星を落とす傭兵は王国の嘘を暴く

星を落とす傭兵は王国の嘘を暴く 第29話「巻末特別章」

赤い星屑が、まだ宵の空に冷たい針のように降り続けていた。村の広場は祭りのように人で埋まり、だがその笑い声はどこかぎこちなく、火の粉を避けるように低くつぶやいていた。灰と煙の匂いが鼻を刺し、こぼれたロウソクの蜜蝋が足元で固まっている。サイルは木の台に腰かけ、掌のざらつきをつま先で感じながら、ゆっくりと息を吐いた。彼の前には編んだ籠が並び、籠の中で星屑がぱちりと小さな音を立てては、ともしびのように消えたりまた燃えたりしている。

赤い星屑が、まだ宵の空に冷たい針のように降り続けていた。村の広場は祭りのように人で埋まり、だがその笑い声はどこかぎこちなく、火の粉を避けるように低くつぶやいていた。灰と煙の匂いが鼻を刺し、こぼれたロウソクの蜜蝋が足元で固まっている。サイルは木の台に腰かけ、掌のざらつきをつま先で感じながら、ゆっくりと息を吐いた。彼の前には編んだ籠が並び、籠の中で星屑がぱちりと小さな音を立てては、ともしびのように消えたりまた燃えたりしている。

「まだ、止まらないんだな」カイラが肩越しに言った。彼女の声は夜風にさらわれそうで、それでも確かな固さがあった。カイラは膝の上で刀の鞘を拳で叩いている。ミアは小さな布を縫い直しながら、余白の時間を逸せずに村人たち一人一人と視線を交わしていた。サイルはミアの仕草を見ていると落ち着くはずなのに、掌の中の感覚が薄れるようで、ふと彼女の笑い方の輪郭がぼやけた。

「トールさんだ」誰かが囁く。白髪混じりの老人がやっとの足取りで広場の中心に出てくると、集まった人々が自然と道を作した。トールはかつて納税の帳を付けたという人で、指先の震えと額の皺が物語っている。彼の顔には、長いあいだ抱えてきたものをこれから解放する覚悟が乗っていた。

「サイル、あんたに聞かせたい。あの日のことを」トールの声は紙を擦るように乾いていた。「王の祝詞が流れたあと、屋根に落ちた星のことを。私の指がどう動いたか、私の手が誰を押したか、全部、誰かに聞いてほしい」

サイルは立ち上がり、ゆっくりとトールの手首に触れた。皮膚は紙のように薄く、冬の川の水で洗ったように冷たかった。触れた瞬間、世界が音を失い、指先から深い映像が湧き上がった。土の匂い、木の軋む音、子の泣き声、火の熱。複数の声が重なって一つの旋律を作るように、場面が繋がっていく。トールの許可があるからこそ、それらは一つになれるのだと、サイルの肌が知っていた。

「——屋根に落ちた。それは徴だと言われた。徴を得た家は、税を軽くする代わりに……」トールの声がサイルの口を通して語られると、周囲の空気が石のように沈んだ。証綴りは当事者の断片を借りて語り直す。人々の目がじっと集まり、聞き入る。子どもの髪に燐が落ちる映像で誰かが嗚咽した。手が震え、サイルは映像を紡ぐだけでなく、言葉の端々に入る空気の湿りまで拾ってしまった。

終わった瞬間、サイルは喉の奥に石があるように、何かを飲み込めなかった。目を瞬かせると、ミアの顔の輪郭が少しだけ遠く感じられた。彼は無意識に手を挙げ、指先で自分の頬をなぞったが、そこにあったはずの子守歌の旋律が抜け落ちているようだった。子守歌の断片が、細い裂け目のように消えていた。

「大丈夫か、サイル?」カイラが前に出て、彼の肩を掴む。力は強いが、今はただ彼を据え置くためのものだった。サイルは深く息を吸い、記憶の欠片を探そうとした。だが喉にある空洞は冷たく、思い出したい顔が指の先で溶けていく。

