記憶を凍らせる薬師は自分の罪を数え直す

記憶を凍らせる薬師は自分の罪を数え直す 第23話「第21章」

会議室は煉瓦の壁と低い天井で、火の灯りが揺れるたびに影が紙の上を滑った。長机の中央に置かれた書類の束は、真昼の氷のように表面を薄く覆われていた。氷膜は水洩れのないガラスのように、向こう側の人物の顔や燭台の炎を歪めて反射している。ユエンはその反射に自分の顔を見出そうとして、いつものように指先に冷たさを感じた。

会議室は煉瓦の壁と低い天井で、火の灯りが揺れるたびに影が紙の上を滑った。長机の中央に置かれた書類の束は、真昼の氷のように表面を薄く覆われていた。氷膜は水洩れのないガラスのように、向こう側の人物の顔や燭台の炎を歪めて反射している。ユエンはその反射に自分の顔を見出そうとして、いつものように指先に冷たさを感じた。

「宰相アルド」と呼ばれる男が、革張りの椅子に背筋を伸ばして座っている。白髪を後ろで一つに束ねたその顔は、笑うと皺が刺々しく広がった。アルドの脇には、王権を象徴する徽章が金の鎖で留められた箱があり、その鎖にも微かな霜が付いている。霜は演出だった。相手の冷えを視覚に残すことで、交渉の主導権を示す。

机の向こう――扉から引かれてきた柵の中に、ミリアが縛られていた。彼女の髪は乱れ、服の肩には乾いた血の跡がある。手枷は鉄でできていて、冷気が鉄を通して手の甲を白くさせていた。ミリアはユエンの目を見据えた。そこに怯えはなかった。代わりに、何か決意の火が小さく揺れている。

火の匂い、石の冷たさ、鎖の擦れる音が交わる。その合間にアルドの声が滑り込む。

「ユエン薬師、ここまで来ていただいたのは感謝する。あなたの……能力は、秩序の維持に役立つと王は判断している。だが見ての通り、我らには譲歩も必要だ。秘密裏に済ませたい話だ」

アルドは指先で、机の上の一枚の書類をなぞった。氷の膜にその指紋が跡を残し、白い線が伸びる。音はしない。氷が滑る音は、地下室の流れる水音と同じ種類の静さを持っている。

「ミリアを返してほしい。どんな条件だ。」ユエンは声を抑えた。氷の反射がその声を二つに裂いた。彼は知っている。自分がこの部屋で、表に出してはならないことを。

側にいたリラが、鉛のように沈んだ声で付け加えた。「我々は取引を望んでいない。もし王が秩序を盾に個人を差し出すなら、その秩序は脆弱だと証明するまでだ」

アルドは薄く笑った。「脆弱であっても、管理は続けねばならぬ。我々は旋律を止めない。必要なら証拠も見せよう」彼は掌を返し、もう一つの薄い冊子を机に置いた。冊子の表紙も氷に覆われており、そこに刻まれた文字は光を受けて細く震えた。アルドは冊子の端を押して、氷の縁から小さな風景を引き出すように見せる。その動作が抑圧の意図だった。

カイが前に出た。細い眉を寄せ、拳を固める。だがリラが小さく首を振る。カイは咳払いをして、抑えた怒りを抑える術を知っている。

ユエンは自分の胸に冷たい影がのしかかるのを感じた。力は蠢いている。長く禁じられてきた感覚――他者の語る記憶を結べば、真実が証言として束ねられる。その能力は不完全だ。結びつければ確かに真実は強くなる。だが彼はその代償を知っている。真実を武器にするたび、ユエン自身の大切な何かが薄れていった。最初に消えたのは、肉の匂いをまとった母の腕の記憶。次に消えたのは、幼い頃に笑った誰かの名前だ。強制的に救済を行えば呪いは増幅し、やがて彼は自分が誰であるかすら分からなくなる。

アルドがゆっくり言葉を選ぶ。「あなたの能力は我らには、都合がいい。だが我々も情報を持っている。例えば――」彼は冊子をめくるふりをした。氷の表面が微かにこすれ、紙同士が触れ合う音がしたように感じられる。ミリアの目が微かに揺れた。

