人形王子

人形王子 第21話「第19章」

夜の工房街は器具棚の影と煤けたランプの輪郭だけを残して、寝息のように静かだった。木片の匂い、油の匂い、まだ温かい鉄の匂い。レオンは掌に残る微かな振動を感じながら、ひとつだけ今したいことを口にした。

夜の工房街は器具棚の影と煤けたランプの輪郭だけを残して、寝息のように静かだった。木片の匂い、油の匂い、まだ温かい鉄の匂い。レオンは掌に残る微かな振動を感じながら、ひとつだけ今したいことを口にした。

「明日の示威に向けて、できるだけ多くの工房の願いを掘り起こす。嘘は許さない。君たちの意思で、人形を動かすんだ」

言葉は短かったが、そこには問いかけと誓いが混ざっていた。傍らでマリアが人形を膝に抱えたまま小さくうなずく。首のない布の首周りに彼女の指が触れ、糸を撫でるように動いた。ニナは作業台の前に座り、黙って小さな車輪を磨いている。クレイは扉の方を一回りして、見張りの位置を確認する。清掃人ゴーレムは軋む音を立てて床を拭きながら目を細めていた。仲間たちは皆、各々の判断で動いている――それが今、何よりの頼もしさだった。

「時間がない」とクレイが言った。「王宮の動きも早まっている。夜明け前にもう一度見張りが回る」

「わかってる」とレオンは答えた。「だから一軒ずつ、丁寧に。命令で動く人形兵を作られたら、明日は魔物が来たみたいになる。僕たちはそうするわけにはいかない」

彼の手のひらに冷たい感触が返ってきた。昨夜、壊れた試作の人形に願いを吹き込んだときに味わった、他人の記憶の一端だ。匂い、声、焼けつくような疼き。力を使うたび、その痛みが胸の奥を掻き毟るように襲ってきた。だが今は引き受けるしかない。あの痛みの先に、姉と街の未来があるのだから。

最初に回ったのは、錆びた軋みを立てる時計職人の工房だった。小さな天窓から差す月光に、壁の時計の針がゆっくりと進んでいる。老職人のセルダは頑固そうな顔で扉を開けた。長年の煤で白くなった髭が震えた。

「王の徴発で、うちの歯車も軍に回る。知っている」セルダは言った。「だが、ワシの歯車は戦を刻むために作ったわけじゃない。だが……だが、どうしても言えぬ願いがある。恥ずかしい願いじゃ」

レオンは肩を上げて、にっこりはしなかったが温かく笑った。「恥ずかしい願いでも構わない。だが、その願いはセルダさん自身が口に出すんだ。私が代わりに選ぶことはできない。嘘をついたり、いくつも望んだりするのはだめだ。ひとつだけ。正直に、ただそれを言ってくれ」

セルダは躊躇した。指先が作業台の上で小さく震える。戦時の職人には、誇りと守るべきものがある。だが、気づけば彼は喉を鳴らして、震える声で言った。

「ただ……孫に、きれいな夜を見せてやりたい。煙のない夜を」

言葉は低く、切実だった。レオンは黙って壊れて放置されていた小さな自動人形の胸に手を当てた。木の冷たさと、かすかな機構部分のざらつき。願いはセルダ自身の言葉で告げられた――それが全ての条件だ。レオンがわずかに息を吸い、掌から薄い光のように思念を送り込む。機構に、願いの輪郭が滑り込むように流れ込んだ。

人形はぎしりと音を立てて歯車を回し始めた。短い時間だが、動いた。小さな人形は床に立ち、身を翻して窓の方を見た。セルダは泣きそうな顔をして笑い、孫のやりたいことを想像しているのがわかった。レオンは同時に、煙の匂いと遠い子供の泣き声の断片を感じた。誰かの夜が燃えた匂いだ。胸の奥が締めつけられる。だがそれは代償だ。セルダにとっての一瞬の祝福が、レオンの身体に痛みの記憶として刻まれる。

