村勇者

村勇者 第12話「第11章 城下の証」

城門の石段は想像よりも冷たかった。灰色の曇天が低く垂れこめ、城壁の向こう側では城下町の喧騒が細かな音となってこだました。鶴見村から連れてきた十数人――年寄りも子どもも混じる村の代表――は震える手で荷物を抱え、顔をこわばらせている。大村清が先頭で歩き、誠はその少し後ろを茜と並んで歩いた。リオは左の路地に目を走らせ、誰かに見つからぬよう周囲の視線を拾っている。

城門の石段は想像よりも冷たかった。灰色の曇天が低く垂れこめ、城壁の向こう側では城下町の喧騒が細かな音となってこだました。鶴見村から連れてきた十数人――年寄りも子どもも混じる村の代表――は震える手で荷物を抱え、顔をこわばらせている。大村清が先頭で歩き、誠はその少し後ろを茜と並んで歩いた。リオは左の路地に目を走らせ、誰かに見つからぬよう周囲の視線を拾っている。

「ここで証拠を示す。市役所の使者か、領主の代官でも——彼らの前で鉱石の出所を明らかにして、徴発の不当性を暴く」と大村の声は静かだが確実に響いた。彼の手には領主の徴発に対抗する一連の文書があり、町の役場に通報してあった正式な手続きも揃っている。誠はその書類を見せる大村の横顔を眺めながら、胸の奥に冷たいものが沈むのを感じた。彼の内側では、火の熱や救助の汗がまだ引かない。だがここでは、その力は使えない。護村の焔は村域の外では起動しないという「条件」が、いつも彼の選択肢を狭めた。

城下の広場に到着すると、すでに領主の使いが待ち構えていた。腕章を付けた役人風の男が鼻をつまむように誇り高く、徴発の正当性を並べ立てる。周囲には領主の家臣らしき兵士も数隊控え、彼らの眼差しは村の荷物と若者たちに注がれていた。そこに集まった町人たちの中には、最近の徴発によって肉親を奪われた者、食料の不足で顔つきがやつれた者がいる。誠は彼らの肩に何度も目をやった。守るべき人々はここにいる。だが、焔は働かない。使えない、という事実が、誠を静かに苦しめた。

「こちらが証拠だ」大村が書類を差し出す。使いは書類を薄く睨みながら受け取る。誠はその時、リオの動きを見た。リオは徴発所から持ち出してきた小さな布を、そっと誇示した。布の上には薄い青い粉が付着していた。前に手に入れた結晶片を紙に擦り付けておいたものだ。

使いの表情が一瞬引きつる。周囲の兵士が不穏な空気を察して長い手綱を引くように身構える。

「領主様の命により──採掘物の一部は王都の許可に基づくものだ。徴発は正当であり、村の協力は義務である」使いは冷たく呟いた。大声ではなかったが、確定的である。その口調に負けないようにと、大村はさらに言葉を紡いだ。誠は大村の声に耳を澄ますと同時に、自分の役割を素早く整理していた。物理的な衝突は避けたい。護村の焔で相手を押し返すことはできない。だが消防時代に鍛えた身体と技術は、ここで活きる。

兵士の一人が前へ出て、荷物の検閲を始める。年老いた女が震え、子どもの手を握りしめた。誠はその手を見て、反射的に動いた。棒が彼の腰に触れる。火かき棒はいつも彼に寄り添っている。木製の柄は擦り切れ、金具は使い込まれて光らない。誠は棒を軽く握り、使いには見せないようにした。棒は護村の焔の発動に必須だが、ここでは魔力を呼べない。それでも、棒は彼の身体の延長として有効だった。前世の技術――レバーの利かせ方、相手の重心を崩す小手先、非致死的に相手を拘束する方法――が、刀や槍の前でも有用だ。

