群青鋏の格納庫長と潮汐王

群青鋏の格納庫長と潮汐王 第18話「第16章」

端末の青い光が一斉に瞬いた。小さな会議室の壁に並べられた投票端末は、薄い箱のように低い音で呼吸している。光は波のように揺れて、集まった人々の顔を群青に染めた。汗と涙と笑いで濡れた表情が混ざり合い、年老いた手が震え、子どもの指が端末のタッチパネルを探った。

端末の青い光が一斉に瞬いた。小さな会議室の壁に並べられた投票端末は、薄い箱のように低い音で呼吸している。光は波のように揺れて、集まった人々の顔を群青に染めた。汗と涙と笑いで濡れた表情が混ざり合い、年老いた手が震え、子どもの指が端末のタッチパネルを探った。

「一度だけだ。分かってるよな?」と、マヤが低い声で言った。彼女はホワイトボードに円を描き、そこに小さな石を置いた。石は地域ごとの合意を示し、マヤはワークショップでそれを増やしていくつもりだった。手短な説明と短い討論、そして必ず互いの目を見てからの意思表示。彼女の目がユイを探す。ユイは胸の下で群青鋏をぎゅっと握り締めた。鋏の冷たい金属は、汗でじんわりと温度を上げていた。

サイが端末群の脇で指を走らせる。彼の画面にはログが滝のように流れ、パケットの波形が乱れている。スクリーンの隅で赤いランプが点滅し、彼は舌打ちをついて端末を切り替えた。

「干渉だ。外部からのノイズ……だけじゃない。ここに偽のコンセントフラグが混入している。合意を誘発するための『はい』の偽装だよ。誰かが投票数をねじ曲げようとしている」サイの声は冷たい。

端末の青がゆっくり暗くなり、別の端末の光が瞬く。住民の一人、ハルが立ち上がった。顔は土の色をしていて、唇が震えている。

「家族が、下の埠頭にいるんだ。水が上がってる。今、誰か決めてくれないか。だれか、この場で決めろ!」

その声に、空気が一瞬静まる。マヤが素早く仕切り直した。彼女は小さな円卓を二つ三つ並べ、住民を手早く分けた。人々は泣き笑いしながら、言葉を交わし始める。討議は雑音のように広がり、だが確かに意思が形を取りつつあった。

「マヤさん、端末は信用できるか?」年配の男が問うた。彼の手は震えていて、掌は焼けつくように熱かった。マヤは首を振る。

「サイが言ってる。端末単独じゃリスクがある。だけどここで何もしなければ、下の埠頭の人たちは流されるかもしれない」彼女の目が濡れている。だがその声には決意があった。

ユイは群青鋏の重みを確かめた。――この道具は一度だけ、層を切り替える術を実行する。共同で合意した計画を媒介にするなら、戦術が発現し、現実の配置を一瞬だけ書き換えることができる。だが、条件がある。単独使用すれば、代償が生じる。ユイは前に、その代償を払った。左耳が遠くなった日のことを思い出すと、胸が締めつけられた。音が水の中に沈んだように、彼の世界の輪郭が薄れた。あの時の静寂は、今もときどき彼の鼓膜を叩く。

「ユイ、どうする?」マヤが手招く。周りの視線が集中する。抵抗のない場所に身を置くように、みんなが彼を見つめる。ただひとりの選択が、ここでは決定を意味するのではない。だが群青鋏は単独で使えないわけではない。単独で使うと、視覚や聴覚、あるいは味覚の一部が失われた。もっと厄介なのは、仲間の合意を無視して発動すると、効果がこちらに返るか、敵にも及ぶということだ。つまり操られた同意を媒介にすれば、その切り替えは敵の利益にもなる。潮汐王は、選択そのものを盗む方法を知っている。

サイの声がさらに鋭くなる。「向こうは合意のフラグを投げ込んでいる。俺のログにも、外部からの『はい』が追加されてる。そこで発動すると、『はい』を装った場所にも効果が届く。彼らは我々が一度だけ使うことを望んでる。使わせれば、その一回でこっちの盤面が書き換えられるどころか、向こうにも同じ力がかかるように仕組んである」

