灰色砂漠の病院船 第14話「エピローグ:明日の航跡」
さらに数ヶ月が経過した。 ナディール号は、以前よりもずっと活気に満ちていた。船内には、各地の居住ドームから集まった「緑化ボランティア」の若者たちの姿があり、医務室では新しい治療法を学ぶ研修医たちがソラやリナの指導を受けている。 ソラは今、救命士としてだけでなく、記憶共有療法の第一人者としても知られるようになっていた。 「ソラ先生、次の患者さんの準備ができました」 看護師の声に、ソラは顔を上げた。 「わかりました。すぐに行きます」 彼女は白衣の襟を整え、鏡の中の自分を見つめた。瞳には、かつての迷いはない。 廊下ですれ違ったリナが、短く声をかける。 「ソラ、今日のオペの後は、エリオさんからの定時報
さらに数ヶ月が経過した。
ナディール号は、以前よりもずっと活気に満ちていた。船内には、各地の居住ドームから集まった「緑化ボランティア」の若者たちの姿があり、医務室では新しい治療法を学ぶ研修医たちがソラやリナの指導を受けている。
ソラは今、救命士としてだけでなく、記憶共有療法の第一人者としても知られるようになっていた。
「ソラ先生、次の患者さんの準備ができました」
看護師の声に、ソラは顔を上げた。
「わかりました。すぐに行きます」
彼女は白衣の襟を整え、鏡の中の自分を見つめた。瞳には、かつての迷いはない。
廊下ですれ違ったリナが、短く声をかける。
「ソラ、今日のオペの後は、エリオさんからの定時報告があるわよ。北の緑化エリアが、また数キロ広がったそうよ」
「本当ですか! それは嬉しいニュースですね」
二人の会話は、かつての事務的なものとは明らかに違っていた。そこには、同じ志を持つプロフェッショナルとしての敬意と、少しずつ再構築されつつある家族としての温かさが混ざり合っていた。
ソラは医務室のドアを開けた。
そこには、石英病を発症したばかりの小さな少年が、不安そうな表情で座っていた。
「こんにちは。私はソラ。あなたの担当よ」
ソラは少年の目線に合わせて腰を下ろし、優しく微笑みかけた。
「怖いことは何もないわ。あなたの心の中にある、素敵な宝物の話を、私に聞かせてくれる?」
少年は少しだけ安心したように、小さく頷いた。
窓の外には、かつての灰色一色だった世界に、点々と広がる青い斑点が見える。それは灰の海に浮かぶ希望の島々だ。
ナディール号は、その島々を繋ぐように、今日も白い航跡を描いて進んでいく。
惑星アッシュ・テラが、再び緑の星へと還るその日まで。
記憶の種火を絶やさぬよう、白い病院船は走り続ける。
灰色の水平線の向こう側に、いつか本物の青い空が広がることを信じて。
(完)