鐘を失くした皇子と灰翼騎団
教師の拍が、欠けた歌をつなぎ直す。
あらすじ
十歳の身体に三十八年の“耳”を抱えて生きる少年エルネストは、前世で高校の音楽教師だった記憶を胸に、辺境の砦で“音”を失った人々と向き合う。鐘の響きや名前の一部まで消してしまう奇妙な“空白”の脅威、都から派遣された監察官の冷たい評価の下で、彼は教壇で培った「聞く・分ける・繰り返す」の手法を戦術に転用し、欠けを抱えた兵士や住民たちを役割で結びつけていく。鍋のふたや割れた共鳴具、木の拍子棒といった即席の楽器を教材に、呼吸と拍を合わせることで失われた歌を取り戻そうとする過程が物語の中心だ。読みどころは、教師としての視点が軍事と共同体の再生にどう作用するか、音や名前の喪失が人々に与える影響と、それを互いの手で補い合う場面の静かな強さである。結末の全ては明かさず、再生と抵抗の緊張の先を見届けたくなる一冊。