人形王子

人形王子 第17話「第15章」

雨が細く垂れる夜、作業台の上に広げられた紙片の端が、ニナの指先の油で光った。レオンはその光を見つめながら、自分が今いちばんしたいことをはっきりと宣言した。

雨が細く垂れる夜、作業台の上に広げられた紙片の端が、ニナの指先の油で光った。レオンはその光を見つめながら、自分が今いちばんしたいことをはっきりと宣言した。

「原理を突き止める。口覆いの設計図を解読して、願いがどうやって奪われるのかを知りたいんだ」

ニナは短くうなずいた。彼女は言葉を多く交わさないが、目は飄々と真剣だった。クレイはカップに手をかけたまま、低い声で付け加える。

「奪われたものをただ返すだけじゃ駄目だ。どうやって回収され、どこに蓄えられているか。そこが分かれば、返す方法も見えるはずだ」

言葉は簡潔だが重い。レオンは姉の寝床の写真、城下の工房街の顔ぶれ、徴発の恐怖に震える職人たちの表情を思い浮かべる。マリアが抱いている首のない人形の穴が、まるで胸の奥の空洞を写すかのように彼の視界に浮かんだ。守るべきものは確かにあった。だが、今は情報が足りない。妨げは、設計図の欠損と時間と、何よりルキウスの監視網だ。

作業台に散らばる紙片は、確かに「設計図」らしかった。細かい機械図と、音の流れを示すらしい矢印、そして輪郭だけ描かれた小さな石の図。だが一枚、肝心の中心部のページだけが切り取られている。クレイがその切り取り口を指でなぞる。

「ここが本体だ。吸引口と、音を刻む室と、振動結晶に似た装置。だが、その『取り出し方』がない」

ニナは紙片を拾い上げて、木彫りの小さなナイフで端を揃えた。彼女の動作は無駄がない。レオンは指先で欠けた図の境界をなぞり、頭の中で残りを繋ごうとする。だがどんなに想像しても、声がどうして「物」になるのか、正確な作り方が見えない。彼らにはサンプルが一つ、手のひらにあった。

クレイが小さな布の包みを開くと、中から欠けた金属片と、暗い色の小さな晶石の破片が出てきた。角が鈍く、表面に微かな振動痕のような筋が走っている。

「ルキウスの一隊が持ち去った供出品の一つからこいつを抜き取った。兵が装着していた小片の一つだ。設計図の示す石に似ている」クレイは石を約束のように差し出した。「だが、こいつはもう壊れている。刻印は――見ろ、この小さな溝。そこに言葉の名残りがある。物理的に、『声』が刻まれる場所があるとしか思えない」

レオンはその石片を受け取る。冷たい。だが掌に伝わるのはただの金属や石の冷たさだけではなかった。手のひらが、そのごく小さな溝に触れた瞬間、遠い記憶のようなものが浮かぶ。誰かの低い囁き。叫び。押し殺された願い。

「触らないで」ニナが制した。彼女の眼光に何か確かな恐れが混じる。「気を抜くと、あんたが――」

レオンは息を止めた。能力を使うたびに訪れるあの波だ。彼は自分が持っているものを自制する訓練を重ねてきた。だが石片は違った。設計図に描かれたものと、現物が示すものに接続した瞬間、記憶の断片が波のように押し寄せる。断片だ。誰の声なのか、完全ではない。けれども、確かな願いの気配がある。

「本当に、声が物になるんだ」クレイの声がかすかに震えた。「解体してみた兵が言ってた。あいつらは単に口を押さえるだけじゃない。叫びや願いを物質化して、貯蔵している。操られた兵は、そいつを『着せられている』ようなもんだ」

ニナは金属の破片を手に取り、木槌で端を叩いてみる。かすかな高音が走った。破片の表面に生じた振動が、微細な塵を揺らし、紙切れの先を揺らす。研究者のように、彼女は手際よく仮組みを始める。欠けた図に基づいて、彼らは小さな共振器を作ろうとしていた。実験には供述者が必要だ。誰かの「本当の言葉」がなければ、レオンの力も意味をなさない。

