文官の悪役令嬢は政敵と共同経営を始める

文官の悪役令嬢は政敵と共同経営を始める 第24話「第22章」

大広間の天井は、午前の陽を跳ね返して銀の模様を滲ませていた。列席者たちの息が揃うわけではなく、ざわめきは波のように寄せては返す。リラ=セレストはその中央、文官の濃紺の官服を着て壇上に立っていた。胸に刺した小さな木札がひとつ、冷たく指先に触れる。三つ並んだ「選択札」のうちの一つだ。普段は重さを感じないはずのものが、今日はやけに存在を主張していた。

大広間の天井は、午前の陽を跳ね返して銀の模様を滲ませていた。列席者たちの息が揃うわけではなく、ざわめきは波のように寄せては返す。リラ=セレストはその中央、文官の濃紺の官服を着て壇上に立っていた。胸に刺した小さな木札がひとつ、冷たく指先に触れる。三つ並んだ「選択札」のうちの一つだ。普段は重さを感じないはずのものが、今日はやけに存在を主張していた。

「皆の同意が必要です。文書は、当事者全員の意思に基づいてのみ読み替えられる——これが私の仕事です」

リラは声を抑えつつ、しかしはっきりと宣言した。大広間の片隅で、宮廷側の紋章が刺繍された長衣を着た役人が唇を震わせた。扇情的な噂を広げる小声が群れを走る。誰かが、彼女が「秩序を破壊する」と書いた薄い紙を撒いた。紙片は木の床に散り、舞台下の子どもがそれを拾って指をなめるようにページをめくった。

壇の脇には、合意簿と呼ばれる半透明の冊子が置かれている。表紙には旧体制の判例と格式が並び、蓋には細い溝が掘られている。リラはその溝に指を当て、合意の「起点」となる条文を示した。条文の文字は古語でくすんでいたが、祭壇のように並ぶ列席者の顔を見渡すと、彼女にはたちどころに現代語の意味が浮かんだ。

「第十二巻、親族合議の条。原文は『家の定めは血の連なりを超えず』——だが、その解釈は共同の意思によって変容する。ここを、こう読み替えたい。『家の定めは、その構成员の合意に従う』と」

彼女が言葉を置くと、場内の視線が一斉に合意簿の溝に集まった。合意の儀は物理的だ。リラが提示した新解釈の末尾に、列席者それぞれが指を触れて「同意」を示す。触れた手のひらに、淡い光が走る。カメラのように(誰かがそう言ったように)視線が手元のアップに寄る。年老いた公爵夫人の指、若い商人の手、兵士の荒い手のひら。賛同は一つずつ、線のように繋がっていく。

だが、宮廷は黙ってはいなかった。大理石の階段から、枢密院の使徒がゆっくりと降りてくる。冠の陰から笑いが漏れ、用意された言葉が群衆の耳へと撒かれた。「そのような読み替えは秩序の根幹を揺るがす。誰もが同意したとみなすのは詐術に近い」

噂が、いくつかの手を停めさせた。リラの隣に立つ筆頭家老が眉を寄せる。場内の緊張は急に鋭くなる。合意の連鎖は不連続にされかけた。

そんなとき、アイレン=デル=カーンが身を乗り出した。騎士軍の副将であり、彼は軍靴のつま先で木の板を押していた。低く、だが確かな声で言う。

「ここにいる者の意思は各々のものだ。宮廷の脅しで誰かの手を引き離すことはできない。私の側は同意する」

彼が言うと、付近にいた数人の騎士が立ち上がり、次々と手を伸ばした。その後に続いたのは、セラ=ミナ(リラの書記官で、元侍女)。セラは人一倍声を張り上げて、群衆の中に混じる不安を受け止めた。

「私たちは自分の声で決める! ここで止めれば、また誰かが誰かを断罪するための台本が続くだけよ!」

セラの宣言に、一瞬の沈黙が広がる。そして、ひとつ、またひとつと、掌が合意簿に触れる。リラの胸の奥で何かが軽くなるのを感じた。合意の鎖は宮廷の扇動を乗り越え、ゆっくりと法の回路を満たしていく。

