竜骨天譜 第16話「第18章|竜骨天譜」
爆発の衝撃はまだ胸に残っている。南の泉の丘から舞い上がった白い水煙は、遠目には嵐のように見えたが、嗅ぎ取れるのは焦げた土とむせるような鉄の匂いだった。彼らはその現場へ向かうため、幹線を外れて旧採掘区へ向かった。砂は歩を刻むたびに軋み、遠景の地平線は常に揺れている。空はまだどこか揺曳していて、群青の譜面が彼の瞳にうっすらと揺れた。
爆発の衝撃はまだ胸に残っている。南の泉の丘から舞い上がった白い水煙は、遠目には嵐のように見えたが、嗅ぎ取れるのは焦げた土とむせるような鉄の匂いだった。彼らはその現場へ向かうため、幹線を外れて旧採掘区へ向かった。砂は歩を刻むたびに軋み、遠景の地平線は常に揺れている。空はまだどこか揺曳していて、群青の譜面が彼の瞳にうっすらと揺れた。
「ここで間違いないはずだ」ガルドが低く言って、共鳴器をぎゅっと抱え直す。器具はいつもより粗い振動を拾っていた。赤い布がナギの肩で三度結ばれ、彼女は無言で旗を高く掲げる。リゼットは共同帳を抱えており、ページの端に残された署名を指で確かめる。イオは軍の印章や配達路図を手に、表情を引き締めて先を窺っていた。
現場は想像よりも大きく壊れていた。岩盤が裂け、泉だったはずの低地からはまだ蒸気が立ち昇る。周囲の土は湿り、あちこちに新しい亀裂が走っている。採掘の古い杭や、かつて坑夫たちが立てた小さな標識が半ば埋もれていた。遠くには短期滞在用の掘削小屋が倒れ、そこにぶら下がっていた小さな看板に、まだ誰かの手の痕跡が残っていた。
「起爆の痕跡はここから来ている」イオが言った。声が震えてはいない。だが彼の目は鋭かった。「南側の古い坑道が狙われた。複数地点に小さいが同時爆発を起こすための装置が仕掛けられていた可能性が高い。起爆は水脈の圧力に直接作用している」
ガルドは器具の先端を泉の脇の亀裂へ向ける。器具はしばらく無言のように振るえ、それから、いつもの北を示す針ではなく、小さな震えをもって斜め上方を指した。彼らは互いに顔を見合わせた。あの夜からの「北を指す違和感」が、ここでもまた現れる。
「これは……」ガルドが呟く。指先が器具の表面をなぞると、針先にかすかな白い筋が光った。それは暦院の地図に描かれていた北壁の白い筋と、晴臣の瞳に現れた群青の亀裂の断面を思い出させるものだった。だが今、針は方角ではなく、何か『方向性の欠落』を示しているようにも見える。
晴臣は深呼吸をし、ポケットから温度計と湿度筒を取り出した。自ら歩いて確認するのだ。彼が触れた地面はまだ温かく、湿度は平常の倍近くあった。風向は複雑にねじれている。彼は三つの値のうち一つ、風向を紙に記し、共同帳にもう一つの写しを残させた。規則は守る。断言はしない。彼の職業倫理が、ここでも彼の指を動かした。
「このあたりで群青の譜面が反応してないか?」ナギが訊いた。彼女の目は風の方向を追い、顔に小さな皺が寄っている。「風が、いつもと違う。音も違う。遠い潮の匂いがする。ここらじゃありえない」
晴臣の瞳の奥で、群青の同心円が静かに広がる。竜骨の振動、砂粒の配列、湿度の波が五線に並び、彼の中に音楽のように流れた。だがそれはいつもの未来図とは違って、薄い透明な頁がいくつも重なったように見えた。将来は一つではなく、半透明の地図が並ぶ。彼は紙に小さく何行かを書き連ね、不確実性を添えた。可能性の重なり、観測に基づく仮説、優先度の指示。彼は声にして言わなかったが、共同帳の記録がその代わりを務める。
彼らが泉の縁を回り込んだ時、地表の傷口の向こうに、まるで別世界から引き寄せられたかのような光景が現れた。石畳が現れ、低い塔があり、観測塔だろうか丸い屋根の建物が並んでいる。だが周囲の砂嵐の紫に反して、その町だけは石の濡れた匂いと木の煙の匂いが混じっていた。雨が、そこだけにしとしとと降っていた。雨は砂漠の空気を濡らし、石畳の目地から湯気が立ち上る。町の大きさは、人が払えば消えるかもしれないほど小さく、しかし確かに町だった。
