極地料理船の料理長
喪失を差し出して、誰かの故郷を取り戻す。料理が紡ぐ記憶の航海。
あらすじ
結城透は、極夜の海を航行する記憶保存船「白潮」の料理長。彼は食材に残る“温度のざわめき”を調理のリズムと唾液の触媒で呼び起こし、沿岸共同体の「故郷」の記憶を再現する能力を持つ。しかしその代償は透自身の記憶を少しずつ削り取ることだった。船員たち――海洋生物学者の佐倉、技術者のアルノ、記録技師の木下、倫理監査のミナ――とともに、透は凍てついた浜や廃港を巡り、凍結傷や焼け跡、古い方言の断片を手がかりに集材を進める。一方で外部勢力からの干渉や倫理上の問いが迫り、個人の喪失と社会的正義の狭間で彼らは決断を迫られる。料理と科学、儀礼と制度が交差する航海で、透が何を守り、何を失っていくのかが物語の核心となる。