星詠みの悪役令嬢は弟を玉座から遠ざける

星詠みの悪役令嬢は弟を玉座から遠ざける 第25話「第23章」

広場は熱を帯びていた。午前の冷たさが引いて、石畳から蒸気が上がる。のしかかる人の声と、風に揺れる旗の擦れる音が混じり合い、向こうの木製演壇に立つ反改革派の演者がやかましくも整然とした口調で「王の運命」を繰り返していた。金縁のアストロラーベが陽光を受けてきらりと光り、聴衆の顔を淡い金色に染める。彼らの背中には紙製の扇子やら赤い帯やらが揺れ、演壇の前には古い巻物――「星の綱領」と呼ばれる写しが晒されていた。

広場は熱を帯びていた。午前の冷たさが引いて、石畳から蒸気が上がる。のしかかる人の声と、風に揺れる旗の擦れる音が混じり合い、向こうの木製演壇に立つ反改革派の演者がやかましくも整然とした口調で「王の運命」を繰り返していた。金縁のアストロラーベが陽光を受けてきらりと光り、聴衆の顔を淡い金色に染める。彼らの背中には紙製の扇子やら赤い帯やらが揺れ、演壇の前には古い巻物――「星の綱領」と呼ばれる写しが晒されていた。

アイリス・レインフォードは、布の手袋越しに冷たい星綴りの端を握りしめていた。彼女の掌の中で三本の銀糸が細く光る。日付を刻んだ小札、交わした契約の証、仲間の承認。それらが織られてできた「星綴り」は、彼女の能力を象徴する小道具であり、同時に自分が最後まで抱えている選択肢の数を示すものでもあった。いつの間にか一本が欠けて二本になると、胸の奥に小さな穴が空いたような気配がする。今はまだ三本だ。――最後の一本を失う恐れが、舌の根を冷たくする。

隣に立つのはリオラ。浅黒い肌に鋭い眼差しをした仲間で、今日の護衛兼発声役だ。彼女は頬に土がつき、手の甲に擦り傷がある。セドリックと呼ばれる若い法務官も控え、彼は演壇の古い写しを丁寧に広げていた。向こう側の演壇には、反改革派の顔役マルセル伯が高慢な顔で立ち、手招きするようにして演者を引き立てている。

「民の前で、王の運命が星に刻まれていると示せれば、反対は押しつぶせる」と、マルセルの声が響いた。中声だが、確信に満ちている。彼らは「星の示し」を一方的に解釈し、広場を支配しようとする。賛同者の波は早く、波紋は広がる。

アイリスは胸の奥で答えを組み立てた。ここで公開の星読みを差し向ける。人々の前で「運命は読み替えられる」と示す。だが彼女の術は条件を持つ。「当事者全員の同意で読み替える交渉能力」──古い文書や伝承の矛盾を暴き、関係者が納得の上で文言を再定義することで初めて効力を持つ。顔に出さずとも、聴衆の間にあるのは同意ではなく、操作された同調だ。教会と伯爵家、幾つかの有力商会が糸を引いている。

「同意が得られるか?」リオラが低く尋ねた。彼女の声は、遠くの喧騒に飲まれないよう工夫されていた。

「得る。――この場の民の、いくつかの代表には得られる」アイリスは言った。答えには確信が混じっていたが、自分が抱えている三本の銀糸のうち、ひとつを消費する覚悟はまだない。誰かを強制することはできない。強制すれば代償がくる。代償はいつも、選択肢の喪失を意味した。

演壇で、マルセルが巻物を高く掲げた。「星々が語る。王はこの血から現れる。民よ、我らが守らねばならぬはその意志だ!」群衆からは賛同の声が上がり、拍手が波打つ。袖口から出した白い手が、太陽を受けてそびえた。

アイリスは前に歩み出た。布張りの簡易壇に腰をかけ、地べたに敷いた円い絵板に粉を撒き、暗い紺色の布で天を書き始める。彼女の小さな声は最初、聞き取れないようだった。だがその声は確実に、目の前の一人一人に届く。

「星は、丸く並んでいるだけではありません。星自体が意味するのではなく、我々がどう読むかで意味は変わる」アイリスは手早く、しかしていねいに幾つかの節を指さした。粉が指の腹の温度で湿り、紺布に白い線が残る。演壇の上のアストロラーベと対を成すように、彼女は小さな真鍮の円盤を取り出し、縁に刻まれた記号を指差した。