「ありがとう、若様」セルダが言った。声は少し震えている。

「気をつけて。短い時間しか――」とレオンが言いかけた瞬間、背後で金属が大きな音を立てた。隣の通りから、人声が聞こえる。クレイが窓の外を確認していた。王宮の見張りか、ただの通行人か。時間は刻々と迫っている。

次に訪ねたのは、衣装店のミラという若い女だった。細い針が何本も床に落ち、布の匂いが濃かった。彼女は手の傷を隠すように袖を押し上げ、顔を伏せていた。レオンは椅子に腰を下ろすと、静かに尋ねた。

「君の願いは?」

ミラは俯いたまま、短く笑った。「わたし? こんなの、王に渡す服を作るなんて言ってるけど……本当は、あの日……あの夜から、誰かを抱きしめて謝りたいの。縫い目の中に何かを書いて、とてもつらかったの。言えなかった」

言いにくい願いを、ようやく言葉に出した。レオンは彼女に触れず、手を差し伸べる代わりに、古い縫製機の壊れた部品を撫でた。ミラの願いが、その歯車に宿ると、布の束が静かにめくれ、窓口に向かって積み上がる。小さな機構が彼女のために動いて、机にあった古い布に小さなハートを残す。奇妙なことに、それは彼女が長年隠してきた罪悪感をさらけ出すような小さな癒しだった。

だが動いた直後、レオンの胸に冷たい衝撃が走った。ミラの過去の記憶の断片が押し寄せる。手を差し伸べようとする小さな少女の記憶、泣き叫ぶ声、彼女が縫い目に残した秘密の文字。目の前の世界が波打ち、立っていられなくなる。レオンは机をつかんで堪えた。口元から吐きそうな息が漏れ、ニナがすぐに背後から水を持ってきてくれた。自分で選んだことだが、代償は確かに存在した。

「大丈夫か?」ニナの声は低く、無口な彼女の中にある数少ない言葉だ。ニナは手先が器用で、いつも黙々と修理をしていた。彼女の顔には、あらかじめ作られた無表情ではない生きた緊張があった。

「平気だ。ちょっと、波が来ただけだ」レオンは答えた。真実は簡潔に切り捨てたほうがいいと学んでいる。だが、ここで嘘を言ってはならない。嘘は人形の停止を招く。レオンはニナの手をそっと握り、強くない力で励ます。彼女はうなずき、また静かに作業台へ向かう。

工房を回る中で、同意を得た者は少しずつ増えていった。鍛冶屋の若者は震える声で「子供を守りたい」と言い、家具職人は「壊れた椅子をもう一度座れるようにしてやりたい」と囁いた。ひとつだけ、嘘で固めた願いがあった。

鍛冶屋の隣にある工房の入口で、男が拳を握って立っていた。名はハーデン。昔は王宮の注文を受けて刀身を仕上げていたが、徴発で息子を出したことを悔やんでいるようだった。彼は意地を張っていた。

「俺の願いは――剣が強くなれ、だ」とハーデンは言った。声は大きく、周囲の空気を切った。だが隣の人々の顔は曇った。彼の言葉は明らかに本心とは違っていた。息子を守りたいという本音は隠されている。

レオンは冷たく微笑まなかった。嘘は人形を止める。ハーデンに静かに言った。

「一つだけ。本当にそれでいいのか? 本心でなければ動かない。それでもいいなら、選んでくれ」

ハーデンは眉を寄せ、黙った。かすかな汗が額に光る。鍛冶場の機械に手を当てた瞬間、レオンは一瞬、薄いガラスを通したような感覚でハーデンの胸の中を覗いた。息子の顔、送り出した夜の雨、そして悔恨。言葉を飲み込み、彼はほろりと声を漏らした。

「……息子を、無事に帰らせたい」

それが本当の願いだろう。だが、何かが引っかかる。ハーデンは顔をしかめ、慌てて続けた。

「だが――もし戦で勝てれば、家も守れる。剣が強ければ……」

言葉は二つの方向に割れていた。嘘のような言い訳、自己暗示。レオンの掌の中で、歯車がぐらりと震えた。願いが二つ、あるいは曖昧なまま送り込まれたとき、機構は迷い、短く痙攣して止まった。鍛冶屋の小さ