クレイが視線を落とす。彼の表情は、昔の鎧を着た人間のように硬い。

「俺が言おう。あの時、あの戦場で……仲間を助けられなかった。ずっと、そのことを言えなかった。守るべき人間を失った。俺の願いは――仲間を守ることだ、もう二度と見捨てない、そう思っている。それを、ここで声に出すことはできる」

彼の声は低い。言葉の端に、小さな詰まりがある。レオンはクレイの顔を見つめた。クレイは続ける。

「嘘はつかない。嘘をつけば、きっとあの石は答えない。俺は本当のことを言う。だが……これで誰かが傷つくなら、その責任は俺が負う」

クレイの瞳には過去の影が宿る。ニナが短く「いい」とだけ言って、手元の共振器をクレイに向けた。彼らは実験を始めた。ルールは単純だ。クレイが自分の願いを言葉にし、レオンはその言葉を聴いて、ニナが作った装置に触媒として作用する石片を当てる。だが発動条件は厳密だ。願いは本人の声でなければならず、嘘は致命的だ。レオンが果たしてその代償に耐えられるか。

クレイは息を吸った。黙する時間が、どこまでも長く感じられる。やがて彼は、ゆっくりと、声を出した。

「俺は、仲間を守りたい。そのために、ここにいる」

言葉は短かった。だがそれは嘘ではなかった。レオンはその瞬間、自分の胸に鋭い重圧を感じた。クレイの記憶が、さらりと、しかし濃密に流れ込む。泥と血の匂い、握りしめた手の冷たさ、見捨てたあの日の視線。レオンは目を閉じる。力にはいつも代償がある。彼はその代償を知っている。だが今回ばかりは、代償が味わいになるかもしれない。なぜなら、その言葉は真実で、救いになる可能性があったからだ。

レオンは手を伸ばし、クレイの言葉を「触る」。それはいつもそうだ。人の言葉や願いを受け取ると、レオンの中にその声の輪郭が浮かび上がる。色や匂いを伴う記憶として押し寄せる。だが今回は、ニナの作った小さな共振器に石片を当てる。石片は微かに青く光り、表面の溝が震える。装置は、設計図に描かれた通り、声の振動を受けて共鳴する。部屋に柔らかな音の層が立ち上がり、壊れかけの自動人形のひとつがぎこちなく動いた。

それは小さく、鈍い動きだった。片腕が無理に振れ、紐の緩んだ首が傾く。だが確かに自律していた。機械の目に、わずかな光が灯る。ニナは目を大きく見開き、クレイは拳を硬く握った。レオンは胸の真ん中がひりつくのを感じる。クレイの記憶の鋭さが、現実の重さに変換される。それはいつもそうだ。能力を使うたびに、レオンは誰かの痛みを知る。今回はクレイの痛みだった。

「動いた」ニナの声には、わずかな震えが混じる。「これが、どうやって奪うかの逆工程かもしれない。言葉を、振動を、石に刻む。刻まれたものを再生すると、短時間だけ自律する」

だが実験はここで終わらない。クレイはふと顔を伏せ、言葉を続けた。

「――だが、嘘をついてしまうかもしれない。あいつらに聞かれたら、言葉を濁してしまう。『任務だ』とか『命令だから』って。あれは嘘じゃないけど、本心じゃない。俺が、あの時『本当は』こう思っていたとは言えなかった。今、ここで言うのは本当だ。だが――もし、嘘が混ざればどうなる?」

レオンは黙っていた。彼はその答えを自分が知っている。だが確証がほしい。ニナは手を動かして、装置のダイヤルを少し絞った。レオンは意を決し、クレイに問いかける。

「嘘を重ねるって、どういう意味だ?」

クレイの顔が直った。彼は小さく、しかし確かな声で言った。

「たとえば、俺が『仲間を守る』と言いながら、本当は誰かの命令で動いたってつい