記憶を凍らせる薬師は自分の罪を数え直す 第27話「第二部幕間」
雨は倉庫の鉄板屋根を小さな針のように叩きつけていた。潮の匂いが割れた窓枠からしみ込み、木箱に積まれた白い藥瓶の群れは、ひんやりとした空気の中で低いうなりを立てている。ユエンは床に胡座をかき、掌の上に一つの小さな瓶を転がした。中の液は薄い硝子のように光り、そこに触れた息が白くなってすぐ消えた。
雨は倉庫の鉄板屋根を小さな針のように叩きつけていた。潮の匂いが割れた窓枠からしみ込み、木箱に積まれた白い藥瓶の群れは、ひんやりとした空気の中で低いうなりを立てている。ユエンは床に胡座をかき、掌の上に一つの小さな瓶を転がした。中の液は薄い硝子のように光り、そこに触れた息が白くなってすぐ消えた。
「──どうした、まだ醒めてない顔をしてるぞ」
カイムの声が近づき、粗い布の袖がユエンの肩にかき寄せられた。元兵士の身体は濡れたコートを震わせ、鉄臭い雨が毛先に滴っている。ミールは入口に立ち、濡れた髪を片手で押さえながら、壁の影からじっとこちらを見つめていた。彼女の瞳はいつもより鋭く、紙片の端を強く繰っている。
ユエンは瓶を睨みつけた。薄い光の中で、瓶の中の液体がゆっくりと結晶の痕を描くように揺れ、その表面に、先刻見せた光景の断片が氷の蝋型のように浮かんでは消えた──子どもたちが正座させられて胸に手を当てる、聖歌の代わりに呪文のような唱和が続く、一人の女が泣きながら名前を呼ぶ。断片は重なり、声は重なり、そして凍る。
「使ったんだな」ミールが短く言った。言葉には非難と安堵が混じっている。彼女はユエンの側のテーブルに置かれた、煤けたロウソクの火を吹き消した。火は風に吸われて、室内は薄い青みの闇だけになる。
ユエンは指先で瓶の縁をなぞった。触感は冷たく、針で刺すような鋭さがあった。瓶越しに自分の掌を見ると、そこに見覚えのある無数の細い線が走っているように見えた──過去の地図だとでも言うような。
「証言を束ねた。あの収容区の、子どもたちの声を。全部、同時に」ユエンは低い声で言った。声が倉庫の暗がりに吸われ、微かな反響だけが戻ってきた。
「公に出したら、祭壇の側近どもが黙ってない」カイムが唇を歪めた。「だが……あのまま黙らせておけるか。あの声の主たちを放っておけるか」
ミールは紙片をテーブルに落とした。それは、小さな写本の切れ端だった。縦に走る文字列の一角に、見慣れた紋章──氷の結晶を模したような菱形──が、朱で押されている。ユエンの胸がざわついた。あの紋は、彼が子どもの頃につけていた母の首飾りに刻まれていたものに似ている。
「聖典改訂の写しの一部よ。内部にいる者が匿ってくれた」ミールの声はわざと平静を装っているが、指先が紙端を忘れずに掴んで震えている。「私たちが目にしたのは断片だ、だが連中が何をしているかははっきりしている。秩序のためという名目で、人の記憶を『整える』──選択の余地を剥ぎ取る文言まである」
ユエンの胸の底に、古い映像が浮かぶ。母が夜に糸を通しながら歌う声。彼はそれを掴もうとして、何かが指をすり抜けていくように感覚が欠けた。息を吸うと、歌の最後の音節だけが抜け落ちている。名の一部が薄れていくように、彼の内側の輪郭が少しずつ溶けていった。
「また消えた?」カイムの声が低くなった。彼はユエンの顔を覗き込み、額に触れた。冷たさが皮膚をひんやりと刺した。
ユエンは答えなかった。瓶に残った凍った断片を見つめると、その中の子どもたちの唇が再び動き出した。声が重なり、微かな摩擦音が生まれる。だが今回は、声が一つ増えた。ユエン自身の、掠れた子守唄のような音色だ。それは遠く、誰か他人の口から漏れているように聞こえた。自分が見せた「真実」の側面に、自分の過去が織り込まれている。
