図書館の悪役令嬢は大切な人に謝る

図書館の悪役令嬢は大切な人に謝る 第5話「第4章」

大広間の空気は、蝋燭の温度でゆっくりと傾いていた。長机は一本の川のように部屋を渡り、両側に座る男と女の顔が、揺れる灯火で断片的に浮かぶ。古い布製の紋章が壁に垂れ下がり、墨と羊皮紙の匂いが混じった。レイナは机の端に肘をつき、冷えた手のひらで漆黒の墨壺を押さえていた。向かい側にはマルセル伯、右隣にタマラ女伯、左にはアリサが墨で汚れた指先を動かしている。フェルドは短く息を吐き、甲冑の金属音が小さく鳴った。

大広間の空気は、蝋燭の温度でゆっくりと傾いていた。長机は一本の川のように部屋を渡り、両側に座る男と女の顔が、揺れる灯火で断片的に浮かぶ。古い布製の紋章が壁に垂れ下がり、墨と羊皮紙の匂いが混じった。レイナは机の端に肘をつき、冷えた手のひらで漆黒の墨壺を押さえていた。向かい側にはマルセル伯、右隣にタマラ女伯、左にはアリサが墨で汚れた指先を動かしている。フェルドは短く息を吐き、甲冑の金属音が小さく鳴った。

「我らの望みは単純だ」レイナは低い声で切り出した。彼女の声には、これまでの喧噪を背負った確信があった。「図書館の一角を『協議の場』として暫定的に法的に認めること。そこでは、古い制度文書の矛盾を、当事者全員の合意で読み替えることができる。この合意はここにいる全員の意思でなければならない。形式だけの同意ではない。あなたがた一人ひとりが主体的に選ぶ必要がある」

タマラの瞳に迷いが走った。城と家名を守る重さが、肩に落ちる。マルセルは顎を指でこすり、遠い昔に交わした約束を思い出すように小さくうなずいた。ルーヴェン卿——保守派の長老——は腕組みをしたまま、あくびのような嘲りを見せた。

「読み替えだと? つまり、君が古い条文を都合よく解釈し直すと。それを我々が皆で了承すれば有効になる、と」ルーヴェン卿の言葉は切りつけるようだった。「それが可能なら、なぜこれまで誰もやらなかった。都の許可なくして制度は動かせぬ」

レイナは机に置かれた羊皮紙を引き寄せた。そこには古い筆致でぎっしりと条文が並び、余白にはぼやけた注釈が残っている。彼女は一行を指でなぞり、声を上げた。「ここ、八十三条。'地方慣行に基づき、集い、議し、結論を得ることを妨げない'と書いてある。だが続く十四行目に『王都の規定に反しない限り』とある。相反する。矛盾はここにある。私たちはその矛盾を、ここにいる当事者全員の同意として読み替える。つまり──」

「──つまり、全員が『ここで決める』と明言すれば、八十三条と十四行目の分岐は均衡を保つ、というのか」マルセルが続きを囁いた。

「そうだ」レイナは顔を上げ、各々の目を一つずつ見た。「だが重要なのは、合意が『形式』であってはならないことだ。形式だけなら文字は捻じ曲げられ、我らはまた振り回される。だから、署名だけではなく、ここで口を開いて、自らの意思を宣言してほしい。私が代わりに決めるのではなく、あなたが自分で選んでほしい。そうしなければ、この読み替えは骨抜きになる」

沈黙が落ちる。アリサが小さく息を吸い、ペン先で書き付けるふりをした。タマラの指先が震えたが、唇の端が引き締まる。フェルドは無言で拳を握った。ルーヴェン卿の眉がさらに寄る。

「一つ、確認しておきたい」ルーヴェン卿は立ち上がり、長机を片手で叩いた。木が鳴り、部屋中に小さな波紋が広がる。「君の……特異な才についてだ。君は文書の矛盾を読み替えるとき、どう作用する? それは一方的な効力を持つのか。君が一方的に誰かの運命を定めた場合、どのような帰結がある?」