「雨の町……?」リゼットの声は薄く震えた。暦院の古地図にだけ印されていた、例の無人標が目の前に現れている。記号はただの印だったはずだが、今ここに存在している。遊牧民の古い言い伝えが、突如として現実に鳴り出したような感覚だった。
ナギは旗を胸に抱えながら、町の入口へと歩み寄った。赤布が三度結ばれた結び目が風に揺れる。布先から小さな銀色の水滴が跳ねるのが見えた。共同観測が一瞬成立した合図のように、器具から銀色が弾けたのだ。晴臣はそれを見て、胸の中の緊張が一瞬だけ柔らいだ。
彼らは、半信半疑で石畳を踏みしめた。雨はひんやりと、前世で聞いたあの雨音に似ている。だがどこか歪んでいた。雨は音としてはっきりと地面を叩くのに、空には厚い砂の層が残り、遠くの空は紫のままだった。町を囲む空気は時間の境い目のように淀んでいる。
「ここは……重なってるんだ」晴臣が低く言う。群青の譜面が小さく震え、金色の亀裂が一つだけ細く走った。彼は自分の手で紙を取り出し、確認する。観測塔の脇に立つ掲示板には、見知らぬ文字で書かれた表が貼られている。だがその表の様式には、見覚えがある。前世の気象台で見たレイアウト——日付、時刻、観測者名、温度・湿度・風向の欄。細かい手書きの癖まで、どこか似ていた。
「誰かがここに観測紙を差し入れたのか?」ガルドが器具を掲げながら言う。針は今やまるで磁石のように、掲示板の方角へと引かれている。だが掲示板は空虚で、紙は風にめくられている。晴臣は掲示板の隅に、折りたたまれた一枚の紙を見つけた。それは古い観測紙だった。インクは時を経て若干褪せているが、そこに書かれた字は——
彼の筆跡だった。
指先が震えた。紙を開くと、日付は彼が前世で最後に記したものと似た書式で、しかし見覚えのある手癖が確かにそこにある。紙面には、彼が死んだその夜に書き残したはずの断片が、続きとして綴られていた。行間には「次の観測者には、一人で正しさを背負わせるな」という一文が、他の文字とは異なる勢いで書かれていた。文字は潰れていたが、意味だけは刺さるように彼の胸に突き刺さった。
晴臣は紙を抱きしめるようにして読んだ。指の先から、雨音がひんやりと侵入し、彼の中の一つの像がぼんやりと消えかけた。いつもの違和感が来る——雨音が、彼の記憶を一つずつ奪う。だが今回は違った。彼の隣にいたナギが、すっと肩を寄せて共同帳を差し出した。リゼットが無言でその観測紙を受け取り、共同帳の空白ページに即座にコピーを書き写し始める。ガルドは器具を掲げ、その波形を共同帳に貼るようにして細工する。イオは周囲を見張りながら、見つけた証拠が消えないように小さな杭を打ち、紙の周囲を囲った。
「記録は一人のものじゃない」リゼットが言った。声は強い。彼女の指先は震えていたが、その手は確かに紙面を取り、写し、署名欄に自分の名前を刻んだ。ナギは旗の結び目をもう一度三度結び直し、それを紙の上に置いた。銀色の水滴が器具の縁に落ち、砂の粒と混ざってきらりと光った。共同帳に彼らの署名が順に並ぶ。晴臣はその行為を見ながら、胸の底で何かが固まるのを感じた。
雨の町の空気は、ほんの一瞬だけ、彼らの行為を認めるかのように和らいだ。遠くで小さな鐘が一度鳴り、それが石の戸の奥から木霊した。鐘の音は、どこか懐かしく、同時に別の世界の時間を運んでくるように思えた。掲示板の隅にあるもう一枚、薄く折られた紙がゆっくりと風に開いた。そこに印された字は、見覚えのある書体で——晴臣の前世の気象台のフォーマットだった。さらに下に続く数行に