肖像画の悪役令息は恋愛フラグを無視する

肖像画の悪役令息は恋愛フラグを無視する 第5話「第4章」

朝の薄霧が村の石畳を湿らせているとき、集会所の扉はすでに開け放たれていた。木の床は冷たく、薪の匂いと染め粉の匂いが混じる。壁一面に並べられた小さな肖像——家ごとに描かれた顔ぶれが、いくつもいくつもガラス越しに眠っている。コルはその前に立ち、軽く掌で一つの額縁をなでた。ガラスは冷たく、絵の中の目は動かないが、彼はそこに宿る「決まり」を感じていた。

朝の薄霧が村の石畳を湿らせているとき、集会所の扉はすでに開け放たれていた。木の床は冷たく、薪の匂いと染め粉の匂いが混じる。壁一面に並べられた小さな肖像——家ごとに描かれた顔ぶれが、いくつもいくつもガラス越しに眠っている。コルはその前に立ち、軽く掌で一つの額縁をなでた。ガラスは冷たく、絵の中の目は動かないが、彼はそこに宿る「決まり」を感じていた。

「この順序でいく。小さな規則を一つずつ読み替えて、同意を積み上げるんだ」コルは声を低くして言った。声に震えはない。集まったのは村長のヘルム、織り子のアニカ、若い母親のマルタ、そしてトーレとアリエだった。村人たちの顔は眠気と疑念に満ちている。

コルは腰の布鞄から小さな木製の札を取り出した。四角く彫られたそれには、小さな肖像が彫られている。指先に触れるとざらりとした手触り。数は七つ。彼は札を一つずつテーブルに並べる。

「これは『選択札』。古い制度文書を読み替えるための、証と交換の道具だ。読み替えは通常、当事者全員の合意を必要とする。合意の証として札を出し合う。だが——」コルは言葉を切って札の一つを持ち上げた。「合意が取れない場合、私が一方的に決めることはできる。ただし、その代償として私の札の一つが消える。以後、使えない」

アニカが眉を寄せた。「一方的に? それじゃあ、お前が勝手に人の運命を変えるのと同じじゃないのか」

コルは小さく首を振った。「違う。私が一方的に決めるのは最後の手段だ。それで誰かが救われれば、その時点で私の選択肢が一つ減る。つまり、私個人の自由を代価にする。だが、今日はまだ皆の同意を得る方法を優先する。小さな婚礼の規則から始めよう。『肖像は婚礼の夜、家の入口に掛けられねばならない』——この条文を、一日以内に外すわけではない。掛ける時期を『最初の明け方から十四日の間にする』と再解釈してみる。どうだ」

ヘルムは唇を噛んで考え、やがてうなずいた。「それなら子どもを連れて逃げても、見つかったときに後ろ指を刺されぬということか?」

「少し猶予を与えるだけだ。決めるのは君たち自身だ。私からの強制はない」コルは静かに言った。彼の目は肖像の列を一度見渡し、最後に自分の持つ札の数に触れた。冷たい木は、まだ使える選択の証拠だった。

トーレが立ち上がる。「俺は東側の家々を回る。鍛冶屋と酒場に行って、年寄りたちの理解を得る。力ずくで押し切るつもりはないが、理由を示せば態度を変えてくれるはずだ」

アリエは頷き、手帳を開いた。「私は証言を集める。婚礼や儀式がどう行われてきたか、個々の記憶を記していく。書かれた文と、生活の中の実際を重ねるわ。人の言葉は六つの角度から見れば真実かもしれない。私たちはその六つを並べるの」

二人はそれぞれに出て行った。コルは村の古い婚礼帳をテーブルに広げ、条文を指で追う。字はかすれ、注釈が何重にも重なっていた。彼は読み替えのやり方を、頭の中で丁寧に整えていく。合意という小さな網を、人物と人物の間に掛けていくのだ。

昼が近づくと、トーレの声が遠くから戻ってきた。鉄と油の匂いを纏って、彼は酒場の前でひとりの老人と談笑している。コルが立ち上がり窓から外を見れば、トーレは笑いながらヘルムと何やら話をしていた。アリエは裏口から戻り、手帳に新しい頁を挟む。彼女の指先にはインクの点がついている。

