礼拝堂の宮廷書記と敵役貴公子は自分の物語を選ぶ

礼拝堂の宮廷書記と敵役貴公子は自分の物語を選ぶ 第27話「第二部幕間」

礼拝堂の夜は、昼の儀式の残響をゆっくり冷やしていた。大理石の床はまだ熱を帯び、冷たい石の縫い目が足裏に微かに刺さる。アラン・ユリスは長い机に肘をつき、羽根ペンの柄を指先で転がした。ペン先は黒いインクに沈み、乾いた紙の匂いと古びた蝋の匂いが混ざっている。窓のステンドグラス越しに赤い光が一筋差し、彼の影を細く裂いた。

礼拝堂の夜は、昼の儀式の残響をゆっくり冷やしていた。大理石の床はまだ熱を帯び、冷たい石の縫い目が足裏に微かに刺さる。アラン・ユリスは長い机に肘をつき、羽根ペンの柄を指先で転がした。ペン先は黒いインクに沈み、乾いた紙の匂いと古びた蝋の匂いが混ざっている。窓のステンドグラス越しに赤い光が一筋差し、彼の影を細く裂いた。

机の横に置いた小箱に手を伸ばすと、木の蓋は擦れた音を立てて開いた。箱の中には、薄い羊皮紙の札が整然と並んでいる。縁には小さな焼き印が押され、彼はそれを「選択の札」と呼んでいた。誰にも見せたことはない。札を一枚、指先でなぞると、羊皮のざらつきが冷たく感じられた。札は彼が自分のために残した「選べる道」を象徴している。昨夜まで六枚だったはずの札が、今は五枚しかないことに気づくと、胸の内がぎゅっと締めつけられた。消えた一枚は引き出しの中で消滅したのだ――彼が一方的に運命をねじ曲げた時に、代償として払われるもの。

あのときの感覚が、どうしても手のひらに戻ってくる。羽根ペンを握ると薄い冷感が走り、失った札がざわつくような幻聴が耳に残る。五枚の札は今も光を帯びているが、どれも少し軽く、角が波打っている。彼はそれを机の上に並べるのをためらい、そっと箱を閉じた。

背後で扉が軋み、カンナが入ってきた。祭司見習いの彼女はまだ白い装束にローブを羽織り、額には儀式の灰が残っている。消え入りそうな声で「アラン、記録長から連絡がありました」と言い、短く息を吐いた。彼女の手は震え、包帯の跡が半月の模様を描いていた。

「何があった?」アランは顔を上げ、その瞳の暗がりにカンナの影が映るのを見た。

「明日の公開断罪を早めろ、と。騒ぎが大きくなっているから──観衆の怒りを鎮める必要があるって。断罪の『読み』は書記の正統な職務だから、あなたがその場で文言を定めろと。……同意なんて取る余地がない、と言われました」カンナは言葉を飲み込み、肩をすくめる。唇が切羽詰まったように震える。

アランは羽根ペンに視線を戻した。制度文書の読み替え、合意の必要性、そして一方的介入の代償。言葉は紙に刻まれているが、紙が語らないことは多い。彼は自分の能力が、当事者全員の「合意」をどうにか取り付ける交渉術であると知っている。合意がなければたとえ文言を差し替えても、それは紙の上だけの遊びに終わる。だが、同時に、一方的に人の筋書きをねじ曲げれば、その対価として自分の選択を一つ失う。失うと言っても金銭ではなく、彼の人生から一つの「可能性」が消える。札が一枚、箱から消えたときに、彼は父の笑い声を一つ、思い出せなくなっていた。

「明日……」アランは息を吐いた。「明日、誰が断罪されるというんだ?」

「東門で暴動の首謀者とされた人々だそうです。複数名。身分の低い者ばかりで、証言は曖昧。だが、世論が煽られている。演出を早く終わらせれば、彼らを示し者にして収められるって」カンナの指先が紙の端をつまむ。爪が白くなっている。

静寂が重く落ちる。遠く、鐘楼から一度だけ低い音が鳴った。アランは窓のステンドグラスに視線を移す。赤がまた揺れ、赤い光は彼の掌に血のように長く伸びた。彼は手を振ってその影を追いやろうとしたが、動作がどこか遠まわしに感じられた。

