異世界転生氷菓子師の辺境伯

異世界転生氷菓子師の辺境伯 第3話「第2章」

朝の光は雪に反射して刺すようだった。いつもならその白さがレナの手仕事を助けるはずだった。だが今日の光は鋭く、空気の奥に熱を含んでいて、息を吸うたびに喉の奥がざらついた。村の井戸の方角から、ほのかな土の匂いとともに、ざわついた声が風に乗ってくる。

朝の光は雪に反射して刺すようだった。いつもならその白さがレナの手仕事を助けるはずだった。だが今日の光は鋭く、空気の奥に熱を含んでいて、息を吸うたびに喉の奥がざらついた。村の井戸の方角から、ほのかな土の匂いとともに、ざわついた声が風に乗ってくる。

「ねえ、あれ見た?」と、行商のトビィが顔をしかめて井戸をのぞき込んでいた。彼は大きな袋を肩にかけ、冬場でも薄いコート一枚で仕事をしている男だ。いつもは朝一番に村の広場で話し相手になってくれる。今日は違った。彼の視線は井戸の表面、いつもは張っている薄氷の上に張り付く白い膜を捉えていた。

「濁ってる。底まで見えない」トビィの声は低く、言葉の端に不安が載っていた。そこに、子どもが二人、咳をしながら走ってきた。小さな体を震わせ、唇を紫色にしている。片方の子はレナの妹分のミーナの友達、ノアだった。彼は手に赤い実を握っていた。指に力が入って、その爪の間に果汁がにじんでいる。

レナは店の前の作業台から立ち上がり、エプロンの端をぎゅっと握る。今したいのは、ごく普通のことだった。オーブンを熱して、明日の祭りのためにスパイスの利いた焼き菓子を試作したい。冷たい手で溶ける生地をいじり、甘い匂いで村を満たしたかった。だが喉の違和感を感じると、その欲望はすぐに後回しになった。守るべき相手がいる。咳をする子どもたちだ。村の井戸が濁れば、長くこの村に暮らす者たちが命を失うかもしれない。

「レナ、来い」村の年長者カリナが呼んだ。彼女は鶴のように背を伸ばした老婆で、いつも冷静に物事を見る。だが今朝の彼女の目は揺れていた。「水が薄く膜を張っている。魚も浮いてきた。熱風が来ているのかもしれん」

風は日差しと共に来た。雪国の村では珍しい、湿った生暖かい風だった。木々の葉の間を通り抜けるたび、雪は小さな水滴に変わり、屋根の端から落ちていた。村人たちはざわつき、井戸のそばに集まる。その中に、レナの親しい顔があった。見習い仲間のヨーリだ。ヨーリは大柄で、いつも不器用に笑っている。手には包んだパンを抱えて来ていた。

「子どもが咳き込んでる。どうするんだろう?」ヨーリが腕を組む。彼はレナを見た。「レナ、お前の……あの、氷のやつ、使えないか?」

レナはその言葉で凍りついた。口に出されると、秘密はもう自分一人のものではない。だが、表情は平静を装う。ヨーリの視線は真剣だった。ミーナの咳の音が続く。小さな体が震える。選択は目の前にある。

「今、ここで」レナは呟いた。声は小さかったが、風に運ばれて届いた。彼女は自分の店に戻り、作業台の引き出しから小さな布包みを取り出した。その中には、前の夜に作ったばかりの保存用の果実ジャムが入っている。普段は祭り向けの試作品だったが、彼女はそれを抱いて外に出た。

ノアが近づいてきて、赤い実を差し出す。手が震えている。「おばさんが、これ、分けてって……僕のは少しでいい。食べて」

「ありがとう」レナは首をかしげ、実を受け取る。触れると温かさが手に伝わる。ノアは自分の掌を自分の胸に当て、咳をする。彼の瞳には恐れと期待が混ざっていた。

能力はいつも静かに働く。レナが実の香りを鼻に近づけると、その甘みの記憶が彼女の舌に広がる。彼女は熟考する余地もないまま、掌に乗せた実に唇を寄せて、小さく息を吹きかけた。果実の周縁から、透明な冷気がにじみ出し、短い時間のうちに甘みの結晶ができる。実はすぐに薄く冷え、小さな氷の粒が表皮に花開いたように光った。