「方法を変える必要がある」ミールは言った。「今のままじゃ、貴方が真実を振るえば振るうほど、その代償は貴方の中に穴を開ける。――そして、救済を強制すると呪いが増幅する」
カイムが空気を噛み砕くように短く笑った。「増幅……か。お前ら学者は言葉を綺麗に並べるのがうまい。現場では、今を動かす必要がある。誰かを助けないと、明日にはまたあそこに誰かが座らされるんだ」
ミールはカイムを睨んだ。「助けるのと強制するのは別よ。強制された『救済』は洗い流す必要のある痕跡を残す。貴方はそれを見なかったのか、カイム。腕にあるあの痕──自分がやったことだと白状してからも、まだあの影は消えていない」
カイムの目が先ほどより少し鈍った。左腕の内側には、黒い瘢痕が並んでいる。それは、彼が過去に服した命令の痕だった。彼は痛みを飲み込むように顎を上げた。
ユエンは瓶を持ち上げ、静かに言った。「――試す。少しだけ、方法を変えて試す。強制ではない方法を。彼らの口の中に言葉を突っ込むのではなく、選べる余地を作る方法を」
「どんな方法だ?」カイムが詰め寄るように聞く。
ユエンは瓶の蓋を外した。冷風が瓶の口から溢れ、倉庫の空気を細く白く染めた。結晶の断片が空中に舞い、微かな金属の香りが混じる。ユエンの指先が震えた。彼は自分の左胸を撫で、そこにあるいつも握っている懐中袋を探った。中には、小さく畳んだ布と、色褪せた一欠片の紙切れが入っている。紙の端には、幼い字で書かれた名と、短い一節の詩。彼はその紙を指でなぞると、指先に暖かさを感じた。暖かさはすぐに冷えに変わり、掌の中の紙が薄氷に変わる。
「記憶の器として置くんだ」ユエンは囁いた。「もし、私が自分の一部を凍らせて外に置けるなら──それは私の代わりに真実を抱いてくれる。誰も無理強いされない形で、見たい者だけがそこを開けることができる。だが──」彼は息を止めた。言葉が続かなかった。
ミールがそっと近づき、紙を覗き込んだ。「危険よ。記憶を外へ出す行為自体が公の術式と似ている。政府は『外化』を秩序の道具に変えた。あなたの能力もそれと繋がっている可能性がある」
「でも、放っておくわけにもいかない。あの子たちの声は、誰かの言葉で埋められるべきだ」カイムは拳を床に叩いた。木箱が一つ、ガタリと音を立てて揺れた。雨音の反響が壁に波紋のように広がる。
倉庫の隅で、微かな物音がした。扉に近い影の中から、低い息遣いと共に、顔を泥で汚した小柄な男が現れた。彼は窓から差し込む灰色の光の中で首を傾げ、片手に小さな木箱を抱えている。中には、古い書物の端と、もう一つの白い瓶が見えた。
「来てくれたか──」男の声はかすれていた。彼の目には、隠しきれない恐怖と希望が混ざっていた。「改訂の写しを、もっと持ってきた。だが、警護が厳しくなっている。私一人では無理だ。だが、もし……もしそれを公にする方法があるなら、私たちは動ける。人々に選ぶ余地を与えられるなら」
ユエンは男の手元の瓶を見た。中の液は、さっき自分が触れたのと同じ淡い硝子の色をしていた。同時に、自分の胸の中にぽっかりと空いた穴が疼いた。そこに残っているはずの父の顔、母の歌の最後の音節、それらが断片として彫り込まれているはずの場所が、冷たく、空洞のように感じられた。
「やるか、やらないか」カイムが前に出た。雨音が一瞬だけ弱まり、倉庫は呼吸をするように静まった。三人の瞳が収容区で凍った子どもたちの断片に向けられている。外からは、遠くで鐘が一度、低く鳴った。音は水を隔てて伝わり、壁を薄く震わせた。
ユエンは瓶を抱え、指で紙の詩を撫でた。紙の文字が、冷たい息でぼやける。彼は記憶を一つ選んだ。消えても代えがたい罪の名と、それを数えるための最後の手掛かりとなる一節。手が震えた。彼