遠くから走ってくる大人の声が入り混じる。ソラは案内所の前で、手に持っていたパンフレットの束を握りしめながら、目の前の混乱を見つめていた。

砂煙が空を裂いた。遺跡の外れに作られた見学路の石垣が、何度目かの地鳴りに耐えかねて崩れ落ちる。小さな悲鳴、子どもたちのざわめき、そして遠くから走ってくる大人の声が入り混じる。ソラは案内所の前で、手に持っていたパンフレットの束を握りしめながら、目の前の混乱を見つめていた。

「先生! どうしよう、どうしよう!」と、背の低い子どもが駆けてきて、足元で立ち止まる。彼女の名前はユキ。修学旅行の班の一人だ。制服の袖口には土がついていて、涙の光がほのかに混じる。ユキの後ろには四十人近い子どもたちと数名の教師、見学に来ていた一般客が集まっている。崩落で塞がれたのは、案内所から町へ戻る正規の通路だ。代わりの道は古い遊歩道か、遺跡の脇を通って地下へ降りる小道しかない。だが地鳴りはまだ止まっていない。もっと悪いのは、遺跡の奥から断続的に赤い光が漏れていることだった。誰もそれを説明しなかったが、ソラの胸には冷たい理解が落ちた。

「このまま動くな。大声で走るな」ソラは自分でも驚くほど落ち着いた声で子どもたちに言った。彼にとって守る対象ははっきりしていた。逃げ遅れる子どもたち、案内所の新人、そして遺跡町で暮らす人々だ。守るために彼が今できるのは、混乱を最小にして、確かな避難路を見つけることだった。

ナナは案内所の隅から駆け出してきた。腰にぶら下げた石片のコピーを指先で確かめながら、顔を真っ赤にしている。「石の文字が動いてる。なんか……光の方向に、文字が薄く残ってるみたい」彼女の声には不安より先に好奇心が混じっていた。石文字を読むことが彼女の役割であり、彼女自身の選択だ。ジンは入口に立ち、腕組みして周囲を見回している。元盗掘者の手つきは乱暴だが確かで、崩れた石を素早くどけられる筋肉がある。マロはすでに大鍋を片付けたのか、腕まくりして子どもたちを落ち着けるための列を作っている。四人が自然と役割を分担する。

「ここで待機して。大人は子どもたちを抱えたり、手をつないだりして列を整えて」マロの指示は短い。彼には食堂の中で鍋をさばくと同じ確信があった。

ソラは息を吸い込み、口を開いた。「皆、俺の言う通りにしろ。ひとつずつ、この地面を自分の足で踏んで進む。君たちが自分で歩いた場所だけ、僕が幻を見せる。幻は一瞬だ。僕は結論を言わない。自分たちで決めるんだ」

言葉にした瞬間、子どもたちの表情がさらに混乱するのをソラは見逃さなかった。説明は短いほど効く。能力のことを初めて聞く人間が多数いる場で、長々とルールを語る余裕はない。だがソラの中には別の強い声もあった。あの場面を全部語ってしまえば、一瞬で皆を動かすことができる。だが彼はその衝動を押し殺した。断言すれば幻は消える。幻が消えれば、来訪者たちが自ら意味を選ぶ機会が奪われる。それは、彼がここで守ろうとしているものをないがしろにすることだ。そうしてしまえば、たとえ目先の安全を得られても、記憶の手がかりが一つ消える。ソラはその代償を、まだ取り返せるものではないと感じていた。

「どういうこと?」小さな声。ユキが手を引かれて近づき、ソラの目をじっと見た。彼女の瞳には怖さの裏に好奇がある。子どもたちは普段から案内所を好奇心で訪ねている。今は恐怖がそれを上書きしているだけだ。

「いいか。ここを一列に歩こう。先頭はナナ、その次はジン、先生たちは間に入って。子どもは手をつないで。ゆっくり、一歩ずつ」ソラは地面に立て看板代わりに靴の先を置き、子どもたちに示した。「踏んだ人には短い幻が見える。地面が最後に守ろうとした一場面だけ。それを見て皆で話し合うんだ。僕は答えを言わない。君たちが選べ」

