紅砂鎧の庭師と火山教団

紅砂鎧の庭師と火山教団 第24話「第22章」

熱と鉄のにおいが、狭い機械室の空気を満たしていた。床板の間を這う配管が脈打ち、遠くで誰かが祈るような低い声を上げるたび、装置の心臓部から震えが波打つ。赤い砂のような粒子が、ガラス越しに回る円筒の中で渦を作っていた。それは風ではない。意思があるように、内側から蠢く赤だった。

熱と鉄のにおいが、狭い機械室の空気を満たしていた。床板の間を這う配管が脈打ち、遠くで誰かが祈るような低い声を上げるたび、装置の心臓部から震えが波打つ。赤い砂のような粒子が、ガラス越しに回る円筒の中で渦を作っていた。それは風ではない。意思があるように、内側から蠢く赤だった。

「時間がない」レイが低く言った。手元のタブレットに表示された封鎖解除のカウントは、あと四分を示している。教団の指揮系は封鎖を維持したまま、装置の暴走を起こすことで外側の秩序を取り戻そうとしている——つまり住民を人質に、秩序の代償を強いるつもりだ。

カイトが装置の外側で工具を握りしめ、額に汗をにじませる。ミリはユウナの背後にぴたりとつき、ショウは装置の操作盤を覗き込みながら、舌打ちをした。「この回路は、外部からの強制起動に対しては必ず自己防衛モードに入る。暴走させると避難所全体の粉砕的強制収容が始まる。死人が出るよ」

ユウナはガラス越しに赤砂の流れを見つめた。胸の奥で、いつもの居場所だった庭の土の温度が蘇る。前世の庭師としての感覚が、たとえここでは別の名前であっても、彼女の判断の基準だった。守るべきは「人」であり、秩序の演出ではない。

「暴走させる案は——」ユウナが言いかけると、ショウが割り込むように顔をあげた。「あの装置さえ止めれば、教団の権威は崩れる。封鎖解除を強制するには、外側から一度だけ大きなショックを与える必要がある。お前の力でなくても、外部で小爆発を起こせばいい」

「人を傷つける方法は選ばない」ミリの声が硬い。彼女は負傷者を何度も見てきた。誰かの命が代価になっては、守る意味がない。

カイトは工具箱を床に放り投げ、拳を握った。「教団の司祭たちは、演出で人を支配しているだけだ。システムのルーチンさえ崩せば、真っ当な交渉の余地を取り戻せる。暴力は最後の最後だ」

沈黙の中、ユウナは自分の手のひらを見た。そこに一枚の粉のような粒が落ちる。指先に触れたとき、ほんの一瞬、冷たい砂の感触があり、次いで身体のどこかがきりりと緊張した。紅砂鎧——あの装いの記憶が脳裏で震えた。

「今回だけだ」ショウが言った。「お前にはその力がある。紅砂鎧を媒介にして、俺たちが話し合った安全な手順だけを実現する。皆で合意すればいい。合意がなければ、あの力は敵にも跳ね返る」

その言葉は、薄氷の上で声を張るようなものだった。紅砂鎧の条件は、彼ら全員が分かっているはずだった。だが、ここで本当に合意が成立するかは別問題だ。全員の顔を確かめる。レイの顎がわずかに震える。ミリは目を伏せた。カイトは歯を噛んでいる。

「ユウナ、説明してくれ」レイが言った。「その術は、本当に"共有した作戦だけ"を実行するのか?」

ユウナは息をついた。言葉は必要なとき、行動で示すしかない。説明はもう充分だ——今は選択の時間だ。

「皆で作戦を書き込む。私が紅砂鎧を媒介にして、装置の儀式回路を『眠らせる』イメージを一度だけ送る。暴走のトリガーは発生しない。代わりに外部に偽の回路エラーを生じさせて、中央からの強制封鎖命令を無力化する。代償は、これが一度きりで、私の紅砂鎧は二度と同じ介在をしないこと——それだけ」

