異世界転生硝子工の発明王

異世界転生硝子工の発明王 第6話「第5章」

朝の灰色が町をまだ抱えている頃、ユイは工房の炉のそばで息を吐いた。したいことは一つだけだ。割れかけの窓を補強して、午後に注文を届けること。子どもの遊ぶ通りに向けて新しい硝子をはめれば、そこだけ光が違うはずだった。だが手を伸ばすと、いつものように痛みがよみがえってくる。先週、夜中に割れた一枚を拾ったときの痛み。あのときの傷跡が、まだ手のひらに残っているのだ。

朝の灰色が町をまだ抱えている頃、ユイは工房の炉のそばで息を吐いた。したいことは一つだけだ。割れかけの窓を補強して、午後に注文を届けること。子どもの遊ぶ通りに向けて新しい硝子をはめれば、そこだけ光が違うはずだった。だが手を伸ばすと、いつものように痛みがよみがえってくる。先週、夜中に割れた一枚を拾ったときの痛み。あのときの傷跡が、まだ手のひらに残っているのだ。

「ユイ、外で何かあったよ!」リンナの声が小さな扉の外から飛び込んできた。若者の声だ。彼女は昼間に子どもたちを見回す役で、顔は真っ青だった。トマはすでに外に出ており、肩に濡れた大きな布を掛けて戻ってきた。彼らはユイの守る対象だ。下町に残る人々、特に朝の弱い者たちを守りたい──その思いが、胸の奥で固まる。

「どこが?」ユイは炉に残した硝子器具に触れながら尋ねる。心がざわつくと、硝子を吹くときの呼吸が乱れる。自分の仕事は一つひとつの呼吸で形を作る作業だ。曇った心で吹けば、その硝子は光を毒に変す。頭の片隅にいつもあった警告を、彼は今の自分に向けて言い聞かせた。

トマが荒い息で答えた。「通りの向かい、ハルカの家。窓が割れて、……あれ、何か黒いのが付いてるって。子どもが近寄ってくしゃみしてる」

ユイは手袋を取り、革の指先を固く締める。外に出る決意は、守る対象の顔が浮かんだからだ。リンナはもう一枚布を抱え、トマは鍬の柄で長い棒を引き寄せた。二人はユイより少し年下だが、彼らの自発はいつも頼りになる。ユイは彼らに小さくうなずくと、自分の胸の内を明瞭にわかる言葉で伝えた。

「近寄る前に、窓の破片を誰も触らせない。僕が回収する。手袋と鉗子を用意して。風向きに注意して、家の戸を閉めて」

「ユイ、手、平気? 痛むんじゃないの?」リンナが訊く。彼女は、割れた窓に触れたときの痛みを知っている。ユイは小さく笑って見せたが、笑顔は引きつっていた。

「大丈夫だ。けど今日は一人で全部はやらない。僕が回収して、みんなが周囲を塞いでくれ」

彼の言葉が行動の命令になる。曇った心で吹いた硝子は光を毒に濃くする。割れれば痛みが残る。ユイはその二つの真理を知っていたから、誰よりも慎重に動かなければならない。彼は工房の小箱から、いつも肌身離さず持っている小さな硝子片、通称「虹の破片」を取り出した。指先で触れると、微かに温かい。今日はそれが、何かを告げようとするようにかすかに震えた。

通りは人であふれていた。朝の買い物に出た者、窓の破片を遠巻きに見ている子どもたち。ハルカの家の前に近づくと、硝子の破片が路面に散らばり、そこから黒い膜が光を吸っている。破片の断面に沿って黒が纏わりつき、表面を拭っても取れないように見える。近寄っただけで、喉の奥がねばつくような匂いがするように感じられた。リンナが咳をして、さっとハンカチを口に当てた。

「ここにいた子が、石を見たって言ってる。向こうの屋根から、誰かが投げたんじゃないかって」

通りの向こうには、濡れた足跡が砂利に刻まれていた。足跡は急ぎ足で去ったように見え、その先には黒い布の欠片が落ちていた。ユイはしゃがんでそれを拾い上げた。繊維には黒い粉末が固まっている。指先に触れると、粉は指の間で湿った黒さに変わり、単なる煤とも違う匂いを放った。