その瞬間、井戸から押し寄せるように来ていた暖かい空気が、ふっと引いた。風の湿り気が軽くなる。子どもたちの咳が小さくなるのを、誰もが感じ取った。小さな奇跡のように、ノアの顔に色が戻ってきた。彼は驚いたように目を見開き、口元にできた小さな氷菓を見つめた。

だが代価はすぐに来た。レナの体は内側から冷えていくのが分かった。手がしびれ、指先の感覚が遠のく。胸の奥が冷たく締めつけられ、息が浅くなる。彼女は一瞬、膝を折りそうになった。ヨーリが慌てて腕を差し伸べ、彼女を支える。

「レナ、休め! お前の顔、真っ青だぞ」ヨーリの声に、レナは辛うじて笑みを返す。だがその笑みは震えている。自分が得た効力は、誰かに分けられた甘みを凍らせて熱と腐敗を吸わせるという形で現れる。熱を取り込むことで、目の前の人々は救われる。だがその吸い取った熱は、自分から消える。体温が下がるのだ。今、その代償がはっきりと体に現れている。

「もう少し分けてくれる?」ノアが不安げに尋ねる。彼の小さな声に、レナは決断を迫られた。使えばまた誰かは楽になる。だがそのたびに、自分の体は冷える。誰にも言っていないが、最悪の場合、動けなくなることだってある。彼女は力を振り絞って首を振った。

「今はダメ。もっと温めないと」レナは言った。言葉の端に強さを込めると、周囲に安堵が広がったように見えた。ノアは果実を胸に抱きしめ、他の子どもたちと共に離れていく。

村人たちは助かったことに顔を綻ばせる。だが同時に、井戸の表面に広がる薄い膜に手を差し伸べ、指で触れた者の顔が曇った。村長のカリナがその膜を手の甲で擦ると、白い泡が指に着いて落ちた。泡の匂いは、腐った匂いに近かった。村の鍛冶屋が眉を寄せる。

「これ、何だ」鍛冶屋の声は無骨だ。ただの異常なら彼も騒がない。だがその表情は何かを悟ったように厳しい。そこへ、遠くから馬のいななきが聞こえ、役人風の影が村に近づいてきた。役人は夏でも毛皮をまとっているわけではないが、その制服の縁は威厳を示していた。辺境伯領の管理者が行動を開始したのだと、誰もが言葉にしなかったが感じていた。

レナは自分の手の感覚を確かめる。指先はまだ冷たく、包帯程度の布では温まらない。ヨーリが自分のマフラーを外してそっとレナの肩に掛けた。彼の手が触れるたび、ほんの少しだけ温かさが戻るように感じた。だがそれは一時的だ。寒気は胸の奥に残り、振るえが止まらない。彼女は自分の体が、救済の器であると同時に費用を払う器であることを思い知る。

「無理すんな」トビィが言う。彼は既に周囲にある保存食を配り始めていて、食べ物を分け合うことで人々の不安を和らげようとしている。レナは彼の手つきを見て、胸の奥が締め付けられた。自分一人で背負い込むべきではない。だが今は、どうしても目の前の子どもたちが一番だった。

「夕方になったら、井戸の水を取ってくる人を決めよう。大勢で行けば安全だろう」カリナが声を出す。年長者の決断は即座に場を落ち着けた。村の規則と伝統が、こういうときには力を持つ。だがその規則が通用しないものも来ている。熱風と濁りで、いつもの分配だけでは足りないかもしれない。

レナは自分の布包みを見る。冷えた果実の上に小さな氷が光っている。溶けない飴の小箱がそばの台に置かれているのを見つけた。古ぼけた箱のふたに、擦り切れた紙片が貼られている。誰かがそれを手に取り、中身を子どもに渡した。子どもはその飴を舐め、目を輝かせながら笑った。だが、飴は溶けることなく唇の上で固く光る。誰もその時は不思議がらなかった。ただ淡い歓声が上がり、子どもの笑顔が場を和ませた。

レナは自分の中で時計をはかるように時間