警護の悪役令嬢は公爵家の秘密を売らない

警護の悪役令嬢は公爵家の秘密を売らない 第10話「第9章」

長いテーブルの向こう、窓辺の高窓からは薄い日差しが斜めに差し込み、壁に掛けられた旗章の色を洗い流していた。だが窓の外は庭の低木が荒れ狂う風にざわめき、折れかけた薔薇の枝が石畳に叩きつけられている。室内の暖気と外の寒い風が、まるで別の世界の接触点のようにテーブルを挟んでいた。

長いテーブルの向こう、窓辺の高窓からは薄い日差しが斜めに差し込み、壁に掛けられた旗章の色を洗い流していた。だが窓の外は庭の低木が荒れ狂う風にざわめき、折れかけた薔薇の枝が石畳に叩きつけられている。室内の暖気と外の寒い風が、まるで別の世界の接触点のようにテーブルを挟んでいた。

テーブルの中央には、黒檀の箱──今日の争点が鎮座している。箱は鍵こそないが、金属の帯と古い蝋封が幾重にも重ねられていて、手を触れただけで何かが答えるような緊張を放っていた。周囲には公爵家の派閥の旗幟を載せた人々が並び、端から端へ視線が滑っては離れ、力関係がそこに可視化されていた。

「これを今すぐお預けするよう求める。古文書に明記されている義務だ」
低く滑る声で言い放ったのは、アルトン侯爵の代理、ヴィノーである。爪の先が震えるほどに指先をテーブルに押し当て、彼の目は箱を貪る獣のようだった。

向かい側で笑うのはヘルマン侯。窓の高みに寄り、遠くの庭の嵐を見下ろしながら、手の甲で皿の縁を転がす。室内の空気の不均衡を誰より享受しているような顔だ。笑い声は小さく、だが合図のように響いた。

イリナ・セルヴァンはテーブルのほぼ中央、箱からわずかに離れた位置に座していた。彼女にとって箱は単なる物ではない。箱に封じられたものが公爵家の秘密であり、彼女はその「守護」を任された。警護──視覚のフックであり、彼女が背負わされた役割だった。

「中立を示されているのはあなただと、侯爵は理解している」ヴィノーが言葉に唾を含ませる。彼の記録文書は分厚く、幾重にも折り畳まれた古い条項が端から端へと詰め込まれていた。条項には確かに移譲の手順が書かれている。だがそこには矛盾があった。移譲には「全権保有者の合意」が必要とあり、同じ一節の別行には「緊急時には代理の決定でよい」ともある。――イリナがこれを見過ごせないのも当然だった。

「強制で済ませるつもりか」と、セルジュが低い声で言った。イリナの側に立つ近衛の一人だ。彼の手は鎧の継ぎ目をさすり、指に油気を帯びた匂いが残っている。セルジュは、以前にもイリナに向けて言った。「絶対に、強制で解決してはならない」と。

室内の温度は急に上がった。視線が一つに集中すると、誰かの呼吸が荒く聞こえる。ヴェール越しの娘、年端のいかない侯爵家の庶子が箱のそばで震えている。彼女の名前はアロイナ。今日、誰かが彼女の運命を断罪の筆で決めようとしていた。

「ここで物理的に奪えば、それは暴力だ。暴力は合意ではない」イリナは静かに言った。声は低く、だが確信が含まれている。彼女の前世の知識はなかった。あるのは、古い制度文書の矛盾を誰もが納得する読み替えへと導ける能力だけだ。――その力は、条文の間にぶら下がる矛盾を見つけ、当事者全員の同意で新しい読みを作ることを可能にする。万能ではない。何より、強制は禁忌だとセルジュが言うのは、理由がある。

「合意が必要ならここに合意を得る。だが時間はない。アルトン侯の支持者が外に待機している」ヴィノーの指がテーブルの布地を叩いた。彼の支持者の顔が窓の方で微かに動き、外の風音と一致する。もしここで押し切られれば、箱は奪われ、アロイナはそのまま公に晒されるかもしれない。

