駅前の花屋で不器用な先輩後輩は卒業までに仲直りする

駅前の花屋で不器用な先輩後輩は卒業までに仲直りする 第19話「第17章」

風が駅前広場を撫でるたび、花びらが小さな雪のように舞った。陽の光を受けて透ける花びらは、ふわりとした香りを運び、通行人の胸の奥をかすかにくすぐる。店の前に並べられた花束は、色とりどりに包装紙をまとい、ランキング端末の青い光と並んでいた。端末は今日も、通行人の「いいね」を数え、点数を上下させる。誰かが眺めるたびに数値が揺れ、誰かが笑うたびに表示は増減する。賑わいはあるが、そこに緊張が混じっていた。

風が駅前広場を撫でるたび、花びらが小さな雪のように舞った。陽の光を受けて透ける花びらは、ふわりとした香りを運び、通行人の胸の奥をかすかにくすぐる。店の前に並べられた花束は、色とりどりに包装紙をまとい、ランキング端末の青い光と並んでいた。端末は今日も、通行人の「いいね」を数え、点数を上下させる。誰かが眺めるたびに数値が揺れ、誰かが笑うたびに表示は増減する。賑わいはあるが、そこに緊張が混じっていた。

「また端末狙ってるの?」花野結(ゆい)が小声で言った。彼女の手には、まだ湿ったリボンが残る小さなラッピング用の紙包みが握られている。紙に残る手の形の温度が、じんわりと彼女の掌を暖めた。

神崎陽斗(はると)は笑って肩をすくめた。だが笑顔の裏側で、彼の目は端末の表示、群衆の顔、そして一度崩れかけたあの夜の記憶を並べ替えていた。言葉では埋められなかった溝をどうにか埋めようとして、彼は昨日からずっと手を動かしていた。花を束ねることは、言葉以上に何かを伝えられるはずだと信じていたからだ。

「今日は共同制作のワークショップってことにして、誰かと一緒に作った花束を店頭だけで展示する、ってやつで行こうか」陽斗が提案すると、結は一瞬眉を寄せたが、すぐに小さく頷いた。彼女の目には、不器用ながらも真剣な光が宿る。それはいつも陽斗が見せたがる光で、彼女はたびたび胸を痛めながらも、それを受け取った。

「入場料みたいなもの、不要――評価端末に頼らないで、人の手だけで成り立つ展示にしたいの」結の声は柔らかく、それでいて確固としていた。彼女はそう宣言したとき、自分たちが抱える曖昧さを、花に託して形にするつもりだった。

ワークショップが始まると、思わぬ人数が集まった。学生、近所の主婦、駅前のパン屋の店員、そして表情を固くした一人の女生徒が混ざっていた。倉田紗也(くらた さや)――放送部の副部長であり、イベントの運営側にも顔が利く存在だ。彼女はランキングの点数で自分の立場を保ってきた。人の注目を集める術を知り、その術が失われることに耐えられない人間だった。

紗也は手にした花をぎゅっと握りしめ、周りを見回した。端末の数値がここでは意味を持たないことが、彼女の表情をかたくした。自分の価値を数値で測ってきた人間にとって、数値が消え失せるのは、足元の地盤が崩れるようなものだ。

「どうせ見せ物にするんでしょ? こっちだって忙しいんだから、さっさと作って終わらせようよ」紗也は短く言った。その言い方は命令に近く、自然な流れを断ち切った。誰かを急がせるその声に、空気が硬くなる。

陽斗は一歩前に出て、紗也に向き合った。手元には彼と誰かが一緒に作った小さなブーケがある。共同制作と名がつくからには、参加者の手が重なった痕跡が残るはずだ。陽斗はその痕跡を通じて、誰かの本音を感じ取るつもりでいた。だが彼の中で、いつもの禁忌がちらつく――決めつければ、見えなくなる。焦れば、壊れる。

「急いで――じゃ、ない。ゆっくりでいいんだ。誰かを急かすと、形が崩れる」結が言う。彼女は紗也の手をそっと取って、花を一緒に握らせた。指先同士の接触はぎこちないが、確かなものだった。結の手のひらの温かさが、紗也の冷えた指先をほんの少し溶かす。

