雨の日の自習室で嘘から始まる同居人は誰にも言えない失敗を分け合う

雨の日の自習室で嘘から始まる同居人は誰にも言えない失敗を分け合う 第19話「第17章」

雨が窓を叩く音が、自習室の蛍光灯の低いうなりと混ざって、一定のリズムを刻んでいた。ガラスに落ちる滴は細く、廊下の灯りを細く伸ばしてゆらゆらと揺れる。陽斗は机に肘をつき、濡れた傘を置いたままスマートフォンを耳に当てていた。通話相手の声は、向こうの窓に当たる雨のリズムと重なって、時々ふっと消えたように聞こえる。

雨が窓を叩く音が、自習室の蛍光灯の低いうなりと混ざって、一定のリズムを刻んでいた。ガラスに落ちる滴は細く、廊下の灯りを細く伸ばしてゆらゆらと揺れる。陽斗は机に肘をつき、濡れた傘を置いたままスマートフォンを耳に当てていた。通話相手の声は、向こうの窓に当たる雨のリズムと重なって、時々ふっと消えたように聞こえる。

「……俺が全部話せば終わるんですか?」陽斗は、声を押し殺した。雨音がその問いを受け止めて、何も答えない。相手は少し間を置いてから、柔らかく言った。

「終わらないこともある。でも、陽斗が一人で抱える必要はない。梓さんとも、仲間とも、相談した? 一人で全部決めるんじゃないよ」

話し手はいつものように決して詰めはしない。だがその口ぶりの優しさが、逆に陽斗を追い詰める。誰かの手助けは必要だと分かっているのに、助けを求めた時点で梓や仲間を巻き込んでしまう恐れが、彼の胸を締め付ける。

電話を切ったあと、陽斗はただしばらく窓の滴を見ていた。雨はやむ気配を見せない。学内の掲示板では北原が制度側の反撥を煽るように動き、昨夜には学務課に匿名の「問題提起」が届いていた。陽斗の同居の噂と、過去に起きた失敗をほのめかす文面。北原が個人的につけ入る機会を狙っていることは、もはや誰の目にも明らかだった。

ふと、陽斗の胸に重さが走る。彼の能力は常に彼を救ってくれたわけではない。共同で作ったものにだけ、互いの気持ちの痕跡が残る。その力は彼らの嘘と本音を、文字通り「共有」させることができるが、決して万能ではない。痕跡を決めつければ決めつけるほど、その痕跡は見えなくなる。早まって関係を固めようとすれば、その共同制作そのものが壊れる。代償はいつも、触れた指の感覚が薄れるような、小さな身体の不調として出ることが多かった。

「帰るよ」梓の声が背後からした。彼女は校舎の傘立てに濡れた傘を立てて、肩にかけたコートの襟を閉めながら、自習室に入ってきた。彼女の髪の毛先には水滴が残り、額には細かな雨粒の跡があった。二人は目を合わせる。言葉がなくても、今はそれでいい。

「北原が、また動いたんだ」陽斗は素直に言った。言うことで少し軽くなるかと思ったが、空気は変わらなかった。梓は椅子を引いて座ると、机の上に手を置き、紙の匂い、インクの匂いを深く吸った。

「仲間を呼ぶ?」梓が訊いた。声は低い。彼女の目は冷静だったが、その先にある不安を隠すことはできない。陽斗は首を振る。仲間に負担をかけたくない。だが梓の横顔を見ていると、彼女の決意もまた伝わってくる。

「呼ぼう。私たちでなんとかできることをやる。それだけでいい?」

その言葉に陽斗は首を縦に振った。二人はスマホで各々に連絡を取り、数分後には真琴、玲奈、祐が濡れた傘を差し込むようにして自習室に入ってきた。真琴は紙袋に入れた小さな製本キットを抱え、玲奈はスケッチブック、祐は録音機を持っていた。三人は言葉少なに頷き、蛍光灯の下で席についた。

「やることは一つ」と真琴が言った。「共同で作る。私たちで、一冊のものを作る。陽斗、それで負担を分ける方法を探そう」

陽斗はその提案に眉を潜めた。共同で作れば力は働く。しかし北原のような相手が事実をねじ曲げて晒す以上、ただの発行では足りない。彼の頭の中には、公に失敗をさらすことと、隠すことの天秤が交互に揺れていた。自分が公表すれば梓は巻き込まれる。隠せばそれはいつまでも風化しない火種として残る。