トールは息を整え、籠に入れていた小さな木の札を差し出した。「これを、あんたの道具にして続けてほしい。私の声が誰かの救いになるなら、それでいいと思っている」

サイルは札を受け取ると、ざらついた木の感触が掌に馴染むのを確かめた。だが同時に、胸の奥に小さな鋭い痛みが走る。彼はこの力が、誰かを救うたびに自分の何かを削っていくことを知っていた。触れること、同意を得ること。それが条件だ。そして、証を公の場で武器にした時、彼の記憶は一枚ずつ剥がれていったのだ。彼は以前、それを己の意志で確かめた。あの夜、役人の嘘を暴くために広場で証を繰り返したとき、母の顔の輪郭が遠ざかった。あの時の代償の感触が、今も掌に残っている。

「お願い……」若い女の声が割り込んだ。ルナという名の少女が前に出る。彼女の袖にはまだ焼けた匂いが付いている。目は真っ直ぐで、怖れよりも決意が勝っていた。「あの夜、子どもをさらわれた。あの星の下に隠された穴がある。そこにまだ囚われている子がいるはずだ。あなたに見せてほしい。命を繋ぐ手掛かりを」

サイルの指先が僅かに震えた。救済を強制する、という行いが呪いを呼ぶことを彼は体で知っている。救いを“無条件で”与えようとするほど、呪いは増幅する。過去に、彼は星が落ちる瞬間に身を投げ出して子を引き上げた。赤い光が掌に突き刺さり、脳裏に凍るような痛みが過ぎった。記憶の一塊が一度に消え、代わりに血の匂いと寒さだけが残った。あの重さが、今また胸を押す。

ミアがサイルの横に立ち、静かに手を彼の手の上に重ねた。彼女の掌は暖かく、刺すような冬の空気よりも生きたぬくもりを伝えた。「サイル、私がする。私が触れる」

言葉が空気を割った。村人たちの視線が二人に向く。ミアの目は揺るがなかったが、その奥には計算と覚悟が見えた。彼女はここ数ヶ月で、サイルのやり方を学び、夜な夜な繰り返し練習していた。だが彼女の学びは別の代償を持っていた。彼女がサイルに向かって頭を下げると、一つの真実が広場に落ちるように伝わった。

「私が覚える。あなたの代わりに、この声を繋げる。でも私は——」ミアの言葉が切れ、彼女は唇を閉じた。小さな傷が彼女の唇に残る。手を伸ばし、ルナの袖を掴むと、ミアはそっと少女の手首に触れた。

触れた瞬間、ミアの表情が変わる。彼女の顔に潮が満ち、眉間にしわが寄る。映像が流れ込むとき、サイルの胸は引き裂かれるように痛んだ。映像は鋭く、かつての檻の匂い、冷たい者たちの手の感触、子どもが泣き止む途中の息の音。ミアはそれらを摂取するように耐え、声にならない呻きを上げる。だがその代償は異質だった。ミアが映像を戻すとき、彼女は自分の過去の一部を置いていった。自分がいつ誰に笑われたか、最初に愛した人の名前、そうした些細な記憶が白紙になっていく。それは、彼女が他人の声を多く背負うほど、自分の私語が薄れていくという性質を持っているらしかった。

「私で、構わないか?」ミアはルナに尋ねる。少女は頷き、そこにある選択が自らの運命を左右することを知っていた。ルナの同意がある。ミアは深く息を吸い、ゆっくりと証を紡ぎ始めた。

広場では誰も声を出さず、編んだ籠の中の星屑が一つだけひゅっと燃え上がると、また消えた。ミアの肩が小さく震え、ふとサイルは胸が痛くなった。ミアが目を閉じたとき、彼は彼女の顔のある部分を思い出せなくなっている自分に気づく。だが同時に、どこかで知らぬ者たちの小さな声が繋がっていく手応えもあった。人々はその声を受け取り、自分たちで次の動きを決め始める。

処理が終わると、ミアはゆっくりと息を吐いた。彼女の目に浮かぶものは、以前よりも静かで、どこか遠い。ルナはミアにしがみつき、安心したように泣いた。サイルはミアの隣に膝をつき、彼女の肩を抱いた。ミアが小さく頷くと、サイルは自分の口から出るはずの名が思い出せないことを覚えた。名前は膝に引っかかった毛糸のように指先で触れたが、結び目がほどけている。

そのとき、広場の端で、役場から送られてきたという封蝋のついた小包を持った役人風の男が押し寄せた。人々は自然と道を開け、男は芝居がかった身振りでサイルに差し出した。封筒には古びた王章ではなく、見慣れな