舞踏の悪役令嬢は恋ではなく自由を選ぶ

舞踏の悪役令嬢は恋ではなく自由を選ぶ 第17話「第15章」

燭台の光が、長い円卓を蝋色の輪として縁取っていた。壁一面の窓外では冬の空が薄く光り、街路の石畳に積もった雪が遠くで銀色のざわめきをつくる。人々は丸いテーブルの周りに散らばり、誰もが足先を揃えるように身を寄せ、互いの表情を見つめ合っていた。部屋の奥で、弱くだが確かなリズムが聞こえる──調律されたヴァイオリンがひと弓、舞踏の始まりを告げるように弾かれたのだ。

燭台の光が、長い円卓を蝋色の輪として縁取っていた。壁一面の窓外では冬の空が薄く光り、街路の石畳に積もった雪が遠くで銀色のざわめきをつくる。人々は丸いテーブルの周りに散らばり、誰もが足先を揃えるように身を寄せ、互いの表情を見つめ合っていた。部屋の奥で、弱くだが確かなリズムが聞こえる──調律されたヴァイオリンがひと弓、舞踏の始まりを告げるように弾かれたのだ。

「ここで示したいのは、単純な逃げ道ではない」カミラは立ち上がると、たおやかな布地の裾を片手で押さえ、円卓の中心に向かって歩いた。彼女の声は、薄暗闇に落ちた言葉を結晶のように浮き上がらせる。彼女の横顔を、ロウソクの揺れる炎が一瞬切り取った。

「舞踏での『選定』が、いつの間にか人の運命を一方向に押し付ける道具になってしまった。私たちが今日ここで求めているのは、被保護者たちが自ら選ぶための場だ。文書の読み替えは、私が担える。ただし──」

カミラが言葉を切ると、椅子の重みが小さく軋む。円卓の向こう側には、重厚な顔つきの公爵マルセリオが一段と背を伸ばして座っていた。金の刺繍が施された外套からは、今にも権力が匂い立つようだった。

「条件はなんだ?」彼は低く問うた。声は暖炉の火の底を掬うように、ゆっくりと広がる。

「当事者全員の同意です。強制は読み替えには含まれない」カミラは静かに答えた。机の上には古い羊皮紙が一枚、予備として広げられている。表題は『舞踏規定三十八条』。墨のかすれた文字が、いくつもの時代の手を経てきたことを物語っていた。

「だが我々は──」公爵は指で見下ろすように羊皮紙を指した。「民が決められるなど、侯爵家の安定に関わる。俺の甥の爵位はこの結盟に依っている。全員の同意など得られるものか」

それは会場に凍るような重みを落とした。円卓の外側、茫洋とした影のうちの一人、リアンが拳を軽く握り返す。彼の瞳には、怒りと焦りが交互に揺れていた。

「では、誰の同意が足りないんだ?」リアンが言い捨てる。

「公爵だ」公爵の隣に座る、若い侯爵がつぶやく。顔は蒼白で、顎を引いている。彼の名はエドアルド。城の背後に控えた土地が、もし自由選択で人手を失えば、家門は傾くと考えているのだ。だがその声は、被保護者の望みを奪う理由としては、薄いとも言える。

円卓は再び波立った。被保護者の中には、エリゼという名の少女が座っていた。膝のあいだからは熱を我慢している小さな掌が見え、指先には舞踏会で定められた糸の端がまだ絡まっているようだった。音楽は静かに、しかし継続して室内を流れている。舞踏──その言葉が、ここでは約束と鎖を同時に意味した。

エリゼは立ち上がり、小さな声で言った。「私、選びたいです。誰かに決められるのは、私じゃないのです。――私には、踊れる相手を選ぶ権利が欲しい」

その瞬間、誰かがテーブルを叩いたわけではないのに、会場の向きがぐっと変わるのをカミラは感じた。空気の中に、薄く確かな希望が浮かび上がる。被保護者たちの視線が一斉にエリゼへ集まった。だがそれと同時に、公爵の顔に影が濃く落ちる。

