群青鋏の格納庫長と潮汐王

群青鋏の格納庫長と潮汐王 第15話「第13章」

白い投票用紙が長テーブルの上で並んでいた。端がわずかに揺れるたび、紙どうしが擦れる乾いた音が小さく立つ。手書きの掲示板には「意志会議のやり方」と黒い丸文字で書かれた紙片が貼られ、カラフルな鉛筆と古いスタンプが散らされている。窓の外、海は鈍い鉛色をしていて、遠くで何かがぶつかるような低いうなりが反復している。

白い投票用紙が長テーブルの上で並んでいた。端がわずかに揺れるたび、紙どうしが擦れる乾いた音が小さく立つ。手書きの掲示板には「意志会議のやり方」と黒い丸文字で書かれた紙片が貼られ、カラフルな鉛筆と古いスタンプが散らされている。窓の外、海は鈍い鉛色をしていて、遠くで何かがぶつかるような低いうなりが反復している。

「代表を決めてしまえば、議論に時間を食わないんだ」片桐が声を荒げる。額に汗を浮かべ、襟元には泥と潮の残り香。彼の指先が、テーブルの上に置かれた小箱――群青の塗装が剥げた箱――に触れる。箱の蓋の内側には、かつて格納庫で使われたときの擦り傷と、細い血の跡がかすかに残っていた。

マヤはその場に立って、片桐と群衆の間に入った。彼女の声は低く、しかし確信に満ちていた。「代表制は楽に見えるけど、速さの代償は必ず誰かの選択を奪う。私たちはここにいる全員が、選ぶ力を残したいんだ」

「その理想はいい。だが敵が来たら、話している時間はないだろう」片桐が言い返す。周りには頷く者もいる。避難民の顔が、半ば寝不足で、半ば怒りに染まっている。

エトはテーブルの片隅で群青鋏を見下ろしていた。道具に馴染んだ指の動きで、彼はその重みを確かめる。前世の記憶が手の中でごく自然に呼び覚まされる。格納庫長だった頃、決断を道具で現実に落とし込むというのは日常だった。しかしここでは違う。群青鋏は、味方と「共有した作戦」だけを一度だけ現実にする装置だ。仲間の合意なく振れば、餌になったのは彼ら自身だと誰かが言っていた。

「僕は、群青鋏で強制するつもりはない」エトが口を挟むと、話し声がざわりと静まった。「この場で、直接参加の小グループを作ろう。五人ずつ目安で、各グループが自分たちの計画に署名する。合意が重なったときにだけ、僕たちは道具を介して動く。そうすれば、決定は代表一人の手に委ねられない」

マヤが口角に小さく笑みを作る。「賛成。合意の痕跡が見える形なら、強制は減る」

だが片桐は、居心地悪そうに拳を握った。彼の視線が群青鋏に滑る。「そんな悠長なことをしていたら、潮汐王の偵察が気づく。動かないことが一番危ないんだ。ここは僕がまとめる。みんな、投票しろ」

誰かが箱に手を伸ばした。群青鋏の柄は冷たく、塗装の群青が指先にふわりと色を残す。箱の縁に触れた指が震え、木の匂いと古い油の匂いがほんの一瞬だけ鼻を突いた。

「やめて!」エトの声が割れた。だが片桐の手は滑らず、はっきりとした動作で群青鋏を抜き取った。刃が空気を切るとき、金属の高い音が一瞬だけ鳴った。部屋の空気が引き締まる。

彼は、あらかじめ用意した「代表任命と即時行動」の紙切れを片手にしていた。片桐の意図は簡潔だった:代表を選び、その代表に権限を委譲して直ちに門を閉ざし、外郭を固める。少数の決定で全員の命を守るという論理だ。だが、それは同時に誰かの意思を切り落とす行為でもある。

片桐は群青鋏を振った。切っ先が空間に線を描いた瞬間、何かが起こった。投票用紙が一斉にめくれ、掲示板に貼られた紙片が飛び跳ね、窓の海面に向かって薄い青い波紋が立つような光が走った。空気の震えが指先に伝わり、鉄の匂いが強くなる。だが――それは「実現」ではなかった。

