仮面の継承者

仮面の継承者 第17話「第15章」

潮風が、白磁の破片を舐めるように吹いた。ソルトリアの港は朝陽に反射して眩く、彼らの影を長く引き伸ばしていた。帆布をはためかせる帆船の列、砂塩を山のように積んだ問屋の屋根、そして港の石畳に置かれた幾つかの小さな箱――その蓋を開けると、白磁の小片が、まるで髪の毛ほどの亀裂を含んで並んでいた。亀裂は一本、あるいは網目のように伸び、日差しを受けて銀色の線をひく。レイはそのうちの一片を手に取り、仮面の見えない内側で亀裂の光を追いながら息をした。

潮風が、白磁の破片を舐めるように吹いた。ソルトリアの港は朝陽に反射して眩く、彼らの影を長く引き伸ばしていた。帆布をはためかせる帆船の列、砂塩を山のように積んだ問屋の屋根、そして港の石畳に置かれた幾つかの小さな箱――その蓋を開けると、白磁の小片が、まるで髪の毛ほどの亀裂を含んで並んでいた。亀裂は一本、あるいは網目のように伸び、日差しを受けて銀色の線をひく。レイはそのうちの一片を手に取り、仮面の見えない内側で亀裂の光を追いながら息をした。

「ここにもあるか」ノアが低く言った。彼の顔は、長旅で色を失っていたが、目だけは淡い炎のように光っている。革の帳に挟まれたページの隅に、ノアは小さな点をつけていた。それが彼の流儀――目に見えないものを見つけ、そこに跡を残すことだった。

ソルトリアは大陸の西端に開けた交易所で、白磁片を扱う職人や、各地の継承に関する逸話を商う旅芸人が集まる。港の聴き取りだけでも、彼らは複数の言葉で同じ語彙にぶつかった。「名なき器」。同じ言い回しが、風のように異なる舌から溢れ出す。交易所の賑わいの陰で、人はしばしば名を抜かれた器として扱われ、誰かの決断と引き換えに忘却を与えられてきたのだ――それがここでは常識のように語られていた。

「交易所の中に、古い写本を集めてる店があるって聞いた」フィルがぽつりと言った。彼は幾つかの白磁片模型を腰袋から取り出して、手の平で転がす。指先の傷が夕陽に微かに赤く光る。腕の袖口から、黒い糸がひらりと覗いた。糸はいつもより細く見えた。使用の痕が、まだ消えていない。

「案内してくれ」ミナが言う。弓を背にした彼女の肩は、旅の疲れで僅かに落ちていたが、目は前を見据えている。弟の名前を今度こそ見つけたい、という種の静かな渇望がそこにあった。レイは彼女の前腕に触れ、黒い糸の震えを自分の掌で感じ取ると、うなずいた。

交易所の裏通りを折れると、そこにあったのは古物屋「影写し」の扉だった。木製の扉は潮風で色を落とし、鉄製の把手には多数の刻みが入っている。中は暗く、壁面には古い写本や羊皮紙の箱が無造作に積まれていた。離れたところで、店主が目を細めて彼らを見上げる。年老いた男はすぐに目を伏せ、棚の背に隠すようにして写本を取り出した。写本の表紙には薄く朱い輪が描かれている。朱い輪は、リュネアで見た深緑の樹皮に刻まれた印と同じ符号だった。

「何を探している?」店主ラシムは問うた。その声には掠れた諦観が混じる。傍らにあった箱の中には、確かに「名なき器」と題された写本が複数あった。だが多くは暗号のように分断され、いくつかの章は欠け落ちている。ラシムは指先で頁を撫で、言葉を選んだ。

「これらは、保存のためだ。国の都では、公共の秩序が破られかねない――だから名を消すことが、時には選ばれてきた。だが消えた名のいくつかは、ここにある。見せることはできない。見られると、問題になる」

ラシムの背後にある棚の隙間に、ひとつの革帳が空気を切るように挟まっていた。その革帳の背表紙には、古い白磁の粉が付いている。レイはその粉の匂いを嗅ごうとして、ふと手を止める。面映しは「誰かの感情を理解し、責任として引き受ける」ことから始まる。噂や好奇心では触れてはならない。もし彼がただ覗き見ようとするだけなら、その行為は禁忌に等しい。