レイナの心臓が硬くなる。能力の輪郭はいつも曖昧な煙のようにしか人前で説明できなかった。だがここで曖昧にすれば、誰かが彼女の力を恐れて取引を差し止めるだろう。彼女は目を閉じ、過去に力を使ったときの感覚を指先で探した。ときどき、選択肢が一枚、扉が静かに閉まるような感触があった。何を代償として失うのかはいつも違う。だが法則は単純だった——一方的に誰かの運命を決めれば、その対価として自分の選択肢の一つが消える。

「私の読み替えは、当事者の合意があって初めて効力を持ちます」とレイナは言った。声は揺れたが、揺れを押し殺した。「そしてもし私が、一方的に誰かの運命を定めるためにこの力を使えば、私はそれと引き換えに、私自身の選択肢を一つ失います。何が失われるかは——事例によって変わります。私はそれを賭けるつもりはありません。ここにいる誰かの運命を奪ってまで、この場を手に入れたくはない」

ルーヴェン卿の目が鋭く光った。「なるほど。それならば、ここでの合意は本物かもしれぬ。だが問題は、外からの妨害だ」

彼の側近が扉を勢いよく開け、黒ずくめの使者が一枚の文書を置いた。朱色の紋章が押されている。部屋の温度がひとつ下がった。使者の差し出した紙は、王都の印章がある「臨時差止書」。あるいはそう見える。文面は端的で、地方における新規な協議体の設立は王都の承認を必要とすると書かれていた。文字の間に刻まれた朱の押印は、公式文書としての威圧を放った。

「王都の差止だと?」タマラの声が震えた。周囲の人々がざわつく。ルーヴェン卿は満足そうにほくそ笑んだ。「そこだ、これが問題だ。君は自らの力でこの差止めを無力化できるのか?」

レイナは紙を手に取ると、その朱印の周縁に微かな引っかき傷のような注記があるのを見つけた。これは……彼女の指が震えた。読み替えの材料はそこにある。もしここを一方的に読み替え、差止書の効力を差し止めれば、今まさに机上の合意は有効にもできる。だがその代償を彼女は知っていた。自分が一人で決めることで、失うものの種類は重い。場合によっては、彼女が今抱えている「謝る権利」そのものが閉ざされるかもしれない。

一瞬、暗い想像が頭を過る。セリナの顔。謝罪を、直接伝えるその機会が、どんどん小さくなっていく。だが同時にタマラの家名、マルセルの老齢、フェルドの忠誠がここで砕かれるのも見ていられない。レイナはゆっくりと紙を机に戻し、首を振った。

「私は、やらない」彼女の声は静かで、しかし確固としていた。「私が一人で誰かの運命を決めることはしない。ここで決めるのは、ここにいる皆だ。私が代わりに運命を奪うことは、私の手であなた方の選択肢を削ることに等しい」

それを聞いてか、タマラが立ち上がった。彼女の指先には白い汗が光るが、目は揺れない。「私は自分で決める。家を守るためであり、未来を見据えるためだ。私は署名する。後で何があろうと、私の名前でここに立つ」

タマラは羊皮紙の前に膝をつき、深く息を吐いた。アリサが小瓶の底から墨を掬い、太い羽根ペンに含ませる。大広間のざわめきが一瞬止まり、吸い込まれるように静まり返る。タマラがペンを取り、指先に力を込める。羽根が紙面に触れ、ゆっくりと線を描く。インクは湿って、光を反射した。最後に、指先から一筋の墨がはらりと滴り落ちる。

カメラが上空から長机を俯瞰で捉えたなら、まるで時間が止まったかのようだ。滴が紙の縁に落ち、弧を描いて広がる。鼠色の微かな輪が条文に溶け込む瞬間、タマラの目が潤んだ。アリサはすぐにそれを拭き取り、しかし跡は残る。

「これが私の意志だ」タマラは低く言った。マルセルがそれに続き、フェルドも、控えていた小領主たちも一人ずつ口を開いていった。誰もが痛みを抱えながら、しかし自分の言葉で合意を紡いでいく。ルーヴェン卿のほくそ笑みは、少し収まった。

だが歓喜は短かった。門が激しく開き、二人の騎馬が駆け込んできた。彼らのうちの一人が古びた封印のある巻物を掲げ、高い声で読み上げた。「王都よりの追認停止! 本日付で、本所管の一切の地方協議設置は、王の臨時勅命により保留とする!」