「違う、違う、そんな使い方は――」マヤが叫ぶより早く、部屋の外の波が突然遠くで踊った。海の向こう、水平線の一点に、一直線に伸びる光の尾が立ったのを誰かが見つけた。懐中電灯のように瞬く光ではない。まるで海自体が針を刺されたように、何かが反応したのだ。

空気の温度が一瞬下がり、片桐の身体がくたっと崩れ落ちた。彼の両手は群青鋏を握ったまま、指先が白くなる。床に吐いた息が震えて、彼の顔色が変わる。周りの人々は駆け寄り、肩を揺すり、叫び声を上げた。

「片桐さん!」若い母親の声。彼女の手が彼の頬に触れたが、片桐はまるで遠い場所にいるように瞳を泳がせた。

――そして誰かが気づいた。片桐が息を詰めるように顔を歪め、鼻をつまむ。嗅覚が消えたらしい。彼は皺だらけの鼻を引き裂くようにして息を吸い込むが、潮の匂いも炊事の匂いも届かない。ついで、口の中の味が消え、食べ物から歓びを奪われたかのように顔が落ちる。短い叫びが漏れた。指から伝わる冷たさは変わらないのに、世界の色が少し薄くなったような表情だ。

エトは片桐の腕に手を当てた。指先が震えるのを感じながら、一つの冷たい可能性が滑り込むのを感じた。群青鋏は、同意のない「実行」を拒む代わりに、使用者の感覚の一部を奪う。――彼はそれを知っていた。けれど、目の前で起きた現実は、机上の理論を生々しく証明した。

同時に、窓の向こうの光の尾は消えなかった。むしろゆっくりと成長していく。水平線の一点が暗く開き、遠方から小さな黒い影が列を成して近づいてきた。誰かが手を伸ばして望遠鏡代わりに戸口から覗いた。「偵察船だ……数は少ない。だが、あの尾は探知っぽい」

「つまり、あの使い方をすると、敵にまで影響が出るってことか」マヤの声は冷えていた。言葉の意味が重く落ちる。群青鋏は仲間の合意を無視したとき、その作用は味方だけに留まらず、遠くにいる「敵」――潮汐王の探知系にも届く。片桐の慌てた一振りが、正にそれを招いていたのだ。

周囲に走る恐怖と怒り。幾人かが「片桐を責める」と叫び、幾人かが「今は立て直す」と言う。空気が鋭く裂ける。投票用紙は机の上で混乱し、鉛筆が転がる。だがベッドの端で、幼い手を引く少女がじっと見上げている。しおり、九歳。彼女が小さな声で言った。

「代表って……代表が間違えたら、私たち何にもできなくなるの?」

その問いに誰も答えられない。答えを出すのは大人の仕事だと言われて育ったはずの大人たちが、いまこのとき、その問いに動かされている。

エトは群青鋏を片桐の手から丁寧に外した。柄を持つとき、刃先がまた低い音を立てる。彼は箱に戻すのではなく、テーブルの真ん中に置いた。視線は群衆に戻る。空気中にあるのは恐怖だけではない。決断を迫る時間も、確実に近づいていた。

「私は、装置を使わないでこの合意が成り立つか、最後まで見たい」エトは言った。その声は静かだがぶれない。「使い方を間違えば、敵に知らせるだけだ。今になって代表を決めるのなら、誰か一人が全員の選択を奪うリスクを負う。僕はそれをやらない」

「でも時間がないんだ!」片桐が口を引きつらせる。彼の目は空ろで、嗅覚も味覚も奪われたままだ。「偵察が来ている。議論している場合じゃ……」

「議論のやり方を変えるんだ」マヤが切り返した。「代表を立てるのではなく、このまま小さなグループを編成する。各グループは、五人で合意を作る。合意は投票用紙に署名して掲示板に貼る。誰もが見える状態で合意を積み上げる。そして、必要ならエトがその合意を媒介して一度だけ実行する。それが群青鋏の正しい使い方だ」

「誰でも合意に署名できるのか?」古株の男性が訊く。彼は声を抑え、廊下の隅に腰掛けたまま、手にもつ杖に力を込めていた。

「できる。手続きは簡単にする。誰かの判断だけで終わらせないために、透明な記録が必要だ」マヤが答えると、少しずつ頷きが始まった。しおりの母親が小さく息をつき、白い投票