異世界転生氷菓子師の辺境伯 第10話「第9章」
雪明かりの濡れた路を、レナは両手にあった木箱を抱えて歩いていた。中には珊瑚色に照った山の実と、薪で蒸したリンゴの煮込みが入っている。今したいことははっきりしていた――子どもたちに氷菓を配り、熱に苦しむ小さな胸を一つずつ軽くすること。けれど道を遮るのは、進行した冷えよりもずっと現実的な制約だった。果実をくれるのは村の誰かでなければならない。自分が勝手に凍らせて持ち出すわけにはいかない。もう一つは、使いすぎると自分の体温が奪われること。三度も四度も繰り返せば、作業が続けられないほどに震えがやってくる。
雪明かりの濡れた路を、レナは両手にあった木箱を抱えて歩いていた。中には珊瑚色に照った山の実と、薪で蒸したリンゴの煮込みが入っている。今したいことははっきりしていた――子どもたちに氷菓を配り、熱に苦しむ小さな胸を一つずつ軽くすること。けれど道を遮るのは、進行した冷えよりもずっと現実的な制約だった。果実をくれるのは村の誰かでなければならない。自分が勝手に凍らせて持ち出すわけにはいかない。もう一つは、使いすぎると自分の体温が奪われること。三度も四度も繰り返せば、作業が続けられないほどに震えがやってくる。
「レナ、あんたまた無理を…」
声の主はミアだった。材木置き場の前で、彼女は大きな毛布を肩にかけて立っている。ミアは手に空の布袋を持ち、目は村の広場を見やっていた。そこには咳き込みながら寄り添う親と、鼻水を拭う子どもたちの列。レナは息を吐いて、雪に混じる冷たい匂いを嗅いだ。
「今日は、できるだけ多く分けたい。あの子たちに――」レナは言いかけて、言葉を切った。言葉の先にあるのは、あの一週間前に見た老人の顔だ。あの人は、彼女の作った氷菓を一つ食べた。笑いは消え、頬は固まって、目の端が光を失った。あのときの温度の落ち方が、今でも彼女の胸を刺した。
ミアは木箱を指でつついてみせた。「共有の合図をしないと駄目だよ。誰かが、自分の果実を分けるって言ってくれないと、魔法は動かない。村長の子がまだ渋ってるからね、勝手にやれば恨まれるよ。それに――」
「体が持たない」レナは小さく続けた。指先が痺れ始めている。温度が吸われる感触はいつでも唐突だ。胸の奥から冷えが這い上がり、骨の周りの血がゆっくりと遅くなるのがわかる。分けられた果実に触れると、甘みが氷の核のように結晶化する。そこに人の熱が移ると、熱は目の前の小さな塊へと引き込まれ、腐敗の匂いも一瞬薄れる。だがその吸引の分だけ、レナの体温は下がる。薄い氷の膜が唇の端につくように、彼女の手も頬も浮かぬ色になった。
「子どもたちが待ってる」とミアは言った。「けど、私たちも分担しよう。オルヴァとハンスが薪を継いでくれるって。あんたは手を休めて、休める時はちゃんと休む。作るのは、レナ一人の仕事じゃないよ。」
オルヴァは鍛冶屋だ。鉄の香りがする大きな腕をした男で、普段は氷菓の作り方など知らない。ハンスは井戸守りで、いつもは水瓶とひもで暮らしている。二人とも手先は不器用だが、やると決めたら動く。彼らが荷を引き受けてくれると言っただけで、村の空気が少しだけ軽くなった。
「分けるなら、誰からもらう?」ミアが尋ねる。問いは現実的で、立法のように重い。ここで決まるのは単なるスケジュールだけではない。誰が誰に頼り、誰が誰を見張るか。独り占めの危険を抑える約束ごと。
そのとき、列の日溜まりから小さな手が伸びてきた。白い帽子を被った子どもが、半分になった赤い果実を差し出している。リンゴの皮は薄く割れ、蜜が凍てつき始めていた。
「レナちゃん、これ、半分だけ。お母さんが分けてって」子どもの声は震えていたが、目はきらきらしている。誰かが分ける――それは能力の扉を開く合図でもある。レナは一瞬ためらった。体が叫んでいた。もう一度動けば、夜が近づく前に息が浅くなるだろう。けれど顔を上げると、距離の先にいる子たち全員が待っている。頬に染む赤と鼻の尖り。言い訳は通じない。