「単なる汚れじゃない」とユイがつぶやく。技術員だった前世の記憶が、無意識のうちに素材の挙動を語らせる。金属の酸化や有機物の濃集では説明がつかない。硝子の内部まで黒く歌うように汚れている。彼は破片を表面から見るだけで、その奥行きに異物が入りこんでいると感じた。

「あの窓、ユイが作ったんじゃないか?」誰かがささやいた。家の主、ハルカの顔が戸口に出ている。眼の下に張りついた疲れと恐怖。ユイは視線を逸らさずに答える。

「僕が吹いた。……でも、昨日の夕方に急がされて作ったものだ。ハルカが頼んで、急いで合わせを済ませた。心配していたんだ、間に合うかって」そのとき、胸の中にあったざわめきが現実味を持って戻ってきた。急がされたこと、夜の喧騒を聞きながら吹いたこと、頼まれた顔を思いやって焦ったこと。曇った心で吹いた可能性が、彼の言葉を重くする。

リンナがゆっくりと、そして確かな口調で言った。「それで——どうなるの?」

ユイは自分の手を見た。手のひらには以前の割れ目の痕があり、その痛みは記憶のように反応した。割れた硝子は、割れた瞬間に自分の痛みを彼の手に残す。彼はその代償を、いつも自分で受け止めてきた。だが今は、それを独りで抱えてはいけないと感じた。守る対象がいるからだ。

「今は調べる。誰かが故意にやった可能性がある。だけどまず、ここを安全にする。トマ、子どもを向こうの広場に。リンナ、濡れた布で縁を覆って。僕は鉗子で破片を掴む」

ユイは指示を出すと、革手袋をもう一重にした。鉗子を握るとき、心の中で小さな準備をした。硝子を吹くときの呼吸ではない。冷静に、最小限の動きで済ませるための呼吸だ。彼は破片に近づくと、鉗子の先で一片を掴み上げた。金属の先が硝子の断面を噛むと、突然、鋭い痛みが掌を通り抜けた。割れた窓の痛みが、彼の手に宿る。これが代償だ。

声にならない呻きを上げそうになりながらも、ユイは震える手を抑えた。痛みは熱にも似て、手のひらの奥で光る小さな針が刺さるようだった。だが、彼は叫ばなかった。痛みを認めれば、誰彼かまわず恐怖は連鎖する。彼はその代償を噛みしめ、作業を続けた。

破片の縁には指紋のような油が残っていた。だが指紋ではなく、微細な筋状の黒が硝子内部へと伸びていた。ユイは、破片を透明な桶に入れ、上から浄化用の溶液を注いだ。その液はすぐに黒い煙のように硝子の周りで渦を巻き、薄い膜を作った。匂いが濃くなり、リンナが顔を顰める。

「窓の内側まで達してる。拭いたり、塗ったりじゃ取れない」ユイが言う。彼は道具箱から小さな虫眼鏡を取り出し、破片を覗き込んだ。内部に、黒い網目のような模様がある。硝子が内部から変質しているとき、外側はまだ光を通す。だがその光は、ものを反らせる。ユイは観察を続けながら、頭の中で可能性を整理する。これは化学反応なのか、あるいは外からの作用で硝子が「曇る」ように仕組まれているのか。

「誰かがこの街の窓を攻撃する理由は?」トマが問う。彼の声に、怒りと恐れが混ざる。ユイは答えを出す前に辺りを見回した。夕べ、工房の近くで見かけた監視者の影、遠くの塔の薄い輪郭、工務卿の巡回の話──それらが頭をよぎるが、彼はそれを口に出さない。証拠がないことを知っているからだ。しかし、音や足跡、黒い布の欠片は一つの線を示していた。

「証拠を集めよう。破片の向き、飛散の方向、屋根に当たった痕跡、誰が何時にそこを通ったか。記録しておくんだ。噂で終わらせないために」ユイが提案すると、近所の者の中から一人、古い役人だったマルコが前に出た。彼は筆と紙を差し出し、震えた手で被害の地図を書き始める。

ユイは自分ができることの範囲を考えた。硝子を吹くという能力一つで町の光を変えられるとしても、曇った心で行えば、それは害に変わる。だから、今やるべきは自己の節制と、仕組みづくりだ。誰かが一枚の窓のために彼に頼ってき