そこに扉が再び開いて、冷たい空気と共にヴェルが駆け込んできた。警備隊服の角が間接にぶつかるたび金属の擦れる音がした。ヴェルは息を切らしながらも、眉を固めていた。「記録長が来る。二刻後にはここで決定しろと。公の場で僕らが流せる血の量と、それを花火のように見せられるかだって。──彼らは『筋書き』を狂わせることを許さない」

「だから私にやれと?」アランは自嘲気味に笑った。「もし私が一方的に断罪の文を変えたら――」

ヴェルの目が即座に反応した。「代償だろう。あなたの選択の札が減る。それで何かが救えるのかって問いだ」

「救える人がいる。だがその後に何を失うかは計れない」アランは机の上の羊皮を指で押さえ、表面の繊維に爪を立てた。痛みが彼を現実に引き戻す。

「選択肢の消失が、どれほど重大なのか。俺たちはまだ実感できていないかもしれない」カンナが低く言った。「でも、あなたが一つを差し出せば、私たちの誰かが救われる。──それをどう見るかで、この先が変わる」

その時、礼拝堂の影の奥から人の気配が近づいた。濃紺の外套が光を吸い、歩みは静かだが確かだった。セリュスが現れた。貴公子はいつものように整った姿勢で、手袋の先を指先で軽く弾いた。全員の視線が一瞬にして彼へ向く。礼拝堂の空気が、音立てて変わるのがわかった。

「会議かね?」セリュスは微笑を浮かべたが、その目は砂糖を混ぜたように苦い。彼は長い旅をして戻ってきたばかりで、旅の埃が少し肩に残っている。彼の歩みは石の床に振動を残し、振動がつないだ時間の重みが伝わる。

「記録長が明日の読みを要求しております」とアランが報告すると、セリュスは一度礼拝堂の高窓へと目をやった。ステンドグラスの赤が彼の顔を染める。彼の頬の輪郭が赤く浮かんだ。

「公開断罪か」セリュスは言葉を切り、やがて低い声で続けた。「私にとっても演出は好都合だ。『悪役』を与えられることで、私の名前は清濁を越えて語られる。だが、それは勝手に書かれた筋書きだろう。君の仕事は、その筋書きを整えることだと聞いている」

アランは息をのんだ。セリュスが言うその「筋書き」を変えることが、この物語の核心だった。だが、同時にその行為は彼の代償を招く。

「私一人の賛同では足りない」セリュスは手袋を外し、掌を礼拝堂の冷たい石に置いた。「だが私は、今夜表明しよう。明日の断罪劇に、私の反対を。私が反対することで、たとえそれが舞台演出の一部であれ、人々は悩む。私の名がそこに刻まれることを恐れる者たちに、不都合を与えるだろう」

カンナの目が見開かれた。ヴェルは歯を噛みしめる。アランは手の中の羽根ペンを強く握りしめた。セリュスの行為は大胆だ。公に反対する貴公子の意思表示は、制度に亀裂を入れる可能性を持つ。それはまた、セリュス自身にとって大きなリスクにもなる。だが彼は、冷たい石に置いた手の温度を確かめるように掌を動かした。

「私の手を何かの『合意の印』に用いるつもりかね?」アランは声を震わせずに問いかける。文書は形式を尊ぶ。合意の証は形に表さねばならない。セリュスの掌が今、石に触れているという単純な事実が、誰かの目には軽々しいものと映るかもしれない。

セリュスは小さく笑った。「いいや。今夜私は広場に出る。群衆に向かって言おう。私の名を借りてでも、もう見せ物はやめろと。私が壇に立ち、軌道を狂わせる。君は君のやり方で動けばいい。もし君が強制を選ぶなら、その代償を払うがいい。だが、もし君が人々を集められるなら、君の力は代償なく使えるはずだ——合意という名の元に」

セリュスの瞳に、確かな決意が宿る。彼は自分が与えられた「悪役」になどならない、という宣言をするかのようだった。礼拝堂の空気は震え、蝋燭の炎が一つ、また一つと揺れた。外の街路からは夜鳴き鳥の声が遠くに聞こえるだけで、世界の半分が眠ろうとしている。

アランは茫然としながらも一つ