異世界転生塩田守の商人王

異世界転生塩田守の商人王 第21話「第19章」

ルカは朝の潮風を胸いっぱいに吸い込むと、岸辺の小屋でひとつだけ残した海藻の束をぎゅっと握った。やることは決まっている。だが、それを邪魔するものがいま、町中に吹き荒れていた。

ルカは朝の潮風を胸いっぱいに吸い込むと、岸辺の小屋でひとつだけ残した海藻の束をぎゅっと握った。やることは決まっている。だが、それを邪魔するものがいま、町中に吹き荒れていた。

「お前がやったっていうのか、塩をばら撒いて商会を貶めたと──」
「そんなことをする理由があるか、トーマス。あの子は俺たちに塩をくれたんだ」

小屋の戸口で、漁師のトーマスと年長の女医リナが言い争っている。トーマスの顔には疲労と疑念が混じり、リナは声をひそめてしかし確信を帯びている。ルカは中へ入って、声を張った。

「落ち着いてください。今日の約束は、全員で水の検査をすることです。見せられるものは見せます。隠し事はしません」

彼らが守るべき対象——飢えに震える町の人々と、夜中に窓を叩き助けを求めたあの家族たちを、ルカは思い浮かべる。今、商会長が撒いた偽情報がひとつの波紋となって広がり、弱った人々の不安を餌にしていた。商会は「ルカは甘い塩を盗んで、町を混乱させるために偽の検査を捏造している」と書き立て、訴えを信じた者には金を差し出しているらしい。買い物袋を提げた女が、昨日その噂を耳にして青ざめていたのをルカは忘れない。

「買ったってことにされてんだ。金が回ると案外人は信じやすい。証拠がなければ、言葉は風で消える」トーマスが唇を噛む。

「証拠を出すんだ。文書と記録、複数の目で──」リナがうつむいて指示を出す。「この小屋を使わせてもらうよ。私が検査の手順を書き留める。外からの監視も必要だ」

仲間たちは自分の役割を持っていた。リナは医療と衛生の知識を提供し、トーマスはここの水源や船の流通を知る。ザヤという若い婦人は井戸の管理を任されており、彼女は自分の家の前に立ってにらむようにルカを見つめた。誰も、ルカの道具ではない。彼らは自分の判断でここにいるのだ。

だが、ルカの心臓は嵐の前の海のように乱れていた。味覚はまだ薄れている。収穫の頭数を越えて塩を「売買だけに使う」わけにはいかない。もし商会に塩を売ってしまえば、塩田は枯れ、彼の舌から最後の味が消える。だから、彼は売買で解決を図れない。だが「検査」に使うことはできる。自分で整えた塩田の塩だけが、水に溶かすと隠れた腐敗や毒を炙り出す——それが彼の持つ能力である。今日、彼はその能力を見せるつもりだった。ただしやり方を間違えれば、商会の罠に飲み込まれる。偽証や密やかな攪乱で、住民の記憶や文書を消されることだってあり得る。

「まずサンプルの取り方を決める」ルカは言った。「井戸の水、配給用の樽、商会が配った袋入りの塩。全部、ここで同じ方法で封じます。封は三人の目の前でねじ止めして、封蝋は各自で押してもらう。開けるのはここで、全員の前だ」

ザヤが前に進んで、しわだらけの手で木の箱の蓋を開けた。そこにはロウソク、封蝋、ガラス瓶が並べられている。彼女の目には決意が宿っている。

「私の井戸の水を使うわ。昨日の夜、商会の巡回がここに来て、検査用の水を持って行こうとしたの」ザヤは低い声で言った。「断ったら、商会の手伝いをしてくれてる者に嫌がらせが始まった。今日ここで見せて、終わらせたいの」

周りに集まった人々の顔に、それぞれの物語が刻まれている。商会の言葉で、家族が分断され、仕事が奪われる。ルカは胸の内で約束をかみしめた。力を示すだけでなく、声そのものを取り戻す手順を作らねばならない。