「いいよ」レナはその子の掌を取った。果実の表面は冷たく、甘い香りが雪の中でも勝って匂った。掌を通して伝わるあたたかさを確かめると、彼女は掌をひとつの形に整え、静かに息を吐いた。能力の合言葉はいつだって同じ。誰かが自分の果物を分けるという行為の中にある信頼。それを受け取ると、甘みは青白い結晶へと変わり、指先から冷気が抜けていった。
最初の一個を子どもに渡すと、咳が一瞬だけ収まった。眉間のしわがほどけ、笑いが戻ったように見えた。周囲からは小さな歓声が上がる。しかしその歓声の裏で、レナの手は明らかに遅くなっていた。足取りも重く、息遣いに浅さが混じる。ミアが素早く毛布をかけ、オルヴァが木箱を受け取って隣に据える。ハンスは暖炉に薪を追加し、蒸気で空気を少し湿らせる。誰も彼女を責めない――ただ手を差し伸べるだけだ。
「数を決めよう」ミアが低く言った。「一人が一晩に使える回数を決める。それが守れないなら、他の者が代わりをやる。今日は特別だから、子どもに三つずつ配ろう。けれど私たちが監視する。独り占めは、絶対に許さない。」
レナはうなずいた。心の中に、あの老人の無表情がまた浮かんだ。自分が作った氷菓が人の笑いを奪ったとしたら――それは耐え難い。だからこそ、彼女は自分の体を守ると同時に、使い方を村全体で管理することに賛成した。自分が代償を背負いすぎないように、そして技術が誰かの手に握られないように。
「ルールはこうしよう」とハンスが提案した。「まず、果実は必ず本人が切り分けて差し出すこと。次に、レナは三回まで。四回目はミアかオルヴァが代わりにやる。最後に、氷菓は子どもから順に渡す。大人は控える。」
「けど三回じゃ足りない時もあるでしょう」若い母親の声が上がった。子どもの額に汗を拭いながら、彼女は不安げに訴える。「疫風が強い日はどうするの? 遠くの親戚が来たら?」
「その場合は村全体の協議だ」ミアが答えた。「緊急なら、誰かが代償を分担する。今日はそれを試すんだ。すぐに完璧にはならないけど、やらないよりましだろう?」
近くで、子どもたちが自分たちの順番表を紙に書き始めていた。小さな鉛筆と破れた紙で、彼らは互いに相談し、誰が先で誰が後かを決める。レナはその姿を見て胸が熱くなった。守る対象はただの弱者ではない。彼らは声を出し、並び、決める。助けられることを受け入れるだけではなく、助ける側になる。レナの能力はその場で役立つが、根本は自分たちの選択にある。
しかし客観はすぐに厳しさを取り戻した。三回目が終わるころ、レナの髪の生え際に細い氷の針ができた。皮膚の下で血がゆっくりと冷たくなる感覚。指先が思うように動かず、包丁の刃が震える。彼女は立ち止まり、膝に手をついた。視界の縁が白く滲んでいる。
「休め」オルヴァが言い、背中に手を置いた。彼の手は温かく、鉄で鍛えたような温かみがある。彼は自分で氷菓を作ることはできないが、果実を切り分けるのを手伝える。ミアは懐から小さな湯袋を取り出して、レナの首に当てた。湯気が雪の冷気と混ざり、白い輪を作る。
「今回みたいに、頻繁に使うときは交替制でやろう」ハンスが低く提案した。「それに、配る際はお菓子の一部を子どもたち自身が『渡す係』として持ってもらう。分配の責任を互いに持たせるんだ。そうすれば、誰か一人が『全部くれ』って言っても止めやすい。」
レナは軽く笑った。震えで笑顔はぎこちないが、胸は温かくなった。誰かが自分の負担を取ってくれることは、それ自体がもう一つのやり方だ。魔法は使い手の個人技に頼らず、共同の制度に組み込まれることで、本来の力を失わずに保てるはずだ。
その夜、木箱の中身はいつもより少なくなった。だが配られ方は違っていた。子どもたちが小さな列を作り、年長の少年が順番を伝え、母親たち