異世界転生城壁番の聖騎士

異世界転生城壁番の聖騎士 第11話「第10章」

朝の陽が北門の石積みに斜めに刺さり、ひび割れた門章の断片は薄暗い影を落としていた。トウマはいつもの巡回服を着替えず、そのまま広場に立っていた。今したいことはただ一つ――この場所で、公の場で、真実を示すことだった。人々が自分の言葉で語れるようにすること。だが目の前には門司令バルムの厚い声と、王都の使者を示す色褪せた綬があった。彼らは今日、抑えつけるつもりでこの場にやって来た。

朝の陽が北門の石積みに斜めに刺さり、ひび割れた門章の断片は薄暗い影を落としていた。トウマはいつもの巡回服を着替えず、そのまま広場に立っていた。今したいことはただ一つ――この場所で、公の場で、真実を示すことだった。人々が自分の言葉で語れるようにすること。だが目の前には門司令バルムの厚い声と、王都の使者を示す色褪せた綬があった。彼らは今日、抑えつけるつもりでこの場にやって来た。

「君が言う“証言”とは何を示すのかね、北門守備トウマ」バルムは広場を睥睨していた。太い指先に泥と油の跡が残り、年季の入った甲冑に付いた徽章の一部が、まさしく広場の片隅に落ちている門章の断片と似ていた。トウマはその視線を避けずに、ただ人々の方へ向き直った。

「人々の生活です、命です。隠されていることを明かしてほしいという声を集めます。ここで皆が語れば、震えたり、怯えたりする価値観を誰かに一方的に決められなくなるはずです」トウマの声は小さくても広場に届いた。彼の側には職人のアルマ、口の達者な青年カイ、そして先日から彼を助けるようになった老女ミルダが控えていた。彼らは仲間であり、主導者ではなくそれぞれが自分の理由を持ってここにいる。

「そうだ。まずは順序だ。誰もが聞けるように、発言順を決めて」アルマはさっさと紙を取り出し、並んだ人々に手際よく番号を付けていく。カイは小さな木箱を台にして、誰が話すかを示す簡素な拍手の仕組みを説明した。老女ミルダは震える手で封筒を握っている。封筒の中は、先日見つけた古い文書のコピーだと言っていた。

だが広場の端には、バルムの部下の何人かが秩序を保つ名目で立っている。彼らは避難民の中でも「危険」と名指しされた者たちの近くに配置されていた。バルムの目は、そうした人物を無言のうちに拾い上げていた。トウマの腹にひんやりとした緊張が走る。彼は朝の巡回でこの壁を歩いた。足場を作れるのは、自分が今日見回った壁だけだ。だが、それをどう使うかが今問われている。

「ここでなにか不穏なことが起きれば、我々は介入する」バルムの声は命令だった。王都の使者は足を組み、薄い表情で一つの鞄を抱えている。彼は書記官のように見えたが、視線の冷たさは記録する者以上のものを示していた。広場の人々の顔が一斉にこちらを向く。かすかな震えが波紋のように広がった。

トウマは自分の手を見た。巡回服のポケットには小さなノートと鉛筆。指先の感覚はいつもより研ぎ澄まされていた。能力は、彼が「危険を感じた者の足元に一時的な石の足場を作る」――だがそれは、彼が「選ぶ」ことで成り立つわけではない。選別を行えば、壁は内側から崩れ、彼自身が痛みを受ける。選ぶという行為そのものが代償を呼ぶ。トウマはそれを知っていたから、選ぶことを避けてきた。だが、今は違う。選ばせられそうになっている。

「まずは証言を――」と言おうとした刹那、バルムが手を上げた。「例の者どもは、先に審問に連れて行く。危険因子を排除するのが我々の務めだ。ここで騒ぎを大きくされてはたまらぬ」

その言葉に、つい声を荒げる者がいた。痩せた男が前へ出る。彼の顔には埃と汗が混ざり、口の端に血の跡が見えた。「おい、俺は何もしてねえ! 逃げるだけの人間を殴るな!」

