血を記録する墓守は妹の名を返す 第17話「第15章」
火薬のにおいと焼けた紙の匂いが入り混じった空気の中、風が黒い紙片をかき回した。記録所の瓦礫の山に腰を下ろしたエイレンは、掌を震わせながら、真っ赤に染まった公命簿の端を押さえていた。頁の縁に残った血はまだ温かく、鉄の味が口の中に広がる。遠くで誰かが泣き、誰かが怒鳴り、屋根の上を走る足音が遠ざかる。彼らの声はすべて、風の中で紙片の舞う音に溶けてしまった。
火薬のにおいと焼けた紙の匂いが入り混じった空気の中、風が黒い紙片をかき回した。記録所の瓦礫の山に腰を下ろしたエイレンは、掌を震わせながら、真っ赤に染まった公命簿の端を押さえていた。頁の縁に残った血はまだ温かく、鉄の味が口の中に広がる。遠くで誰かが泣き、誰かが怒鳴り、屋根の上を走る足音が遠ざかる。彼らの声はすべて、風の中で紙片の舞う音に溶けてしまった。
「聞かせてくれ」と、エイレンは低く言った。声は喉の奥を掠めて消えた。彼は血のしみの上に右手を載せる。指先がしっとりと頁を滑ると、その血の奥から、かすかな振動が伝わってきた。血は意志を持ったように頁の繊維を走り、細い赤い線が、文字のように広がる。エイレンは目を閉じ、噛みしめるように呼吸を整えた。
「名前を、聞かせて」と、息の中で繰り返す。能力はいつもそうだった。血が、場に残された痛みと恐怖を拾って、当事者の断片を吐き出す。彼はそれを束ね、外へ出してやる。外へ出れば、誰かが選べるかもしれない——それが彼のやり方だった。
頁の赤い線は動き、耳の奥にひび割れた声が入ってきた。低く、震える声。記録所の書記のものだ。言葉は断片で、しかし確かな重みがあった。
「…我に…命令だった。教区の指示で…番号を…消せと…民の名を…移す。王府からの書状を…一枚ずつ…」
声は乾いて砕け、最後に小さな笑い声のような、悔しさの滲んだ音が混じった。エイレンは頁を強く握り締めた。血の線が掌に染み込み、彼の腕の血管が冷たく震えた。
「ありがとう」とだけ言って、彼は証言を記した。血が文字になり、真実が頁を這って溢れ出す。ノアが隣で紙の束を広げ、地下新聞の輪転機が仮設のテントで唸る。外では住民たちが火の見櫓の上から、配られた記事を読み、指を震わせていた。その小さな勝利は確かに起きた。暴露は人々の手に渡り、教区の虚飾に亀裂を入れた。
だが同時に、何かが変わるのをエイレンは感じた。掌から頭へ、薄い鉛のような重みが波のように這い上がる。胸の内のある一点がぽっかりと凹み、そこから冷たい風が吹き抜けた。彼はふと、ミラの笑い声を思い出そうとした――闇市の角で彼女が小さな紙風船を売るふりをして自分をからかったあのときの笑い声。けれど音は掴めず、舌先に残るわずかな甘さだけが消え入りそうになった。
「エイレン、顔色が…」とマルタが言う。包帯で血を抑えながら、彼女は彼の肩を軽く叩いた。彼女の指先は冷たく、傷を縫い合わされた人々の呻きが背後でぴりついた。マルタは救護班の長だ。彼女はどんな秩序にも屈しない目をしていた。
「大丈夫だ」とエイレンは答えた。だが言葉は嘘だった。彼は自分の手の甲を見た。そこには薄い黒の筋が走り、血管に沿って影のように浮き上がっていた。そこから小さな針のような痛みが時折走る。記録を束ねるとき、代償はいつもこうして現れる。記憶の一部を失うだけでは終わらない。救済を他者へ強制するほど、呪いは形を変えて増殖した。
「奴らはこれを…許さないだろう」とノアが低く言った。ノアの顔には紙の粉がつき、目に血のような光が入っていた。彼は自分の意思で輪転機のハンドルを回していた。彼の選択はこれから起こることを呼び寄せる。