「それでいいのか」ミリが小さく言った。カイトは目を閉じてうなずく。だが、レイは腕を組んだまま、顔を上げようとしない。「完全な合意じゃない。ショウ、お前はどうだ」

ショウの目が、短い光を放った。彼はこの装置を作る側を知っている。彼が最も理解しているはずの「合意」に関して、最も冷徹であることを皆が知っている。「俺は賛成だ。ただし、一つだけ」彼の声に鉄が混じる。「誰か一人が合意を撤回したら即座に中断する。全員の声が揃って初めて、俺が着手する」

その条件に、皆の呼吸が少し整った。合意の手続きが成立する——形として、彼らは同じ輪になって、拳を中心に置いた。ユウナが最初に手を出し、赤い粒が手の上でざわめく。指の間から砂が蠢き、まるで冷たい鱗のように皮膚を覆ってゆく。紅砂鎧が彼女の腕と胸を一枚の鎧に変えていく。砂は熱を帯び、だが不快ではない。それは守るための熱だった。

だがそのとき、シュッという音がして、鉄扉の向こうから断末魔のような叫び声があがった。教団側が動いた。扉が割られ、二人の黒装束の守衛が中へ飛び込んで来た。目は狂気を湛え、手には小型の起爆器。暴走の引き金はそこにあった。

直感がユウナを針で刺した。もし彼女が一人で紅砂鎧を起動し、目の前の起爆を防ごうとすれば——反動で感覚の一部を失う。それは既知の代償だ。だが選択の余地はなかった。ミリが叫んだ。「止めろ、ユウナ!」

ショウの手が先に伸び、ユウナの肩に重く乗った。彼は無言で、ユウナの手の甲に触れた。だがレイが声を上げた。「待て!合意は——?」

混乱の中で、ショウは決断をしたのか、それとも恐怖に突き動かされたのか、ユウナの右手を強く握り、紅砂の流れに自分の意思を押し込むようにした。瞬間、ユウナの意識の縁がちくりと痛む。合意の輪は途切れた。レイの躊躇がそこにあったのだ。

紅砂は一気に反応した。彼女の体を包んでいた鎧が震え、指先から無数の細い糸のような粒が飛び出して、直線的に装置のガラスに吸い込まれていく。赤い砂は逆流する。円筒の中の渦が、一気に逆方向へ巻き返した。回路の表示が乱れ、警告音が高く鳴る。装置の心臓は、まるで吐息をひとつ漏らしたように、震えを止めた。

だが同時に、別のものが起こった。装置の外、扉のほうへ向けられていた二人の守衛が両手を顔に当て、呻き声を上げた。目が真っ白になり、三歩後退して膝をつく。彼らの中で何かが一瞬、別の意思に侵されたのだ。まるで紅砂の流れが、意図せず「敵の側」にも作用したかのようだった。

ユウナの頭の中に、鋭い喪失感が落ちた。右耳の鼓膜が破れたように、音が遠くなる。辺りの声がぼやけ、遠くのさざめきだけが残る。香りが抜け落ちて、煮えたぎるような鉄の匂いの輪郭だけが薄く残った。指先の感覚がにぶく、ガラスの冷たさがふっと遠ざかる。ミリの声が耳に届いたが、なぜか言葉ひとつの輪郭もはっきりしない。

「ユウナ!」ミリが叫び、彼女の肩に手をかけた。レイはすぐに医療キットを取り出し、血圧計のように耳に当てたが、数値は無機的に揺れているだけだった。ユウナは片手で耳を押さえ、胸の中で何かが裂けるような痛みを覚えた。

ショウは顔を引きつらせた。「合意が──完全じゃなかった。俺が強引に介入したから、術は部分的に外側にも及んだ。ユウナ、ごめん!」

その言葉は、すぐに後悔というよりも冷たい認識を伴ってマグマのように広がる。彼らは合意を守るために集まっていたのに、結局一枚岩ではなかった。その脆さが代償を生んだ。ユウナは口を開けて、何とか言葉を出そうとした。「大丈夫だ…俺は…」と言おうとして、言葉が音にならない。声が脆く、小さく溶けてしまった。

しかし、装置は停止した。赤い砂の回転は止まり、円筒の内部に静謐な層が生まれる。モニターに映された回路図はフリーズし、中央の"封鎖"シグナルが白く点滅して消えた。外のスピーカーから、教団の命令と思しき断続的な音声が途切れ途切れに拾われるが、封鎖命令を維