「我々は、凍結された記録の一部を管理している。誰が何を忘れ、誰がそれによって救われ、あるいは傷つけられたのか。名前、日付、場所。必要ならそれを公開する。民衆の安全のため、と称して」アルドの声は穏やかだったが、その穏やかさがもっとも危険な刃物だった。

ユエンの舌先に金属の味がした。彼はゆっくりと息を吐く。もし、ここで力を握れば、ミリアは解放されるかもしれない。だが同時に彼はまた一つ、胸の奥の温度を失うだろう。リラはそれを見透かし、すばやくそれを言葉にした。

「真実をばら撒く、それで人々が選べるわけじゃない。あなたが奪うのは、選択の余地ではなく記憶の根っこだ。ユエン、自分を数え直すために他人を使うな」

その一言は、アルドの静かな笑みを一瞬凍らせた。リラの顔は影の中できっぱりと固まっている。カイの拳は震えている。ミリアの唇が動いた。周囲の空気が張り詰めた。

「私が話す」と、ミリアは低く、しかしはっきりした声で言った。鎖が金属音を立てる。アルドが眉を上げる。「何を?」

ミリアはユエンを見た。彼女の目には、かつて一緒にいた日々の残像が映っているのかもしれない。ユエンは自分の名前が彼女の唇から呼ばれるのを待ったが、それは違った。

「私は王の使節と共に、北の集落で凍結の執行に立ち会った。そこに、氷の書類を保管する地下の部屋がある。名を簿にした紙片、氷の層で封じられた名前の束だ。彼らは嘘を整えて、秩序という仮面をかぶせるためにそれを用いた。そこに、あなたの名前が……いや、あなたがかつて呼ばれていた別の名が記されていた」

アルドの顔色が変わる。室内の灯りがちらつき、氷の反射が鋭くなった。ユエンは胸の底で何かが落ちるのを感じた。ミリアの言葉は単なる脅しではなく、情報の重さを持っていた。地下に書庫があり、そこに「凍結された名前」がある――それだけで、状況は違う。

「それは貴族の管理下にある。王家の意志で。だが、誰かがその鍵を動かせば、記録は表に出る。人々に知られれば、秩序は問い直される」ミリアの声には静かな怒りが混じっていた。彼女は続けた。「私はその鍵を示すことができる。だがそれには代価が必要だ。自分の身分を曝すこと――あなたたちが私を救おうとするなら、その代わりに私は地下への道を明かす」

アルドは舌打ちをした。「愚か者め、あなたは自ら命を差し出すつもりか。匿名が力だというのに」だがその口調は苛立ちに揺れている。貴族にとって最も怖いのは、秘密が公になることだ。氷の書類は「管理」できるものだった。だが管理者がその中身を知られるのは別の話だ。

ユエンの手が机を押さえた。冷が掌を貫く。彼は自分が何を失ってきたか、そして残りがどれほど脆いかを改めて思い知る。目の奥に、もう一つの幼い記憶の輪郭が霞むのを感じる。もしこの場で彼が自分の能力を振るえば――ミリアは解放される。地下の書庫の場所も暴かれるかもしれない。しかしその決断は、ユエンの内側からさらに多くのページを消し去る。彼は自分の罪を数え直したいのだ。だがそれと引き換えに、自分の根幹を喪失するわけにはいかない。数え直すためにまず彼が必要とするのは、記憶そのものを守ることでもあった。

「私は力をここでは使わない」ユエンは静かに言った。声は冷たい蒼色を帯びていた。「もし君が……ミリアが自ら語るというのなら、それは彼女の選択だ。報いは彼女が受ける。だが、私が奪った記憶を知ろうとするなら、それは私自身が選ぶ時にする」

アルドの目に動揺が横切った。それは計算外の事態だった。相手が力を振るわないという決断は、交渉の土俵を変える。王は力づくで屈服させることを常としてきた。だが人が自ら語ること、その「自主性」は、王の理論を脅かす。民が自らの記憶を語り、選択を示すかもしれないのだ。

ミリアは息を整えた。「私は明日、夜明け前にあなたが示した書庫の入口を伝え