「同意が得られぬ以上、読み替えは効力を持たない」公爵は言い切る。彼の言葉は石の板のように硬い。だがカミラは知っていた。公爵の固さの下に、何があるかを。

「マルセリオ公爵、あなたは何を失うのです?」カミラは歩み寄り、そっと声を落とす。語調はじつに穏やかで、それが逆に相手の神経をくすぐる。

「土地。爵位の相続の確実性。何より家門の体面だ」公爵の答えは素直だった。彼の指先が外套の裾を撫で、ぽつりと呟くように続けた。「だが私は皆の幸福を望むとも思っている。だが幸福と安定は往々にして懸け合わせだ。もし私が承認し、家門が壊れれば、憐憫を向ける者は誰もいない」

その言葉に、テーブルの向こうでイザックが眉を寄せる。彼は礼儀正しい老執事だが目は硬く、世界の仕組みを知り尽くしている。イザックは静かに言った。「その憐憫が、いつから他人の選択を奪う正当化になったのか。貴族の体面が、子らの人生を左右していいのか」

会話は輪を描き、意見はぶつかる。だが公爵の拒絶は崩れない。カミラは深く息を吸う。ここで彼女ができることは二つしかない。ひとつは、誰かが同意するまで待ち、説得を尽くすこと。もうひとつは──何も言わずに羊皮紙の上に手を置き、一方的に読み替えを行うことだ。後者には代償がある。彼女はそれを誰よりも知っていた。

「一方的に決めてしまえば、その代償は私のものになる」カミラは肩越しに囁いた。声が波のように高まる。「だけど、代償を払った先に残るものは、私ひとりの器で完結させるものではありません。自由の機会を、その場にいる全員に還すこと。それが私の望みです」

その言葉を聞いて、円卓の端に座っていたソフィーが手を挙げた。小柄な彼女は、舞踏に向けて編み込まれた花飾りを指で弄りながら、震える声で言う。「私は賛成します。被保護者が自分で選ぶなら、私も賛成します。でも、皆の同意がないなら、どうすればいいの?」

部屋の空気に、緊張と期待が渦を作る。外套の縁で指を擦る公爵の姿が、陰影の中で揺らいだ。誰かが誰かを説得すれば済むのか。カミラはその場に立ち尽くし、指先で羊皮紙の古い縁を撫でる。紙は冷たく、鱗のように微かな凹凸を作っている。

「これは読み替えの条件だ」カミラは言葉を短く区切った。「全員の同意が得られなかったら、私が一方的に解釈を変えることはできる。その代わり、私自身の選択肢を一つ失う。すなわち、私は自分の人生のなかから、未来のある選択肢を一つ、恒久的に放棄します。どの選択肢を失うかは、行為の直後に決まる。私の手元にあるものが示すのです」

カミラは小さな革袋を取り出した。中には白い小石が五つ、柔らかい布に包まれている。かつて誰かに「選択の代価だ」と諭されたときに授かったというそれは、彼女の能力の代償を象徴するものだった。小石は淡く光り、表面に刻まれた小さな符号が火のように震える。

「五つ……」誰かが漏らす。場内に静けさが広がった。

「どうして五つなの?」エリゼが訊ねる。声は震えていたが、好奇心が勝っていた。

「理由は無い。あの日、そう決まっただけだ」カミラは答え、その白い小石を鷲掴みにすると、テーブルの上の羊皮紙に手を置いた。彼女の指先が紙の上を通ると、部屋の温度が一度下がったように感じた。ヴァイオリンがもう一弓引かれる。音は細く伸びた。

公爵はそのとき、冷たく笑んだ。「ならば、見物だ。だが覚えておけ。代償の代わりに何を失おうと、貴族の利益が損なわれるとあらば、それに報いる手立てはある。私は法廷に訴える」

その脅しは砂を投げるようにばらばらと床を転がった。リアンの拳がまた小さく握られる。被保護者たちの顔に鳥の羽のような不安が広がった。カミラは白い小石のうち一つを掌に転がし、指の間で感じる冷たさを確かめた。

彼女は決断をした。静かな決意が、氷を割るように彼女の体内でひびいた。

「一つだけ、行使します」カミラは低く宣言した。「エリゼ・ランフォールの自由を守るために、これは行う」

部屋の空気が、びりりと震えた。エリゼが息を呑む。公爵の顔に血の気が上がる。リアンが立ち