夜行バスで別れを決めた婚約者は秘密の料理を完成させる
手を重ねると、料理にだけ残る痕跡が見える。
あらすじ
白瀬紬は夜行バスの車内で婚約者からの短い解消メッセージを受け取り、二人だけで作るはずだった「秘密の料理」を完成させるため、ノートと切符を手に街へ出る。物語は紬をはじめとする複数の料理人たちが、市場や共同厨房、移動式のキッチンや夜行バスを舞台に“共同で作る”ことの条件と代償に向き合う群像劇だ。共同作業でしか残らない“痕跡”を読み取り、同意と時間を守りながら料理を紡ぐ──しかし、メディアや行政の監視、評価制度による圧力が彼らのやり方を脅かす。誰と、いつ、どのように手を重ねるのか。記憶と合意、公共と私的な営みの境界をめぐる選択が続く。読みどころは、触覚や香りを伴う細やかな調理描写と、共同性をめぐる倫理的ジレンマ、そして各人物が下す判断の積み重ねによって変わる緊張感だ。