ラシムの目に、何かが沈んでいた。失った者を思う痛みと、それを守るために他を欺く自分への嫌悪が混ざっている。レイは彼の表情を一つひとつ読みとろうとした。息を整える――これは演技ではない。彼はラシムの立場で、何を恐れているかを想像する。もし名を公にすれば、誰かの生活が壊れる。だが隠せば、忘却は不可逆だ。ラシムはその重さを毎夜舐めていたのだ。

彼は掌を軽く挙げ、仮面の内側に意識を向けた。白磁の仮面の表面に、今は見えないラシムの苦悩が薄く浮かぶ。口元の緊張、瞼の震え、彼が隠してきた母の名前に触れたときの小さな痛み。面映しは発動した。仮面に、ラシムの表情が映る。それは一瞬、店の中の空気を止めた。紙がめくれるような静寂の中で、ラシムは手を止め、顔を上げた。

「……お前は、見る側の者か」ラシムは呟くように言った。言葉は問いかけでもあり、告白の始まりだった。レイは、彼の目に触れた悲しみを吸い上げるつもりはない。吸い上げることは奪うことに等しい。だが受け止めることはできる。彼はラシムの痛みを仮面に一時的に映し、ラシムがそれを外に出すように促した。受け止めるというのは、相手の言葉を最後まで聴くことでもあった。

ラシムの声が、低く震えはじめる。歳を経てなお燻り続ける悔恨。彼の若いころ、保存の名目で名を消す手続きを執行したときに起こった出来事。ある旅人の名を消したために、その旅人の子が後に行方不明になり、家族は壊れていった。ラシムはずっとそれを心の中で抱えていた。誰に証言を求めることもできず、帳に押し込んだままにしてしまった。

レイは言葉を選ばず、ただ靜かに聞いた。面映しは、彼が本当に納得して相手の立場を引き受けるときだけ効く。その瞬間、ラシムの肩からは重い何かが滑り落ちるように見えた。だが代償はすぐに現れた。使用の跡として、レイの胸の内側にぽっかりと小さな穴ができる。そこは、かつて彼が覚えていた舞台の一場面だった。ある特定のセリフの旋律が、指の先からするりと消えた。幼いころ、舞台で笑っていた共演者の顔立ちの端が、ぼやけていく。その欠落はひどく個人的で、鋭く疼いた。

「……君は、何かを失ったな」ノアの声がすっと入ってくる。彼は帳を開いて、ラシムの消えたという航海者の記録の一部を指でなぞっていた。

「使い過ぎたつもりはない」レイは答えたが、言葉の端に夕陽の光が入って震える。失われる記憶は、その都度、彼の中の何かを変えていく。だが同時に、彼は新たな知見を得ていた。ラシムの話の断片から、彼らはソルトリア沖で「白磁片を積んだ船」を記した港の名前を拾い上げる。名を消された者たちのほとんどが、港と交易を介して動いていた。

「名は、どこへ行った?」ミナが問うた。彼女の声は硬い。弟を呼ぶ権利を、欲している。

ラシムは小さく肩を震わせ、古い箱を床に下ろした。その蓋を開けると、そこには羊皮紙の束が折り重なっていた。表面に書かれた墨は、海の塩で擦れて薄くなっている。そのうちのいくつかは、確かに名が書かれている。しかしよく見ると、あるページにだけ筆は残り、名の部分だけが巧妙に削り取られていた。削り跡の縁が、朱い輪の印と交わるように見える。

「削り取ったのは、国家か?」フィルが問う。彼はページの縁を凝視する。職人の眼差しは、簡単に真贋を見抜いた。

「そうだろう」ラシムは答える。「命令文はそのように来る。理由は――秩序のためだと。だが秩序という名目は、しばしば誰かの名を奪う口実になった。私は……私自身がそれを守るために、ここに置いた。外の人間が見たら、また奪うだろう。だからここにある」

ノアは静かに立ち上がり、ラシムの目を真っ直ぐ見た。彼の声は、これまでの彼の冷静さとは違っている。書記官としての無色中立を守ることは、制度の一部を補強してきた。だがここにあるものを見て、彼は自らの所作に違和感を覚