紗也は眉をひそめ、肩の力を抜いたふりをしたが、心の奥では焦燥がうねっている。彼女は目の前に立つ陽斗と結の間にある距離を見て、自分の立場を守るためのストレスを感じた。評価が効力を失うとき、彼女に残るのは漠然とした不安だけだった。だからこそ――彼女は端末に頼らないこの企画を、一度に自分の得点にすることで不安を埋めようとしたのだ。

「いいから、早く。どうせみんな写真撮って終わりでしょ?」紗也の声が強まる。手にした花をぐっと締め上げるようにして、作業を急かす。すると、花の茎同士がきしむ小さな音がして、束がいびつに歪んだ。包装紙の折り目が乱れ、リボンの結び目が両端で引っ張られる。

陽斗の体から、血のような熱が流れた。彼は一瞬、花束が見せる痕跡に問いかける――だがその直後、頭の中で「答え」を決めつける思考が湧いた。もしこの子がこう思っているなら、この花束はこういう意味だ、と。決めつけることは楽だ。すべてを説明できるという錯覚は心地よい。だが陽斗は咄嗟にそれを振り払おうとした。

しかし、言葉は間に合わず、彼の瞳の焦りは行動に出た。陽斗は紗也の手を軽く引いて、自分と結の作った花束を彼女に差し出した。共同で作ったものを手渡すことで、相手の心を確かめようとする――古い癖だ。

紗也が花束を受け取るとき、指先で触れた三人の温度が重なり合った。だがその瞬間、花束の色が一瞬薄れたように見え、香りがふっと消えた。周囲の音がわずかに遠くなり、まるで視界の端が蝕まれるように、花びらの輪郭がぼやけていった。結が小さな悲鳴を漏らし、リボンがはらりと床に落ちた。

「見えない……」結がつぶやいた。彼女の声には驚きと焦りが混ざっている。陽斗はすぐに自分の中で起きたことを把握した。決めつけようとした瞬間に、痕跡は逃げるように消えたのだ。彼が一つの意味に引き寄せたことで、本来の多様な痕跡は閉ざされてしまった。

それと同時に、急かし合ったことで花束が崩れた。茎が滑り、花びらが一枚、二枚と床に落ちる。誰かの踏みつけによって一輪が潰れる音がして、空気が固まる。紗也は息を呑み、顔を真っ赤にした。彼女の瞳には怒りでも悲しみでもない、裸の恐怖が映っていた。

「こんなことになるなんて……!」誰かが叫んだ。群衆の方向から、録画を始めるようなシャッター音が並行して聞こえる。評価に埋没していた人々の一部は、即座に「ネタ」を求めた。見世物としての醜聞が、点数という通貨を呼び戻す。スマホの画面が花びらを追い、そこに残された裂け目――壊れた協働の跡を切り取ろうとする。

紗也はその光景を見て、はじめてカッと目を見開いた。周囲の視線を自分の価値に変えようとしていたことが、今まさに逆に自分を曝け出している。彼女は足元の端末に近づき、無意識に画面を叩こうとした。端末の照明はあまりにも無垢に点滅している。

「やめて!」陽斗が飛び出し、彼女の手を掴んだ。だが力任せに引っ張られると、紗也は反射的に振り向き、その勢いで端末に手をかけてしまった。端末は不安定に揺れ、案の定、画面に亀裂が走る。人々のざわめきが一瞬、鋭い音に変わった。

店主の波多野直人(はたの なおと)が黙ってこちらに歩み寄った。白髪交じりだが背筋が真っすぐの男で、長年駅前の花屋を守ってきた。彼は端末の前に立ち、掌を広げて人々を押し留める。

「評価がほしいのはわかる。でも、それを奪うために人を壊すんじゃない。ここは花を育てる場所だ。人の気持ちを、物の形にする場だ」彼の声は風に乗ってはっきりと届いた。言葉は鋭い。でも、それだけでは済まなかった。直人は膝をついて、床に落ちた花びらを拾い始めた。誰かの怒りを叩き伏せる威圧ではなく、手を動かすことで場を沈めようとする行為だ。

結と陽斗は互いに目を合わせた。言葉ではなく、手で、花で示すしかない。陽斗は深呼吸してから、ゆっくりと自分の残っていたブーケを紗也に差し出した。だが今度は違う。急が