肖像修復師の帝国
欠けた肖像が問いを呼ぶ。
あらすじ
肖像修復師エルネは、傷んだ絵の「問い」を消さずに残すことを信条に働く。宮廷に並ぶ金縁の肖像と、そこに刻まれた助言が市民生活を左右する世界で、修復の現場は制度と倫理の最前線となる。依頼人の若返り指示や、誰かが選ぶ「基準筆」によって問いが取捨選択される現実を前に、エルネと仲間たち(記録官リオ、顔料師ミナ、護衛ガド)は、名前を先に記すという小さな抵抗と記録の仕組みを作り始める。雨に濡れた回廊、折れた青い筆、名簿や欠片が示す記憶の代償――職人の技と政治の力が交差する中で、誰の声を残すのかをめぐる葛藤が動き出す。読みどころは、修復という行為を通して問いと記憶を扱う倫理的選択と、そのために払われる個人的な代価だ。