バルムの部下がその男に手を掛けようとしたとき、トウマは自然に体が動いた。選択ではない。壁へと注がれた視線が変わると、彼は「危険だ」と身体が反応する。身体は避けるべき崩落や、踏み外す足元を予感する。足場を生む条件は、ただ一つ――自分が見回った壁であり、そして自分が「危険を感じる」こと。今、男の表情と群衆の圧力を感じ取り、トウマは手を伸ばした。男の足元に、ひんやりとした石がふわりと生じる。堅いけれど滑らかな、夜露を含んだばかりの新しい石----一瞬で彼の足元に台ができた。

その変化は群衆には奇妙な安らぎとして伝わった。バルムの部下の手は止まり、トウマは息をつく。しかし同時に、壁の中から低い亀裂の音がした。彼の胸を瞬間的な痛みが貫く。頭の奥にズキリとした響きが走り、彼はよろけた。選別したわけではないのに、なぜ? だが痛みは短く、言葉にできない種類のものだ。いつもそうだ。彼は痛みに顔をゆがめながらも、群衆に向かって手を振った。

「順序通りに。話す人は一人ずつ。私が安全を確保します。危ないところは私が見ます」彼は短く指示を出す。アルマがすぐに反応して、木箱の上に番号札を置き、最初の発言者を促した。ミルダが立ち上がり、封筒を差し出した。老女の目はいやに澄んでいる。彼女の口元には、隠れて握っていた薄い金属の破片があった。それが門章の断片だった。

「これです……」ミルダの声は震えながらも確固としていた。「昔の布告の写真があった。ここに彫られているものは、あの門の印と同じ。門司令の徽章とも……」

バルムの顔が青ざめ、色が変わる。広場のざわめきが一瞬にして高まる。老女は手を差し出し、封筒の中の紙を、一枚一枚丁寧に配った。写された印章は、確かに彼らの今の徽章と同じ図柄の一部を示している。だがその周りに書かれた文言は違和感に満ちていた――「移動の制限」「帰属の証明」「一時的救済の名で始まった隔離」……文字は古く、黒くにじんでいた。

「これは……何です?」カイが封筒の中身を覗き込み、彼も黙り込む。バルムの表情は怒りと焦燥が混ざったものに変わった。「そんなものは歴史の残滓だ。我々はその法を適用しているわけではない。混乱を招くだけだ。都市の安寧を乱すな」

だが人々の目はもう変わっていた。あの印章の断片と文書の一致が、これまでの何気ない規則や看板の意味を裏返す力を持っていた。トウマは流れる感情を一つずつ感じ取った。怒り、恐れ、希望、そして何よりも――自分で語り返したいという意志。彼はそれを尊重したいと思った。

「ここにいる人たちの一つ一つの話を、黙殺するようなことはしません」トウマははっきりと言った。「私は暴力を望みません。証言が必要なら、私たちで聞きましょう。王都の使者が来ているなら、書き留めてもらえばいい。暴力は問題を深めるだけだ」

使者が鞄から羽根ペンを取り出し、書物を開いた。彼の唇は薄く、眉間に皺を寄せている。「記録は取る。しかし、我々は秩序を守る義務がある。公の場での断片的な証言だけでは事実は不確かだ」

「それならここで確かめましょう」トウマは静かに答えた。「一つずつ、生活の事実を提示する。誰もが見て、誰もが聞く。これ以上の抑圧は、ここには必要ないと示すために」

バルムの目が鋭く光った。「君は士気を高めるつもりか? それが秩序を破るなら、力で止める」

「力が解決するなら、壁はいつも誰かのために壊れているはずだ」トウマは言った。言葉が広場に波紋を作る。だがその瞬間、バルムが司令台へと歩み出し、野卑な笑みを浮かべた。「では最初の発言者はその男にしよう。危険因子を排除されたという報告がある。彼の弁明を聞こうではないか」

バルムが指さしたのは、トウマが最初に助けた母子の母親だった。彼女はこの地の最初の避難民の一人だ。先日、石段をよろめいて落ちそうになっていたのをトウマが救った。バルムの意図は明白だった。彼女を最初に立たせ、言葉の芯を折る