兵士が女の袋を引き裂き、乾いたパン袋を蹴り出した。女が泣き出しそうな顔をした瞬間、誠は動いた。足を滑らせず、膝を落として間合いを詰める。彼は棒を持って兵士の腕を軽く引っ掛けるようにして外側へ倒す。だが振るではない。力のかけ方は救助のためのものだった。兵士は不意をつかれて足元を取られ、怒鳴るかのように手を振り上げた。誠はその腕を棒で受け止め、相手の体勢を残心で利用して後ろに倒す。兵士の顔に深刻な傷を負わせるつもりはない。なるべく痛みを残さぬよう、肘の伸びを利用し、腕を制す。周囲に立つ他の兵士たちが一瞬たじろいだ。

「やめろ」大村の声が寸分遅れず割り込んだ。彼は文書を掲げ、法的な力を誇示する。兵士たちは隊列を乱されたものの、上司の命に従って踏みとどまる。だが空気は張りつめていた。誠は自分の手の感触を感じた。棒の柄に残る汗と、かつて人命を引き上げたときの指先の感覚。誰かを傷つけるための力は、彼の中にない。彼が手にするのは守るための技術であり、矯正のための制止である。

交渉は続き、リオが証拠を持って前に立った。彼は穏やかな声で、徴発が鉱山会社と領主の結託であること、徴発された青い札が鉱石の端材であること、そして鉱山で取り出された粉が魔物を誘引していることを述べた。証拠の布を示すと、町の一角からざわめきが上がった。使いは顔を硬くし、一瞬その場を離れて城へ報告する素振りを見せた。

その時、遠くから子どもの泣き声が聞こえた。誠の身体は条件反射で反応した。だが彼の心は、先に経験した代償の感触を思い出していた。護村の焔を使った夜――彼は村を守った代わりに、守った子の「父の誕生日」という記憶を一つ失わせてしまった。記憶が消えたその子は、笑顔で誕生日を祝っていた日の父の表情を思い出せない。誠の胸は焼けるように痛んだ。あの痛みをもう一度誰かに味わせたくない。ここで焔を発動すれば、仲間や周囲の人間の記憶を一つ失わせる可能性がある。しかも、ここは村外だ。発動はそもそもできないのだが、彼の心は「使えるか使えないか」以上の重みを背負っていた。

使いが戻ってきた。顔色が鮮やかに悪く、「証拠は領主の竈で検査させる」と言い放つ。城への移動を命じる。徴発を一時停止するとは言わない。誠は、大村の表情を見た。あの老獪な笑みが消え、窪んだ目に鋭い光が戻っている。彼は誠に小さくうなずいた。二人は合図で村人たちを整列させ、城下を移動し始めた。

移動の途中、誠は気付いた。広場の片隅に、昼間っぱらから妙に明るい青い紙片が張られている。それは徴発の「青い札」そのものだ。人目を引く色で、兵士がそれを掲げていた。誠は心の中で何かを掴んだ。青い札が見せ物のように使われることで、人々は屈従を覚えさせられるのだ。抵抗の芽は、公的に採取された札が示されることで潰される。

城内の長い廊下で、誠と大村は待たされた。城の応接室は冷たく整い、窓の外に城内の中庭が見える。領主の代理人である老士官がやって来て、徴発の正当性について長々と語った。誠は黙って聞いていた。言葉は飛び交うが、本質は城の力と村の脆弱さの差だ。誠は自分の立つ位置を見定めた。言葉で圧を掛けられる相手には言葉で返すのも手段だ。本能的に、彼は救助の場で培った「落ち着かせる声」を使った。

「この村は自立できる。徴発が行われれば若者は失われ、労働力は減り、村の再建は不可能になります。長期的に見れば、領主の収入も減少する。相互に利する道を取るべきではないか」誠は大村が言葉を開くのを待ちながら、静かに言った。声は現場で人の命を落ち着かせた頃の低さを持っている。城の者たちは一瞬、彼に注目した。看取った命を支える者の声には、人を説得する力があった。

士官は小さな笑いを漏らした。「だが、徴発は領主の命令だ。お前たちの抗議だって聞いた。我々は証拠を検分してから判断する。だが一つ付け加える。最近、徴発物に関する不審な報告が上がっている。青い札に——」彼は言葉を濁した。茜が顔を引きつらせ、誠はリオの手元に視線を送る。リオは小さく頷いた。そして士官は意外な一枚の資料を差し出した。それは城の監視記録の写しだった。そこに映るのは、徴発倉に出入