遠く、教区の使者が声を上げる。「暴撒(ぼうさ)の発行を許さぬ!」焼夷矢の音が空を裂き、流れ弾のように瓦礫の間に爆ぜた。応戦するために結成された自治巡礼団の男が叫び、鉄の味を吐いた。市井の者たちの顔がゆがんだ。誰かが叫ぶたびに、エイレンの胸の凹みは深くなる。彼はふと、ミラが着けていた小さな青いリボンの色を思い出そうとしたが、指先で空を探るだけで、その色は指の間をすり抜けた。彼はそれがあったはずの場所を撫で、そこにあった温度を思い出そうとするが、代わりに冷えた紙の縁に触れていた。
「記録所の中から、移送指示が出ている。証明の原本が王記塔へ……」血の声は続いていた。最後に残った文字が赤く震え、頁上に押された印章の形を浮かばせた。王記塔——王権が保管する、もっとも厳重な公命の保管所。そこへ名を移すということは、名を国に飲み込ませるということだった。
「ミラの名が……」エイレンは呟いた。言葉にすると、口の中が乾いた。だが同時に、ミラの形がどこか遠くへ行ってしまったような喪失感が体を引き裂いた。彼は記憶の棚を掻き回し、幼い彼女が庭で泥を蹴る音を探した。見つからない。代わりに指の腹に残る紙の繊維と、焼け焦げた匂いだけが確かなものとしてそこにある。
「もし王記塔に移っているなら、取り戻す方法は……」ノアが言いかけたところで、すぐそばの幼い男の子が、喉を押さえて倒れた。皮膚に黒い斑点が広がり、薄い叫びを漏らす。マルタが飛びつき、手の中へその子を受け止める。子の目には恐怖だけが反射していた。
「呪いが増えた」と、マルタは低く囁いた。彼女の手が震え、包帯が血で赤くなる。エイレンはその子の腕を見ると、黒い筋が彼の掌のそれと同じように波打っているのを見た。救済を強いた結果、見えない毒が広がりかけている。儀礼でなく、彼の強制で救われることが増えれば増えるほど、呪いは跳ね返り、弱い者へと鎖状に広がるのだ。
ノアは一瞬、新聞の束を抱き締めてそれを床へ放り出した。紙束は風にあおられ、記事の見出しが人々の視界に走る。「公命簿の改竄、王府と教区の密約」——一行一行が底なしの怒りを掻き立てる。だがノアは自分の手を引けなかった。彼は自らの意思で、さらなる発行を決めたのだ。周りの者たちはそれを見て、赦しを求めるわけでもなく、非難するわけでもなく、ただ各々の胸の中で秤にかけていた。選ぶのは個々である。教区の圧力に屈するか、真実を取るか。
「決めろ」と、エイレンは言った。自分にではなく、ノアに、マルタに、群れに言った。彼は自分の代償を知っていた。何を損い、何を残すべきか。だが彼が口に出す前に、ノアは顔を上げ、小さな笑みを浮かべた。
「記事は出す。人々が見て、選べるようにする。エイレン、お前のやり方は――犠牲を払わせる。だが放っとくわけにはいかない」
声は震えていたが、決意に満ちていた。マルタも頷いた。彼女の選択は、負傷者をその場に残すことを拒むことではなかった。誰かが倒れるなら、助ける。だがそれは彼女自身が引き受ける損失でもあると割り切ったうえでの行動だった。
エイレンは再び掌を頁に置いた。血の線がまた微かにうごめく。彼は今、誰のために名を託し、誰に救いを強いるのかを考えた。救済の強制は呪いを増幅させ、しかし沈黙は人を死なせる。短絡的な正義がどれほど深い爪痕を残すのか、彼は知っていた。
頁の端で、赤い印章が震え、文字が浮かび上がった。そこには、移送先の一行が記されている。王記塔の名。その横に押された小さな、ほとんど擦り切れた印は、教区と王府の共同印であった。エイレンの指がその印へ触れると、そこから一斉に数本の細い血の筋が跳ね、空気を切る音がしたように感じられた。冷たい寒気が彼の脊椎を走った。
「ミラの名が、王記塔に……」エイレンはもう一度言った。だが今度は声の端に、すでに彼女の名前を完全に呼び切れない弱さが宿っていた。記憶の抜け落ちが進むほどに、彼女の存在は彼の中で遠ざかる。だがその遠ざ