会議室の空気が凍る。ハルの指先が端末の縁を掴んだまま、震えが止まらない。マヤが立ち上がり、円卓に置いた石を拾う。彼女は小さな声で言う。

「私たちだけで決める。端末じゃなくて、ここにいる全員の物理的な署名で合意を作る。サイ、あなたのシステムで匿名投票を走らせる。でも最終的なスイッチはこの石と署名で動かす。偽装は通用しないようにするの」

サイは一瞬ためらったが、頷いた。「いいだろう。だが時間がない。港の水位センサーが乱れてる。埠頭への流れは一瞬で変わる。向こうが次の動きを起こす前に、私たちの合意を刻む必要がある」

人々は立ち上がり、小さな紙片に指印を押し、署名をする。手の震え、息の止まる瞬間、手を動かす小さな笑い声。古い女が泣きながらペンを押し、子どもは親指でページを押さえる。討議で笑い、泣きながら指を動かす。光は端末群で踊り、だがここでの署名は肉声と肉体が担保する。ユイはその光景を見て、胸の奥に何かが沈んでいくのを感じた。

「集合が取れた。三十八の署名。下の埠頭の代表もここにいる。これが合意だ」マヤが言った。彼女の声は震えつつも明瞭だった。住民たちが小さな輪で息を整える。ここで同意が生まれ、それは強さになっていった。

だがそのとき、外から地鳴りのような音が伝わった。窓の外、港の輪郭が揺れる。誰かが叫ぶ。「バージが外れた! 下の係船索が切れた!」

集合の緊張が一気に高まる。港の外では、巨大な貨物バージが不規則に回り始め、岸壁に向かって滑ってきている。そこには仮設の避難シェルターがぎっしり詰まっていた。時間は秒単位で過ぎていく。

サイが端末の一つを掴むと、ログにさらに変化が現れた。「ねじ込んで来ている。向こうはトリガーを送っているんだ。私の解析だと、彼らは我々を『使わせる』ことを狙っている。……ユイ、もしここで発動するなら、ここの署名によって媒介しろ。偽装が混じってる端末は排除した。あいつらに効果が回るようなフラグは確認できない。だけど一つだけ言う。これを使えば、二度とは使えない。使い切りだ」

ユイは群青鋏を胸に押し当てた。鋏がうなり、微かな振動を伝える。金属の冷たさが彼の掌を刺すように鋭い。群青鋏は発動の準備を始める。だがもう一つ、彼の心を乱す思い出が立ち上がる。最初に単独で使用した夜のこと。あのときは誰の同意もなかった。ユイはやむなく道を切り替え、多くの命を救った。だが帰ってきた時、左耳がもう半分水の中にあるかのように遠かった。食事は味気なく、風は薄い布の向こうで鳴っていた。代償は確かにあった。

「ユイ、あなたはどうしたい?」マヤが耳元で囁く。輪の誰もが彼を見ている。下の埠頭にいる人たちの顔がフラッシュのように彼の脳裏を過ぎる。

彼は群青鋏を外套の上から取り出し、テーブルに置いた。鋏の先端が会場の光を受けて群青の反射を射す。ユイは深呼吸をした。恐怖も痛みも、決意の前では薄らいでいく。

「ここに署名した人たちの合意だけを媒介する。操作は一点——係船索の制御信号を逆転させて、バージを港外へ押し戻す。俺は一度使う。だが、向こうの偽装には反応しない。誰かの強制された同意なんて使わない」

サイがコマンドを打ち、マヤが石を一つ取り、ユイに差し出した。石を握る感触は温かく、木の繊維のざらつきが指先に残る。それは生身の合意の証だった。ユイは群青鋏の柄を取り、石を握る手に押し付けた。

「準備はいいか?」彼の声は震えない。

「いい!」マヤが叫び、部屋中から人々の低い合唱が返る。署名者が互いの目を確かめ、命に対して自らの意志を立てた。ユイは息を吸い込み、刃を閉じるように群青鋏をそっと動かした。金属が空気を裂き、部屋の温度が一瞬で