誰かがテーブルの上に肘をつき、手を伸ばす。甲冑の手袋が金属音を立てる。空気は割れそうに緊迫した。

イリナは立ち上がらなかった。立ち上がる必要がないと判断したからではない。彼女は椅子の上に座ったまま、自分の内側に集中した。古びた文書たちの行間に紡がれた糸を見る訓練は、心を無にしてこそ機能する。彼女は周囲の呼吸、布の擦れる音、指先の汗を感じ取りながら、言葉を紡いだ。

彼女の能力は「合意」から芽を出す。言葉を読むのではなく、言葉の「潜在的な同意」を探す。だが今、全員の明確な合意を取り付ける時間はない。アルトン派の男がついに手を伸ばし、天秤は暴力へと傾きかけた。

「止める」セルジュが前に出た。彼の手が男の手首を掴む。金属同士のきしみとともに、力が生まれ、周囲の人々が一瞬たじろいだ。だが一人の生来の本能だけでは瓦解しない。ヴィノーはにやりと笑い、その隙を突こうとした。

イリナはそこで、禁止を犯す決断をした。合意を得ずに読み替えを押し付けること――それは彼女のルールの明確な違反だった。だがもし彼女が躊躇すれば、アロイナの小さな体は床に横たわり、誰かの非情な筆がその未来を断罪するかもしれない。胸の中で二つの声がぶつかった。義務と道具。守るべきものと守り方の規則。

彼女は手を伸ばし、箱のすぐそばに置かれた古文書を取り上げた。ページは黄ばんで、縁は虫食いにより欠けている。文字は踊るように書かれ、矛盾の巣窟を成していた。イリナは低く言葉を紡ぐ。声はほとんど空気に飲まれるほど小さかったが、内側では確かな力が動き始めた。

条文の行間が光を帯び、糸のように集まっていく。イリナはその糸を指先で織るように結び、新しい解釈の網を作る。だがその瞬間、彼女は明瞭に感じた。何かが胸の奥で折れるような感覚。暖かい血がどこかへ流れ落ちるのを感じる。選択肢の一つが、彼女の中で音もなく消えたのだ。

セルジュの顔が驚愕にゆがむ。「イリナ、やめろ……強制は」

だがイリナは最後まで読み切った。彼女の読み替えは完全な合意を示すものではなかった。だがその場の緊急性を根拠に、条文にある「緊急代行」の行を極小に拡大解釈し、「一時的な仮保護――全当事者が速やかに意思を示せない場合、守護者の判断により移譲が保留される」と宣言した。言葉は静かだったが、法的な緊張を持って空間に落ちた。

ヴィノーは顔を歪め、手を引いた。アルトン派の何人かが瞬間的に口を開け、何かを言いかけたが、ヘルマン侯が椅子の背にもたれ、窓の外の樹を見たまま舌打ちした。力が、実に瞬時に再配分された。

「――仮保護の成立を宣言する」イリナは言った。「ここにいる全員は、この仮保護が発動した事実をまずは受け入れてください。正式な合意は、三日以内に全当事者の明示的な同意によって得なければならない。独断での移譲は無効とする」

その言葉は、合意の不在をもって合意を作る皮肉なものだった。イリナは知っていた。これが「強制」だと非難される可能性が高いことを。合意を重んじる自分の力のルールを破ったことを。だが彼女は目の前の震える子を見た。アロイナの目には恐怖と謝罪の色が混ざっている。イリナはその目を見捨てられなかった。

読み替えを終えた瞬間、前に感じた破裂音は形を取り、イリナの体のどこかに実際の代償を残した。胸の中にあった抽象的な「もし」の一枚が抜け落ち、彼女の心はわずかに軽くなった一方で穴が開いた。彼女はその場でそれを言葉にできなかった。ただ、後戻りが一つ効かなくなったのを確信した。

セルジュは息を吐いた。「やはり――」と、低く続けた。「代償を払った。だが、止められた。今それが重要だ」

他方で、室内の雰囲気は変わった。誰かが自主的に立ち上がったのだ。長い間アルトン派と距離を置いていたマリアンヌ・フェルが、自分の席からゆっくりと立ち上がり、手を箱にかざした。彼女の顔は引き締まり、普段の飄々とした表情は消えていた。