検査は昼前に始まった。人々はそれぞれ持ち寄った容器を並べ、リナが手順を読み上げる。サンプル採取は三人の目の前で行い、蓋は蜂蜜のロウで封じられた。封蝋に押された印は村の公印。トーマスが指示どおりに井戸の周囲を掃き、ザヤが水を汲み上げる。商会の樽は神父の家から持ってきた。神父は人々の声を守ることに価値を置いていたので、箱入りの商会配給の塩も同時に提出された。

ルカは自分の小さな戸棚から紙包みを取り出す。中には彼自身が整えた塩田の塩が入っている。金色に輝く粒は、遠くの浜で潮と風と手で作られたものだ。これを水に溶かす。だが、彼は見せ物じみた演出を嫌った。手順は正確でなければならない。もし誰かが「芝居だ」と言うなら、彼らはなにを以て決めたというのか。

「この塩だけが、何かを浮かび上がらせる」ルカは静かに説明した。「他所の塩では出ない。だからこそ、検査法は公平である必要がある。全員の目の前で、同じ容器、同じ量で行う」

リナが記録を取り、神父がその横で祈るように唇を動かす。トーマスとザヤ、それに数人の村の若者が輪になり、見開かれた空の上に重い沈黙が垂れこめた。

まずは井戸の水の瓶が開けられた。蓋が切り取られる音、封蝋がぽろりと取れる音が、集まった者たちの心臓の鼓動をかき消す。ルカは掌で粉を量り、三つまみを静かに瓶の中に落とした。塩は水の中で溶け、淡い白い筋が瞬く間に散った。数分が過ぎた。何も起こらないように思えたその時、表面に薄い膜が張り、真珠のような小さな泡が寄り集まり、匂いが垂れ流れた。

「……匂いが」誰かが言葉を漏らす。魚でも藻でもない、湿った紙のような匂い。リナの顔が少し青ざめる。表面には薄い皮のようなものが立ち、ところどころに黒い斑点が浮かぶ。人々の間から小さなざわめきが漏れた。

次に、商会が配った塩を同じ手順で試した。包みを注意深く開けると、紙の端にロゴ。商会の印だ。ルカは心の中で針を刺されるようだった——この包みには甘い塩の香りは含まれていない。商会に渡っていたかつての甘い塩の話は、今ここでどのように働くのか。彼は自分の指で少量のそれを取り、水に入れた。

溶けた塩は水に白い筋を作った。最初に見えたものは何もなかった。だが三、四分経った頃か、表面が波打ち、薄く茶色がかった斑点が現れ始めた。井戸の水よりは微妙だ。見比べれば違いは確かにあったが、「何もない」と言われたなら誤魔化せるほどに少なかった。

そこへ、商会の一人が人混みを押し分けて入ってきた。商会の使い者は整った服を着ていて、銀の指輪をしていた。彼は高慢に鼻をしながら声を張った。

「これが――呪術か芝居じゃないか。酒で香りを変えたんだろう。君は自分で塩を混ぜたに違いない。証拠もないのに人々を惑わすのは悪だ」

その言葉には下衆な笑いがあった。彼の側には書記らしき者がいて、既に小さな紙束を手にしていた。噂を補強するための偽りの証文かもしれない。

村の中に嫌な空気が走る。トーマスの手が袋のひもをにぎりしめ、その青い指の震えが止まらない。誰かが拍手を始めれば、それは圧力だ。ルカはその手を握りしめて、低い声で言った。

「ここでの手順は全員が見ている。封の仕方、人数、同じ時間。もし偽りがあるなら、私が全て差し出して証明します。だが——」ルカは言葉を切った。「売り買いの条件で解決するつもりはありません。売れば塩田が枯れる。あなたたちに塩を売って金で解決するようなら、それは僕の能力を貸し与えることになり、僕の塩は消える。それは僕の責任ではなく、君たちの未来を奪う行為だ」

そこまで言うと、小さなざわめきが再び起こった。安堵の声、怒りの囁き、半信半疑の沈黙。ルカは続けた。

「検査を記録に残します。神父が立ち会い、リナが書記し、各村から代表を