「アニカが言ってた通り、昔はもっと柔軟だったみたい」アリエは小声で言った。「婿取りの儀式が近い家は、毎年少しずつ順序を変えていたとか。文章と現実のズレを複数、見つけたよ。人々はただ、文書があるから『こうだ』と信じ込むのね」

「それが我々のチャンスだ」コルは言った。「文章は変わらないだろう。だが、運用は人の合意で成り立っている。合意の積み重ねが制度を形作るなら、私たちの仕事はその積み重ねを取り戻すことだ」

だが夕暮れを知らせる鐘が鳴ったとき、集会所の空気は一変した。木の扉が勢いよく開き、黒い外套を着た女官が一枚の書簡を掲げて現れた。腰の刃は軽く光り、表情は公務の冷たさに締められている。

「リヴァンの使いが来ております。公廷からの督促状です。肖像の掲示と婚礼の順序は、上級府の決定によって確定されたものである。違反は罰則に処される。従わない者は刑を免れない、と」女官は一呼吸置き、村人たちを見渡した。言葉に争いの余地はない。

ヘルムの顔が固まる。「やはり、上からの圧力か……」

「上からの圧力は、それを従わせるための制度の正当性を保証する」女官は淡々とした。「しかも、最近は肖像を『役割の証明』として登録する手続きが厳格化された。肖像が掛けられた時点で、その人物の役割が確定する。廃止の申し立ても、上層でなければ受け付けられない」

その言葉は壁の肖像に重く返った。ガラスの中の顔は、不動の命令のように村を見下ろす。マルタの手が震えているのが見えた。彼女は幼い子を抱いている。夫は旅に出たまま顔を見せず、婚礼の夜の肖像が規則通りに掲げられたならば、マルタは「不貞の妻」として罰せられるかもしれないと、村では噂されていた。

「このままでは……」彼女はか細く言った。「私たちは子どもを奪われるのですか?」

アニカが立ち上がり、女官に詰め寄る。「そんなこと、古くからのやり方がいつの間にか人を縛るだけになったんだ。私たちには生活がある!」

女官は彼女たちを見て、反論する代わりにリヴァンの文字が入った証書を指差した。「署名は上の者だ。村の独断では動けない。従えない場合、上級府に報告する義務があります」

会場の空気に緊張が走った。灯りが一つまた一つ、肖像の中でかすかに揺れるように見える。コルは札をぎゅっと握った。代償の重さが掌に伝わる。

「マルタさんを、今ここで守る方法はある」コルは言った。声はいつもより節を作らない。彼は選択札の一つを手の中で回し、眼鏡のように古文書を覗き込んだ。「ただし、合意が得られなければ私が単独で決める。代わりに私の札が一枚消える」

トーレが白い息を吐いた。「並々ならぬ条件だ。コル、お前はそれでもいいのか」

コルは少しだけ眉を寄せた。無言の時間があった。外からは子どもの笑い声が聞こえ、石畳に雨の前触れの匂いが混じる。彼は言葉を選んでから答えた。

「私にはこれ以上、人を見捨てる資格はない。もし私の一つの自由が減ることでマルタの子が守られるなら、私はその代償を払う」

アリエは手帳を閉じ、彼の手を取った。「あなたの選択よ。だけど私たちがこれで終わりにはしない。これを機に、皆の合意を集めるの。今日の私たちのやり方が、明日の規則になるように」

コルは選択札を胸元に押し当て、深く息を吸った。彼は文書を指先でなぞり、女官の差し出した上級府の証書に視線を落とした。周囲の村人たちの目が彼に注がれる。誰も強制はしないが、期待と恐怖が混じった重さがそこにある。

「私の決定だ」コルは静かに宣言した。「この婚礼規則の一項を、ここにおいて『人道的配慮』として再解釈する。マルタは子を保持し、その肖像は今は掲示しない。上級府には後で説明する」

彼がそう言い終えると、並べてあった選択札のうち一つが、鈍い音と共にぱきりと割れた。木の微かな裂ける匂