ナナがうなずき、先頭に立った。細い肩越しにソラを見る。ジンは黙ってうなずき、腕に巻いていたロープを子どもたちの列に渡す。マロは訓練された声で歌うようにカウントを始めた。「一歩、二歩……」そのたびに、細かな振動が手のひらを伝う。

ナナの右足が地面を蹴った瞬間、幻が立ち上がった。空気が揺れるように、薄い映像が目の前の石塀に浮かぶ。ナナの瞳は瞬時に鋭くなった。幻は静かな場面だった。夕暮れの中、数人の影が西門の前で何かを運んでいる。影の一人が手招きをしている。西門は開いている。太陽の像が微かに光を反射している。幻はそれだけで消えた。時間は三秒にも満たなかったが、ナナの口元に力が入る。

「ここに、扉がある。西門」ナナの声は震えているが確かだ。「でも、誰かが外へ出している。荷を運んでる人がいる」

「荷って何だ?」教師の一人が問い返した。彼は案内所の話を半信半疑で聞いていた大人だ。ジンが肩をすくめ、腕組みしたまま言った。「それが問題だ。幻は一場面だけだ。地形の全体図は見せてくれない」

「だから話し合うんだ」ソラは短く言い、次の人に指示を出す。ユキが恐る恐るその場へ歩いた。彼女の足が地面を踏むと、今度の幻は石像の足元を映した。石像の視線が、確かに太陽ではない方角を向いている。そこに小さな子どもの手が差し伸べられており、像に触れている。幻はそこで途切れた。

「像に触る……誰かが像を直してる?」子どもの間にざわつきが走る。教師の一人は「でもその場面は何を意味するんだ?」と問うた。意味を求める声が高くなる。ソラは黙って、皆の話を聞く。彼自身は答えない。答えると幻は消えるからだ。

子どもたちの議論が始まる。ナナは見た符号を口に出す。「西門と像。どこかでつながっている。石像は、案内人たちの記録だって話を聞いたことがある。像が向いている方向を変えれば……」彼女は言葉を詰まらせた。ジンは現実的な声で言う。「そんなことより、今は通れるかどうかだ。幻はヒントだ。使えるものは使う」

教師の一人が突然にっこりと笑った。「じゃあ、子どもたち。みんなで考えよう。誰かが『扉がここにある』って言ったら、それに従って動くの? それとも自分で考えるの?」

「自分で選ぶんだ」ソラは答えた。彼は自分の手が震えているのを感じた。場面は短いと頭ではわかっていても、崩れかけた石や赤い光が迫る中では衝動が強い。言葉で決めてしまえば安全は一瞬で手に入る。だがその代償を払えば、後で大きな穴が遺る。彼はその空洞に怯えている。

列は少しずつ進んだ。幼い姉弟が手をつなぎ、年配の観光客が杖をつき、教師が最後尾で人数を数える。子どもたちは見た幻を口々に言い合い、それを組み合わせようとする。ある者は「西門へ行くべきだ」と主張し、別の者は「像の方角を変えている場面は避難の合図だ」と言う。討論は混沌としながらも、次第に方向性を帯びてきた。

ユキが大きく息を吸って言った。「扉があるなら、そこに向かおう」。声は小さいが、確かな決意が含まれていた。誰も彼女を押し出すことはしない。彼女は自分の足でその地面に立ち、自分で意味を選んだ。列の空気が変わった。自分で選んだという事実が、すべての人間の背筋を伸ばす。彼らは案内されるのではなく、自分たちで道を作ることを選んだのだ。

「よし、その方向へ行こう」教師がうなずいた。ジンが先頭に出て、崩れた石をかき分ける。子どもたちが押し寄せる。狭い通路が見つかったのは、ほんの数歩先だった。格子状の石が少しずつずれて、隙間が現れる。ジンは