セドリックが群衆に向かって、小さい型抜きの札を配らせる。これが今日の手続きだ。参加の印として、代表はこの札を小さな箱に入れる。アイリスは言葉にした。「ここに入れるのは、同意の印。読み替えを進めてもよいと認める意思表示です。誰かの代わりにここに入れる者がいれば、それは強制です。強制のもとでは私の読み替えは効きません――効かせるために、私は別の手段を取るしかありません」。

観衆は札を箱に落とす。音が散らばり、箱の中で銀貨のように音を立てる。最初の数は自然な誠実さを伴っていた。古ぼけた商人が、若者が、母親が、自分の手で札を入れる。アイリスはその都度、彼らの目を見つめ、目線を返す。合意の輪が、その小さな行為によって増えていくことを確認する。

だが、反対側の演壇から怒声が上がる。マルセルの侍従と思しき男が、壇に飛び上がり、青いローブを後ろ手に引き裂いて「偽りだ」と叫ぶ。巻物を奪い取ろうとする。集団がざわめき、同調の波が割れる。数人の先導者が群衆を煽り、「王の意志を汚すな」と拳を振るう。

セドリックが叫んだ。「そいつらが強制を掛けている!その証拠だ!」だが声は掻き消され、マルセルは笑って見せるだけだった。彼らはただ口先で同意を装えば十分だと知っていた。彼らの目的は、手続きの表面だけを満たすことだ。形式だけで人々の心を押さえつける──そこで彼らは勝つ。

アイリスは箱の蓋を閉じる。そして、群衆に向かって手を広げた。掌の中に暖かい感触がある。リオラが身を寄せ、耳を傾ける。

「私はここで、読み替えを実行します。だが条件はひとつ――この読み替えが『強制』で汚されているかどうかを、皆で認めること。もし強制があったなら、その強制の元を断ち切る『手続き』を、我々がそれぞれの力で実行するという同意を得ます」彼女の声は低く、震えない。人々の顔に、少しずつ戸惑いが走る。

「つまり、お前は民に判断させるのか」マルセルが侮蔑の笑みを浮かべて叫んだ。「王の運命を民に委ねるのか。愚かな女よ!」

その瞬間、演壇の奥から、低く鈍い拍子が鳴った。誰かが大きな鐘を二度撞いたのだ。群衆の視線がそちらへ流れ、自然と秩序が変わる。鐘の主は意外にも、地方から来た年老いた僧侶の一団だった。僧侶はゆっくりと前へ出て、白い手を胸に当てて誓いを立てる。彼らは、古い「聖務」の名の下に、今回の手続きが公正であることを保証すると宣言した。

その保証は無力だと見えるかもしれない。だが儀式の力というのは鈍い刃のように効く。集団の一部がほっと肩の荷を降ろす。小さな同意の輪が、確かに広がっていく。

アイリスは息を吐き、紺布に手を当てた。言葉を選び、まるで誰にも強制されないように、ゆっくりと星の配置を読み替え始める。舌先に味わうのは鉄の味。心臓が打つたびに、頭の中を幾つもの可能性が行き交う。彼女は「当事者」たちの顔を順に脳裏に浮かべ、その目の輝きに触れていった。幾人かは真摯な承認を返し、幾人かは疑念を浮かべ、幾人かは暴力の兆しを見せている――だが完全な統一は得られない。

「この読み替えは有効だ」――アイリスは口に出した。そう言い切った瞬間、演壇上のマルセルが巻物を奪い返し、声を張る。「あなたにはその資格はない!ここにいる全員の合意がない!」

周りの空気が歪んだ。合意が欠ければ読み替えは成り立たない。だが演壇の上で、マルセルが巻物を振るう力は圧倒的だ。群衆の一角で、誰かが怒鳴り、誰かが押し合い、声がまた渦を巻く。アイリスは腕に感じる振動で、次の選択を直感する――この瞬間に彼女が「強制」を行使すれば、マルセルの動きを止められる。だが代償は確実にくる。

彼女はリオラの目を見た。リオラは首を縦に振らない。仲間は彼女に押し付けるように期待はしない。けれど、誰かを止めな