「どう分けるかは、作ること自体で決まる」玲奈が言った。「痕跡を決めないこと。誰が何を思っているかを断定しないこと。手を動かすことだけを大事にする」

彼女の言葉は、能力の条件をそのままに示していた。断定は痕跡を消す。早まることは共同制作を壊す。皆、息を吞んで頷く。だが、始める前の緊張は言葉にはならない。

真琴が袋から取り出したのは、何十枚もの薄い紙と、麻糸、そして古い製本用の針だった。テーブルにはインクの小瓶と、細い筆、鉛筆が並ぶ。祐は録音機をマニュアルモードに設定し、スイッチを入れておいた。機械の小さなランプが点滅する。窓の雨音と相まって、室内に小さな作業場のリズムが生まれる。

最初の試みは、陽斗の焦りで失敗した。彼は早く、これで片をつけたかった。過去を明かして終わりにする。だがその「答え」を彼が一方的に決めつけると、紙は白いままで、インクは紙の上で馴染もうとしなかった。陽斗がペンを動かした瞬間、視界がちらつき、彼の掌がじんわりと冷たくなった。能力の代償が身体に出たのだ。紙に書かれた文字はぼやけ、まるで水に溶けた墨のように、形を維持しなかった。

「早いよ、陽斗」梓は静かに言った。「決めないで。手を動かすことだけ」

彼女は陽斗の手を取って、自分の指に筆を載せた。真琴は麻糸の一本を裂き、祐は録音機のスイッチをさらに低い感度に落とした。玲奈はスケッチブックの端に指を置いて、誰もその線を支配しないように気配りをした。息を合わせるようにして、五人は同じ時間に、同じ動作を shared rhythm に変えてゆく。

紙を折る。糸を引く。筆を浸す。鉛筆で印をつける。誰もが自分の意図を宣言しない。陽斗は自分の頭で語ろうとする衝動を押し殺し、ただ手を動かした。すると、不思議なことが起きた。インクはじんわりと紙に馴染み、そこに微かな光景が現れた。断片的で、誰のものとも言い切れない記憶の断層のようなものが、紙の繊維の中でざわめいた。

玲奈がページをめくると、そこには彼らが一緒に過ごした些細な光景、講義の合間に笑った顔、梓が渡したコンビニのパン、真琴が間違えて配ったプリントの落書き——そんな日常が薄く滲んでいた。決定的な「失敗」の姿はない。だが陽斗は、その中に自分の心の重さが溶けているのを感じた。重さは薄まって共有された。痕跡は、個人の恥を曝け出すものではなく、関係の手触りとして残ったのだ。

「これでいいのか?」陽斗は囁いた。

「これが、私たちの答え」梓が言った。「公表の有無は別問題。まずは、あなたが一人じゃないことを示すものを持とう」

そのとき、祐のポケットのスマホが震えた。画面に通知がひらりと表示され、窓の雨音と同期して震えが増した。祐は眉を上げて画面を覗き込む。通知の差出人は学内掲示板の管理アカウント。だがタイトルを見た瞬間、陽斗の胸が突き刺されるように痛んだ。

「北原が、掲示板に……」祐は声を絞り出した。「学生掲示板に『証拠スキャン』っていう投稿がある。匿名だけど、学務課の連絡先と一緒に、陽斗の氏名を名指ししてる」

その言葉が出たとたん、部屋の空気がざわついた。真琴が手を止め、インク瓶に指先を触れたまま固まる。梓の指先がわずかに震え、紙の端が柔らかく波打った。陽斗はスマホを奪うようにして祐から取り、掲示板の投稿を開いた。

そこにはスキャンされた文書が貼られていた。白黒のコピーで、学務課のフォームのようにも見えるが、至る所に添えられたメモと、過去の出来事をほのめかす断片的な文言が書かれていた。さらに悪いことに、その文書は「通報者:北原」と手書きで署名されているように見えた。だが署名は、そんなに堂々としたものではなかった。どこかぎこちなく、作為