だが、場外からの途方もない叫び声が、大広間の正面扉を破って入ってきた。門番の一人が血の滲む袖を抱え、少年の形をしている者を引きずってきた。若い記録係、名はマルク。彼は皇室の補助をしていたが、宮廷側の密命を嫌って逃げようとして捕えられたらしい。口には布が詰められ、目は怯えている。群衆の視線は一斉にそちらへ向く。宮廷の使徒が冷笑する。

「この者は反逆の疑いあり。身柄は王権に属す。合意の場にいるとは言えまい」

リラは瞬間、判断を迫られた。合意の効力は、全当事者の自発的な同意によってのみ条文を書き換える。マルクはそうした当事者たり得るか――彼は自ら署名できない。彼をその場で処罰すれば、合意の鎖は断たれ、彼だけでなくここにいる多くの人の選択が奪われる恐れがあった。だが、待てば彼は連行され、拷問にかけられるだろう。どちらも選べなかった。

リラの中で、選択札が一つうなるように震えた。彼女はこれまで、合意の力を重ねてきた。合意は当人の意思を保障する装置であり、彼女の読み替えはそれを拡張するための術だ。だが術には条件があり、厳格な禁忌があった——誰かの運命を一方的に決めてはならない。違えば、彼女自身の「選択肢」を一つ失う。

胸の奥の札が冷たく、重くなった。リラは壇の縁に手をつき、決めたように言った。

「マルクの身柄は、この場の合意に委ねられます。だが、ここでの決定は全員の安全を最優先とする。暫定的な保護措置を発動する――ただし、私はその適用を、私の一つの選択を以て確定する」

言い終えると、彼女は合意簿に右手をかざした。いつもとは違う熱が掌から流れ、薄い青の光が一つの選択札に伝わった。札がひとつ、軋むような音を立てて割れる。木片が指の間で割れ、粉になって落ちた。リラは割れた木の香りを吸い込み、胸のどこかが軽く痛むのを感じた。

「それでよいのか」と誰かが囁いた。リラは振り返って、マルクを見た。少年の瞳に、ほのかな祈りが光っている。

「私が一方的に彼の運命を決めた。代償は受け取った」リラは声を震わせずに言った。「だが私は、ここで誰かを差し出すことはしない。私の選択は減った——しかし、彼の選択の自由を守るために使うつもりだ」

その言葉は群衆に届き、場の空気が変わった。合意簿の溝に残る光は、割れた札を経たことで色が深まり、周囲に拡散していく。宮廷の使徒は眉を顰め、枢密院の長が表情を固くした。

一方で、壇上の端に立っていた男がゆっくりと前へ出た。ヴォルフ家の青年、エミール・ヴォルフ。彼の顔は普段より硬いが、その眼差しは揺らいでいなかった。家の威厳と、彼個人の選択が今、微妙にせめぎ合っている。

「私の家は長く、宮廷に従ってきた」エミールははっきりと言った。「しかし、ここで示された合意の原理——個々の意思を尊重するという原理に、私も同意する。ヴォルフ家としても、私個人としても同意する」

彼が手を伸ばすと、会場の一部がざわついた。彼の家の人間が視線を落とす。彼は顔を上げ、リラを直視した。

「あなたと家を共に経営する提案を受けたとき、私はそれが政治的に危険だと知っていた。だが今、ここで私が示すのは政治的計算ではない。私の家族の何人かは私を非難するだろう。それでも私は、共に始めることを公表する」

彼の発言で、群衆の空気はいっそう静まった。宮廷の使徒が口を開こうとしたが、合意簿に触れていた手の列はもう離れない。アイレン、セラ、そして一人また一人が手を引かずに居座り、光の鎖は完成に近づいていた。

リラはエミールの目を見返した。彼が十年にわたる敵であり得たことを、彼女は知っている。だが今、その敵は彼女の肩に手をかけ、世界を変える一歩を踏み出していた。

「あなたが私と共に始めるならば」リラは低く言った。「その代償のことは忘れない。私には残された選択が限られている。しかし、あなたの意思は今、ここにある。あなたの家の代表としての同意は、私たちの合意となるだろう」

エミールの口元に、薄い笑みが